Last Updated on 2026年7月29日 by oba3
米データセンター事業者のコア・サイエンティフィック(Core Scientific)が、AMDと人工知能向けインフラ契約を結んだ。2027年から米国内の5拠点で約530メガワットを提供し、将来は最大2.5ギガワットまで拡張できる構成である。初期契約は15年間で、同社は基本契約収益の可能額を140億ドル超としている。これはビットコイン採掘設備を単にAI用サーバーへ置き換える話ではない。電力、土地、変電設備、冷却能力を、暗号資産価格に連動する採掘収益から長期契約型のデータセンター収益へ振り替える動きである。
何が起きたのか?
コア・サイエンティフィックとAMDは2026年7月28日、AMDの人工知能関連顧客向けにデータセンター容量を確保する提携を発表した。AMDは2027年から500メガワットを超える米国内の設備を利用でき、条件が整えば全体を最大2.5ギガワットへ広げられる。
コア・サイエンティフィックの決算資料によると、契約の初期部分は5拠点、約530メガワット、15年間で構成される。同社はこの部分から得られる基本契約収益の可能額を140億ドル超としている。ただし、この数字は将来の設備完成、稼働開始、契約条件の履行を前提とした見積もりであり、すでに受け取った売上ではない。
両社は施設の物理設計に加え、AMDインスティンクト(AMD Instinct)GPU、EPYCプロセッサー、ROCmソフトウェアの導入で協力する。AMDは一定の商業条件に応じ、コア・サイエンティフィック株を市場価格で取得できる新株予約権も受け取る。
コア・サイエンティフィックはビットコイン採掘を完全に終了したわけではない。2026年第2四半期にも自己採掘と外部顧客向け採掘ホスティングから収益を計上している。一方、売上の中心はすでに高密度コロケーションへ移り、残る採掘施設についても条件が整う範囲で転用を進めている。
なぜ重要なのか?
ビットコイン採掘と人工知能計算は、どちらも大量の電力とデータセンター設備を必要とする。しかし、必要な施設仕様と収益の得方は同じではない。採掘収益はビットコイン価格、ネットワーク全体の計算能力、電力費、採掘報酬に左右される。人工知能向けコロケーションでは、顧客との契約期間、提供電力、設備稼働率、サービス料金が収益の中心になる。
今回の契約によって、コア・サイエンティフィックは電力資産の一部を15年間の契約へ結び付けられる可能性がある。暗号資産市場の変動に直接影響されやすい採掘収益から、長期の設備利用料を受け取る事業へ重心を移す構成である。
ただし、採掘用施設を人工知能向けへ転用するには追加投資が必要になる。高性能GPUを安定して動かすには、より高度な冷却、通信回線、電源の冗長化、保守体制が求められる。既存の土地と送電接続を持っていても、すべての採掘拠点を短期間でAIデータセンターへ変更できるわけではない。
市場構造への影響
暗号資産採掘会社が保有する重要資産は、採掘機だけではない。電力会社との契約、変電設備、建設許可、広い土地、送電網への接続権が、人工知能企業にとって価値を持つ。新しい大規模データセンターでは電力確保に時間がかかるため、すでに大容量電力を利用している採掘拠点は転用候補になりやすい。
コア・サイエンティフィックが530メガワットをAMD向けに割り当てれば、その電力を同時にビットコイン採掘へ使うことはできない。転用対象が自社採掘設備であれば同社の計算能力が減り、外部顧客向け施設であれば採掘ホスティングの供給が縮小する可能性がある。
同様の転換が複数事業者へ広がると、北米の採掘能力は電力価格だけでなく、人工知能事業者が提示する長期契約条件との比較で決まるようになる。ビットコイン採掘の採算が良好でも、AI向け契約がより安定した収益を提供すれば、施設所有者は電力を計算用途の異なる顧客へ振り向けることができる。
一方、人工知能データセンター市場では、半導体メーカーやクラウド企業がサーバーだけでなく、電力と施設容量を早期に確保する競争が強まる。AMDは今回、自社製品を購入する最終顧客へ利用可能な設備を提供する。半導体の供給競争が、土地、電力、冷却設備を含む導入基盤の競争へ広がっている。
資金・規制・流動性との関係
140億ドル超という基本契約収益は、15年間にわたる可能額であり、契約開始時に一括で入金される資金ではない。コア・サイエンティフィックは設備改修や建設を進め、契約上の容量を引き渡した後に利用料を受け取ることになる。
そのため、収益契約の規模だけでなく、設備を完成させるための資本支出と資金調達を見る必要がある。同社の2026年第2四半期の資本支出は約7億9750万ドルに達しており、土地、設備、開発権への投資が増えている。契約収益が長期であっても、建設費は稼働前に必要になる。
AMDが受け取る新株予約権は、設備利用契約と資本関係を接続する仕組みである。コア・サイエンティフィックの事業価値が拡大すればAMDが株式取得を通じて利益を得る余地が生まれる一方、既存株主にとっては将来の株式数増加につながる可能性がある。具体的な数量や行使条件は今後の開示を確認する必要がある。
長期契約は将来収益を予測しやすくするが、顧客集中という別のリスクも生む。特定企業やその顧客向けの容量が大きくなれば、導入延期、契約変更、技術世代の変化が施設稼働率へ与える影響も大きくなる。最大2.5ギガワットは拡張可能枠であり、全容量の利用が確定した数字ではない。
初心者向け補足
1ギガワットは1000メガワットである。今回の初期契約約530メガワットは、サーバーなどの情報技術設備へ供給する大規模な電力容量を示す。ただし、施設全体では冷却や照明にも電力を使うため、契約容量と電力会社から受ける総電力は一致しない場合がある。
コロケーションとは、顧客が所有または利用する計算機を、データセンター事業者の施設へ設置するサービスである。施設側は電力、冷却、通信、保守環境を提供し、顧客から長期の利用料を受け取る。
ビットコイン採掘施設を人工知能向けへ変える場合、建物をそのまま使えるとは限らない。人工知能用GPUは高密度で発熱するため、液体冷却、安定した通信、停止を防ぐ予備電源などの追加設備が必要になることがある。
Web3Timesの視点
今回の提携を最大2.5ギガワットという数字だけで評価すると、コア・サイエンティフィックの事業転換を見誤る。重要なのは、同社が保有する電力と施設を、採掘報酬を得る設備から、15年契約で計算能力を提供する設備へ振り替えている点である。
ビットコイン採掘では、自社が機器を保有して計算能力を投入し、得られる暗号資産の量と価格が売上を左右する。AI向けコロケーションでは、顧客が計算需要を持ち込み、施設事業者は電力容量と稼働環境を提供する。会社が負う価格リスク、設備リスク、顧客リスクの組み合わせが変わる。
今後追うべきなのは提携の最大値ではない。約530メガワットのうち、どの拠点が採掘から転用されるのか、建設費を誰が負担するのか、2027年に何メガワットが実際に稼働するのか、料金が固定か電力費連動かを見る必要がある。
同時に、転用によって停止する採掘機の量、自社採掘収益の減少、外部顧客との契約終了も確認対象になる。人工知能向け売上が増えても、設備改修費や採掘収益の減少を差し引かなければ、用途転換の経済性は判断できない。
コア・サイエンティフィックとAMDの契約は、暗号資産採掘会社が人工知能事業へ名前を変えたという話ではない。北米で確保済みの電力資産が、ビットコインのネットワーク維持と人工知能モデルの計算処理のどちらへ配分されるかを、長期収益契約が決め始めた事例である。
