Last Updated on 2026年7月15日 by oba3
英国歳入関税庁(HM Revenue and Customs・HMRC)は、暗号資産のDeFi融資や流動性プールへの提供について、新たに課税繰延の扱いを導入する方針を示した。対象となる取引では、利用者が暗号資産を貸し出したり、流動性プールへ預け入れたりした時点では直ちにキャピタルゲイン課税を発生させず、実際に経済的な処分が行われた時点で課税する方向となる。
この変更は、DeFi利用者にとって大きい。従来の税務上の扱いでは、資産を売却していなくても、プロトコルへ預け入れる行為が処分と見なされる場合があり、現金収入がないのに税金だけが発生する問題があった。英国の新方針は、オンチェーン金融の実態に税制を近づける動きといえる。
何が起きたのか?
英国政府は、一定の暗号資産融資と流動性提供について、ノーゲイン・ノーロスと呼ばれる税務処理を適用する方針を打ち出した。これは、対象となる取引では、その時点で利益も損失も認識しないという考え方である。
対象には、暗号資産を貸し出す取引や、分散型取引所などの流動性プールへ資産を提供する取引が含まれる。新ルールは2027年4月6日から適用される予定で、個人や信託が関わる一定の取引が対象になるとされている。
これまでDeFiでは、利用者が資産をプロトコルに預け入れただけでも、税務上は資産を処分したと見なされる場合があった。その結果、利用者は売却益を実現していないにもかかわらず、課税イベントの記録、評価額の算定、損益計算を求められることがあった。
今回の変更により、条件を満たす場合、課税は利用者が実際に経済的な利益や損失を確定させる時点まで繰り延べられる。ただし、すべてのDeFi取引が対象になるわけではない。どの取引が適格になるか、借入資産の評価、報酬部分の扱い、プロトコルごとの条件は、実務上の確認が必要になる。
なぜ重要なのか?
DeFiの利用では、資産の移動が非常に多い。貸付、借入、流動性提供、報酬受け取り、ポジション調整、引き出しなどがオンチェーン上で頻繁に発生する。これらをすべて通常の売却と同じように扱うと、利用者の税務負担は非常に重くなる。
特に問題だったのは、現金化していない段階で課税される可能性があることだ。利用者が暗号資産を売って法定通貨を得たわけではないのに、プロトコルに預け入れた時点で課税対象とされれば、税金を支払うために別の資産を売却しなければならない場合もある。
英国の新制度は、この摩擦を軽減する。DeFiを投機的な抜け道として扱うのではなく、実際の経済的な処分が起きた時に課税する考え方へ寄せることで、利用者と税務当局の双方にとって記録管理をわかりやすくする狙いがある。
市場構造への影響
税制は、DeFi市場の成長に大きく影響する。技術的に利用できるサービスであっても、税務処理が複雑すぎれば、一般利用者や機関投資家は参加しにくい。会計処理、損益計算、税務申告の負担が下がれば、DeFi融資や流動性提供はより制度内の金融行為として扱いやすくなる。
今回の英国の方針は、オンチェーン金融を禁止するのではなく、既存の税制に合わせて整理しようとするものだ。これは、DeFiを完全に自由な領域として放置する考え方とも、過度に抑え込む考え方とも異なる。利用実態を認めたうえで、どの時点で課税すべきかを調整する制度設計である。
市場構造としては、DeFiプロトコル、税務ソフト、カストディ事業者、ウォレット、会計サービスの重要性が高まる。税務ルールが明確になれば、事業者は利用者向けに損益計算や取引履歴の出力機能を整えやすくなる。オンチェーン取引と税務申告をつなぐインフラが競争領域になる。
資金・規制・流動性との関係
課税繰延は、DeFiへの資金参加を後押しする可能性がある。融資や流動性提供を行うたびに課税イベントが発生する不安が小さくなれば、利用者は資産をプロトコルへ預けやすくなる。結果として、貸付市場や流動性プールに入る資金が増え、取引や借入の厚みが増す余地がある。
ただし、税制整備はDeFiのリスクを消すものではない。スマートコントラクトの不具合、価格変動、清算、インパーマネントロス、プロトコル運営者の問題、オラクル障害などは引き続き存在する。税務負担が下がっても、金融リスクと技術リスクは別に管理する必要がある。
規制面では、英国がDeFiを実務に合わせて扱い始めたことが重要である。課税ルールが明確になれば、規制当局は利用実態を把握しやすくなる。利用者も、何が課税対象で、何が繰延対象なのかを理解しやすくなる。制度化とは、単に自由に使えるようにすることではなく、申告と監督の前提を整えることでもある。
流動性の観点では、税務の不確実性が下がるほど、資金はオンチェーン市場へ入りやすくなる。ただし、実際の資金流入は、利回り水準、規制対応、主要プロトコルの安全性、会計ツールの整備、機関投資家の内部基準によって左右される。
初心者向け補足
DeFi融資とは、銀行を介さずに暗号資産を貸したり借りたりする仕組みである。利用者はスマートコントラクトに資産を預け、借り手は担保を差し入れて資産を借りる。貸し手は利息に相当する報酬を受け取る場合がある。
流動性提供とは、分散型取引所などに二つ以上の資産を預け、他の利用者が交換できるようにする行為である。流動性を提供した人は、取引手数料の一部や報酬を受け取ることがある。一方で、預けた資産の価格差が変わると、単に保有していた場合より不利になるインパーマネントロスが発生することもある。
課税繰延とは、税金がなくなるという意味ではない。課税される時点を後ろにずらす仕組みである。英国の新しい扱いでは、一定のDeFi取引について、預け入れ時ではなく、実際に資産を経済的に処分した時に課税する考え方が採用される。
Web3Timesの視点
英国のDeFi課税繰延は、オンチェーン金融の制度化において重要な一歩である。DeFiを使うたびに税務上の処分が発生するなら、一般利用者にも機関投資家にも使いにくい。税制が実態に近づくことで、DeFiは実験的な領域から、管理可能な金融サービスへ近づく。
今回のポイントは、税金を軽くすることだけではない。どの時点で利益が実現したと見るのかを明確にすることで、利用者、事業者、税務当局の間に共通の前提が生まれる。これは、市場の信頼を作るうえで欠かせない。
今後の焦点は、対象となる取引範囲がどこまで広がるかである。レンディング、流動性提供、ステーキング、報酬トークン、再投資、複数チェーンをまたぐ運用では、税務上の扱いがさらに複雑になる。英国が実務に合わせた詳細ルールを整えられれば、DeFi事業者にとって制度対応のしやすい市場になる可能性がある。
DeFi市場の成長は、利回りや総預かり資産だけで決まらない。税務、会計、記録管理、利用者保護がそろって初めて、一般金融との接続が進む。英国の今回の方針は、オンチェーン金融を制度の外に置くのではなく、使える前提で整理する方向へ一歩進んだことを示している。
