Last Updated on 2026年7月8日 by oba3
機関投資家向けのデジタル資産市場を運営するEDXマーケッツ(EDX Markets)は、SBIホールディングス(SBI Holdings)が主導するシリーズCで7600万ドルを調達した。調達資金は、取引、清算、決済機能の拡張に加え、商品開発とグローバル事業の拡大に充てられる。
今回の資金調達で注目すべきなのは、暗号資産そのものではなく、市場を動かす裏側の設備に大型資金が向かった点だ。機関投資家の参入には、売買画面だけでなく、注文執行、担保管理、清算、決済、カウンターパーティーリスクの管理まで含む仕組みが必要になる。EDXマーケッツへの追加投資は、こうした領域を巡る競争が本格化していることを示している。
何が起きたのか?
EDXマーケッツは2026年7月7日、7600万ドルのシリーズCを完了したと発表した。調達ラウンドを主導したのは、日本の金融グループであるSBIホールディングスだ。企業価値や株式の取得割合など、投資条件の詳細は現時点で公表されていない。
EDXマーケッツは、機関投資家専用の取引市場と中央清算機能を組み合わせたデジタル資産企業である。今回の資金は、取引機能だけでなく、清算と決済の処理能力を高め、金融機関が利用できる商品を増やすために使われる。あわせて、米国外を含む事業展開の拡大も計画している。
同社は、シタデル・セキュリティーズ(Citadel Securities)、フィデリティ・デジタル・アセッツ(Fidelity Digital Assets)、チャールズ・シュワブ(Charles Schwab)、ヴァーチュ・フィナンシャル(Virtu Financial)など、伝統金融に関係する企業から支援を受けてきた。2023年には現物市場を開始し、その後は中央清算機能や海外向け市場の整備を進めている。
なぜ重要なのか?
暗号資産市場では、個人向け取引所の知名度が高い一方、機関投資家が必要とする取引環境は個人向けサービスとは異なる。大口注文を安定して執行できる流動性、取引相手の信用リスクを抑える清算機能、監査に対応できる記録管理などが求められるためだ。
EDXマーケッツは、取引所が顧客資産を直接保管しながら売買を仲介する一般的な暗号資産取引所とは異なり、取引と資産保管を分ける設計を重視している。中央清算機関を間に置くことで、取引参加者同士の債権と債務を整理し、決済時のリスクを抑える考え方だ。
この仕組みは、株式や先物などの伝統金融市場で使われてきた市場設計に近い。SBIが7600万ドルを投じる背景には、暗号資産を既存金融と異なる特殊な商品として扱うのではなく、金融機関が既存の管理基準に沿って参加できる市場へ組み込む狙いがあるとみられる。
市場構造への影響
今回の調達により、機関投資家向け市場では、取引量や取扱銘柄数だけでなく、清算と決済の完成度を競う段階が一段進む。市場参加者が増えても、決済の失敗や取引相手の破綻に対処できなければ、大規模な資金は継続的に入りにくい。EDXマーケッツはこの問題に対し、伝統金融型の分業モデルを持ち込もうとしている。
競争相手になるのは、暗号資産取引所だけではない。カストディ企業、プライムブローカー、銀行、証券取引所、マーケットメーカーも、機関投資家向けの注文、担保、清算、決済を取り込もうとしている。どの企業が最も多くの機能を持つかより、複数の金融機関を安全に接続できるかが重要になる。
EDXマーケッツが調達資金を使って商品と地域を拡大すれば、金融機関は自社で暗号資産取引システムを一から構築せず、外部の基盤を利用して顧客向けサービスを提供しやすくなる。その結果、機関投資家向け市場では、表に見える取引所ブランドよりも、背後で注文や決済を処理する事業者の影響力が大きくなる可能性がある。
資金・規制・流動性との関係
7600万ドルという調達額は、機関投資家向けデジタル資産インフラの構築に継続的な資本が必要であることを映している。高速な注文処理システムだけでなく、清算、担保、法令対応、監視、サイバーセキュリティーを複数地域で維持するには、多額の開発費と運営費がかかる。
SBIにとっては、単なる未上場企業への投資にとどまらない。グループが展開する証券、銀行、暗号資産、ステーブルコイン関連事業と、EDXマーケッツの機関向け基盤を組み合わせられる余地がある。具体的な提携商品や接続計画は公表されていないものの、取引から決済までをまたぐ事業連携が今後の注目点になる。
規制面では、機関投資家が参加するほど、顧客資産の分別、取引監視、価格形成の透明性、清算機関の財務健全性が厳しく問われる。資金調達によって技術開発を進めるだけでは十分ではなく、各国の制度に合わせたライセンス取得と管理体制の構築が必要だ。
流動性についても、資金調達だけで直ちに厚くなるわけではない。マーケットメーカー、銀行、ヘッジファンドなどが継続して注文を出し、複数の市場から価格と資産を集められるかが重要になる。今後は、参加企業数、取引高、対応資産、決済時間などが事業の実効性を測る材料となる。
初心者向け補足
中央清算とは、売り手と買い手が直接決済する代わりに、清算機関が両者の間に入る仕組みだ。清算機関は取引後の支払額や受取額を計算し、必要に応じて担保を管理する。これにより、一方の参加者が支払いを履行できない場合の影響を抑えやすくなる。
機関投資家向け市場では、一度の取引額が大きいため、小さな決済トラブルでも損失が拡大しやすい。そのため、価格の安さだけでなく、取引後に資産と代金を確実に受け渡せるかが重視される。EDXマーケッツが調達資金を清算と決済へ振り向けるのは、この部分が大口資金の参加条件になるためだ。
ただし、大手金融企業が出資していることや、中央清算機能があることだけで、すべてのリスクがなくなるわけではない。取引する資産の価格変動、システム障害、規制変更、清算参加者の信用状態などは別に確認する必要がある。
Web3Timesの視点
今回のニュースは、機関資金が暗号資産へ直接流れ込んだという話ではない。資金が向かった先は、機関投資家が取引するための市場設備である。これは、投資対象としての暗号資産だけでなく、取引を成立させる清算、決済、担保管理が独立した事業領域になっていることを表している。
個人向け市場ではアプリの使いやすさや手数料が競争軸になりやすい。一方、機関向け市場では、注文の秘匿性、約定品質、資本効率、決済の確実性、規制対応が評価される。EDXマーケッツが7600万ドルをどこへ配分するかによって、競争優位の輪郭も変わる。
SBIの参加によって、EDXマーケッツはアジアの金融機関との接点を広げる余地を得た。現時点では具体的な導入企業や提供地域は未公表だが、取引、清算、決済を一体で提供できれば、金融機関がデジタル資産市場へ参入する際の初期負担を下げられる。
これから見るべきなのは、調達額そのものより、どの金融機関が市場参加者となり、どの資産が清算対象に追加され、どの地域でサービスが認可されるかだ。機関投資家向け暗号資産市場の競争は、取引所の数を増やす局面から、信頼できる市場基盤を誰が標準化するかを争う局面へ入っている。
