Last Updated on 2026年7月8日 by oba3
日本企業の間で、ビットコイン(Bitcoin・BTC)やエックスアールピー(XRP)を財務戦略に取り入れる動きが広がっている。SBI VCトレード(SBI VC Trade)は、近年の円安基調を背景に、暗号資産を保有・活用する法人によるサービス利用が増えていると説明した。
企業による暗号資産の利用目的は、価格上昇だけを狙うものに限らない。円建て現金への集中を避ける資産分散、株主優待としての暗号資産配布、保有資産の運用など、複数の用途が現れ始めている。円の購買力低下が意識されるなか、企業財務の選択肢に暗号資産が加わりつつある。
何が起きたのか?
SBI VCトレードは2026年7月7日、同社の暗号資産サービスにおける登録口座数が200万口座を超えたと発表した。この数字には、VCTRADEとビットポイント(BITPOINT)の口座が含まれており、2025年時点の約100万口座からほぼ倍増した。
口座増加には、2026年4月に完了したビットポイントジャパンとの合併も影響している。ただし、同社は個人利用だけでなく、法人・大口顧客向けサービスの利用拡大も要因として挙げた。特に円安が続くなか、企業財務を多様化する目的で暗号資産を保有する法人が増えているという。
具体的な用途として示されたのが、ビットコインやXRPの保有と活用だ。株主優待として暗号資産を配布する企業からの利用も増加している。すべての日本企業が財務資産として暗号資産を購入しているわけではないが、法人利用が取引所の独立した顧客層になり始めていることは確認できる。
一方、今回の発表では、法人顧客数、企業による購入総額、ビットコインとXRPの保有割合、保有期間などは公表されていない。現時点で判明しているのは、円安を背景とした財務分散や株主還元を目的に、法人向けサービスの需要が伸びているという点までだ。
なぜ重要なのか?
日本企業の財務資産は、円預金や国内債券など円建て資産を中心に構成されることが多い。しかし円安が進むと、輸入費用や海外サービスの利用料が上昇し、円で保有する現金の対外的な購買力も低下する。
こうした環境では、企業が余剰資金を一つの通貨だけで保有することへのリスクが意識されやすい。外貨預金、海外債券、金などに加え、暗号資産を候補として検討する企業が現れる背景には、この為替リスクがある。
ただし、ビットコインやXRPは円安と常に反対方向へ動く資産ではない。価格は世界の金融政策、投資家心理、規制、暗号資産市場の需給にも左右される。そのため、円安対策として保有すれば損失を回避できるという単純な関係ではなく、企業が保有資産を分散する際の一要素として位置付ける必要がある。
市場構造への影響
法人の暗号資産利用が増えると、国内取引所に求められる機能も個人向け売買から変わっていく。企業は大量注文の執行だけでなく、社内承認、複数担当者による管理、取引履歴の保存、会計処理、監査対応、安全な保管を必要とする。
SBI VCトレードが法人・大口向けのSBIVCフォープライム(SBIVC for Prime)を展開しているのも、こうした需要に対応するためだ。法人顧客を獲得する競争では、取扱銘柄数や手数料だけでなく、財務部門が既存の管理手続きに組み込めるかが重要になる。
さらに、企業が株主優待として暗号資産を配布すれば、それまで暗号資産を保有していなかった株主にもウォレットや取引口座との接点が生まれる。企業保有と株主還元が組み合わさることで、暗号資産は投資対象だけでなく、企業と株主をつなぐデジタル資産として使われる余地が広がる。
資金・規制・流動性との関係
企業がビットコインやXRPを取得すれば、円建ての企業資金の一部が暗号資産市場へ移る。ただし、公表されている法人全体の購入額は限られており、現段階で国内企業から大規模な資金流入が発生したと断定することはできない。
企業財務として定着するかどうかは、会計、税務、監査、保管体制に左右される。暗号資産は価格変動が大きく、保有後の評価や売却時の損益管理も必要になる。取締役会が購入目的、上限額、保有期間、損失時の対応を定めなければ、余剰資金の運用ではなく企業全体の財務リスクになりかねない。
国内ではステーブルコインの選択肢も増えている。SBI VCトレードは米ドル連動型のユーエスディーコイン(USD Coin・USDC)に加え、アールエルユーエスディー(RLUSD)や円連動型のジェイピーワイエスシー(JPYSC)を取り扱っている。価格変動の大きい暗号資産とステーブルコインを用途に応じて使い分ける環境が整えば、法人利用は保有だけでなく送金、決済、資金管理へ広がる可能性がある。
初心者向け補足
企業財務とは、企業が事業で得た現金や借入金を管理し、支払い、投資、資金調達に配分する活動を指す。暗号資産を財務資産として保有する場合、企業は事業に必要な資金とは別に、一定額をビットコインなどへ振り向ける。
ビットコインは発行上限が定められているため、法定通貨の価値低下を意識する投資家から保有されることがある。XRPは送金や決済に関係するネットワークで利用されており、日本ではSBIグループとの関係を通じて法人や個人に認知されてきた。
両資産は性質が異なり、価格が大きく変動する点には注意が必要だ。円安への備えを目的にしても、購入後に暗号資産価格が下落すれば、円換算した資産価値が減少する場合がある。企業が採用する際には、為替リスクと暗号資産固有のリスクを分けて管理する必要がある。
Web3Timesの視点
今回の発表から読み取れるのは、日本企業が一斉に暗号資産へ資金を移しているという状況ではない。より重要なのは、円建て現金を保有し続けることにもリスクがあると考え、財務資産の組み合わせを見直す企業が増えていることだ。
これまで企業の暗号資産保有は、ビットコインを大量に購入する上場企業の事例を中心に語られてきた。しかし日本では、少額の分散保有、株主優待、ステーブルコインの利用、レンディングなど、企業ごとに異なる導入方法が現れている。すべての企業が暗号資産財務会社になるのではなく、必要な機能だけを部分的に採用する形が日本市場では現実的だろう。
今後の焦点は、法人の口座数や購入額が開示されるか、保有目的が資産防衛から決済や送金へ広がるか、企業がリスク管理方針をどこまで明確に示すかにある。円安が暗号資産への関心を高める入口になっても、継続利用を決めるのは価格ではなく、会計処理、安全な保管、社内統制を含む法人向け基盤の完成度である。
