Bitget侵害で約8300万ドル相当のXRPが移動、資産ごとの凍結設計がハッキング後の回収能力を分ける

Last Updated on 2026年9月27日 by oba3

暗号資産取引所ビットゲット(Bitget)の不正アクセス事件で、攻撃者が保有していた約8300万ドル相当のXRPが複数のウォレットから移動した。9月24日の侵害では約1億300万XRPが流出し、5つのアカウントへ分散されていたが、9月26日までにその半分を超える資金が動いたことがオンチェーン記録から確認されている。

今回の重要点は、リップル(Ripple)が対応しなかったことではない。XRPはXRPレジャー(XRP Ledger・XRPL)のネイティブ資産であり、そもそも発行者が特定アドレスを凍結する機能を持たない。一方、USDCやUSDTのような発行型ステーブルコインには発行者による凍結機能があり、同じハッキング資金でも事故後に取れる対応が資産設計によって大きく異なる。

目次

何が起きたのか?

ビットゲットでは9月24日にセキュリティー侵害が発生し、同社によると影響を受けた資産は約3億8750万ドル相当に達した。ビットゲットは攻撃経路と既存のセキュリティー制御を突破された方法を特定し、脆弱性を修正したとしている。マンディアント(Mandiant)とスローミスト(SlowMist)も調査に参加している。

流出資産のうち大きな割合を占めたのが約1億300万XRPだった。XRPは最初に5つのアカウントへ分けられたが、9月26日までに約5400万XRP、当時の価格で約8300万ドル相当が3つの保有ウォレットから移動した。

当初2000万XRPずつ保有していた2つのアカウントはほぼ空となり、別のアカウントでも残高が大きく減少した。5つの当初保有アカウントには合計で約7500万ドル相当が残っていると報じられている。

一方、事件に関連するUSDCとUSDTでは、サークル(Circle)とテザー(Tether)が合計約32万ドル相当を凍結した。ここでXRPとの対応差が明確になった。

なぜ重要なのか?

XRPLにはトークンを凍結する仕組みが存在する。ただし対象となるのは、企業や金融機関などがXRPL上で発行するトークンだ。発行者は必要に応じて特定の相手が保有する残高を凍結したり、全体を停止したりできる。

XRPはこれとは異なる。XRPはXRPL自体のネイティブ資産で、特定企業が発行する債務ではない。このためリップルを含め、特定主体がXRP残高を凍結したり、攻撃者のウォレットからの送金を停止したりする機能は存在しない。

この違いは、分散性の議論だけではなく事故後の資産回収に直接関係する。発行者が凍結権限を持つ資産では、ハッキングが確認された後にブラックリスト化して移転を遮断できる場合がある。一方、ネイティブ資産では、オンチェーン上を移動している限り中央の発行者による停止はできない。

市場構造への影響

今回の事件は、暗号資産の安全性を「ブロックチェーンが安全か」という一つの尺度だけでは評価できないことを示している。事故発生前のセキュリティーと、事故発生後に資金をどこまで止められるかは別の問題だからだ。

USDCやUSDTのような発行型資産では、発行会社という管理主体が存在する。その管理権限は検閲リスクにもなり得る一方、盗難、制裁、詐欺などが発生した際には資金移動を止める手段にもなる。

XRPや他のネイティブ暗号資産では、そのような単一の発行者権限を持たない設計が特徴になる。その代わり、盗難資金が中央集権型取引所へ入った時点で、その取引所が顧客アカウントを制限したり出金を停止したりすることが、回収手段の一つになる。

つまり資金遮断能力はブロックチェーンだけで決まらない。発行体、ウォレット、取引所、カストディアンという複数の層のうち、どこに管理権限が存在するかによって事故対応が変わる。

資金・規制・流動性との関係

ネイティブ資産を直接凍結できない場合、盗難後の資金追跡では中央集権型取引所などへの流入が重要になる。攻撃者がXRPを取引所へ送れば、その取引所は自社が管理するアカウントを制限できるためだ。

反対に、自己管理型ウォレット間でXRPが移動し続ける限り、リップルが台帳上の取引を止めることはできない。このためオンチェーン分析企業や取引所間で攻撃者アドレスを共有し、資金がカストディ型サービスへ入った地点で対応する必要性が高まる。

発行型ステーブルコインでは対応経路が異なる。発行体自身が対象アドレスをブラックリストへ追加できれば、中央集権型取引所へ到達する前でもトークンの移動を制限できる。今回サークルとテザーが関連資金を凍結できたのは、この資産設計の違いによる。

ただし凍結機能があれば常に優れているという話ではない。発行者による操作能力を残せば、規制対応や盗難対策に使える一方、利用者は発行者の判断や法的命令によって資金を止められる可能性も受け入れることになる。

初心者向け補足

XRPとXRPL上で発行されるトークンは同じものではない。XRPはXRPLを動かすためのネイティブ資産で、特定企業が後から発行したトークンではない。

一方、企業がXRPL上で発行するステーブルコインやその他のトークンには発行者がいる。XRPLには、こうした発行者が自分の発行したトークンを特定の相手に対して凍結できる機能が用意されている。

そのため「XRPLには凍結機能があるのに、なぜ今回のXRPを止められないのか」という疑問が生じるが、凍結機能の対象が異なる。XRPLの公式仕様でも、ネイティブ資産であるXRPは誰も凍結できないと明記されている。

ただしXRPを取引所へ預ければ状況は変わる。取引所は利用者の代わりに資産を管理しているため、その内部口座を停止することはできる。ブロックチェーン上での凍結と、カストディアンによる口座停止は別の仕組みだ。

Web3Timesの視点

今回を「リップルが8300万ドルのXRPを凍結できなかった」という企業対応の問題として読むと、本質を取り違える。リップルにXRPを凍結する権限がないこと自体がXRPLの設計であり、今回の事件ではその設計上の特徴が事故対応の局面で表面化した。

暗号資産では分散性が高いほど優れている、あるいは凍結機能があるほど安全だという一方向の評価は難しい。管理者が資金を止められないことは自己主権性を高める一方、盗難後にも攻撃者を止めにくい。発行者が凍結できる設計は回収手段を増やす一方、その発行者に強い権限を与える。

今後RWA、ステーブルコイン、トークン化預金が増えるほど、この違いはさらに重要になる。資産をトークン化する際には、裏付け資産や決済速度だけでなく、盗難、制裁、秘密鍵流出が起きた際に誰が何を止められるのかまで設計する必要がある。

金融機関にとっても、オンチェーン資産を採用する際の評価項目は取引速度や手数料だけではない。発行者凍結、カストディアン停止、スマートコントラクトの一時停止、取引所での遮断など、事故発生後に利用できる防御層を把握することが重要になる。

ビットゲット事件が示したのは、ハッキング後の資金回収能力も資産ごとのプロトコル設計によって異なるということだ。今後のオンチェーン金融では、「誰が資産を発行したか」だけでなく、「事故が起きたとき誰に止める権限があるのか」が、技術インフラを評価する重要な基準になっていく。

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