ロシア中銀が組織的な暗号資産取引と保管の初期規則を公表、認可事業者への記録集約が市場参加の条件を変える

Last Updated on 2026年7月29日 by oba3

ロシア中央銀行(Bank of Russia)が、暗号資産とデジタル権利を組織的に取引する市場の開始に向け、最初の規則案を公表した。取引所が売買ルールを定め、市場価格や加重平均価格を算出する一方、デジタル保管機関が顧客、資産、アクセス権、口座の記録を管理する。制度は2026年9月1日に施行される暗号資産流通法を支えるもので、規則案はまだ最終確定していない。今回見るべきなのは、ロシアが暗号資産を全面解禁したかではない。取引記録と資産保管を担う主体を登録制の基盤へ集め、誰が国内市場へ接続できるかを管理する制度設計である。

目次

何が起きたのか?

ロシア中銀は2026年7月27日、暗号資産市場を始動させるための初期的な規則案を公表した。対象には暗号資産のほか、ロシア法に基づいて発行されるデジタル金融資産などのデジタル権利が含まれる。

組織的な取引では、取引所が商品の取扱条件、注文方法、参加者の手続きなどを規則として定める。取引所は売買記録を基に市場価格と加重平均価格を算出する役割も担う。価格指標を規制下の取引基盤が作ることで、顧客評価、担保管理、会計、監督に利用できる共通の参照値を整える狙いがある。

同時にロシア中銀は、暗号資産やデジタル権利の保有記録を管理するデジタル保管機関の要件を示した。最低自己資本は事業内容に応じて5000万ルーブルから2億5000万ルーブルとされる。公開型の分散台帳へ接続するか、外部保管先を利用するか、取引後の決済を担うかによって必要額が変わる。

保管機関の自己資本に算入する財産には流動性が求められ、金融資産には一定の信用力が必要となる。ロシア中銀はデジタル保管機関の登録簿を管理し、顧客情報、資産情報、システムへのアクセス権、デジタル口座の開設と維持に関する記録方法も定める。

規則案は規制影響評価のために公開された段階であり、正式な内容は意見募集や制度調整を経て変わる可能性がある。一方、暗号資産流通法は9月1日の施行が予定され、市場参加者には2027年7月1日までの移行期間が設けられている。

なぜ重要なのか?

新制度は、暗号資産の保有や売買を無条件で自由化するものではない。投資家は認められた仲介事業者を通じて取引し、取引所と保管機関が注文、残高、資産移転を記録する構成になる。

一般投資家は試験に合格したうえで、流動性が高いと認められた暗号資産を、一つの仲介事業者につき年間30万ルーブルまで購入できる。適格投資家も試験が必要だが、対象資産や金額の制限はより緩い。投資家区分と仲介経路によって参加条件を変える制度である。

暗号資産をロシア国内の支払い手段として使うことは引き続き禁止される。制度化されるのは主として投資、交換、保管、記録の市場であり、ルーブルに代わる日常決済の解禁ではない。

一方、輸出入企業による越境決済では暗号資産の利用が認められ、仲介事業者を使う方法と直接ウォレットを使う方法の双方が想定されている。国内投資市場では管理された取引基盤を整えながら、国際取引では別の利用経路を残す二層構造となる。

市場構造への影響

制度の中心となるのは、暗号資産そのものより、取引履歴と保有権を誰が記録するかである。公開ブロックチェーン上ではアドレスごとの残高を確認できても、そのアドレスがどの顧客に属し、どの仲介事業者を通じて取得され、どの規制区分で保有されているかまでは分からない。

デジタル保管機関は、このオンチェーン記録と法的な顧客記録を結び付ける役割を持つ。証券市場の保管振替機関に近い原則を導入し、顧客別残高、権利移転、アクセス権、取引後の決済を帳簿上で管理する。

この仕組みが定着すれば、ロシア国内の暗号資産取引は、海外交換所や個人間取引へ分散した状態から、登録された取引所、ブローカー、運用会社、保管機関へ集まりやすくなる。価格形成と顧客記録が認可基盤へ集約されれば、監督当局は取引量、保有状況、資金移転を把握しやすくなる。

反対に、自己資本、監査、システム管理へ対応できない小規模事業者は、国内市場への参加が難しくなる可能性がある。最低資本要件は顧客資産を守るための損失吸収力を確保する一方、既存の銀行、証券会社、大規模な金融技術企業に有利に働くことも考えられる。

市場価格を取引所が算出する制度も重要となる。公式な価格指標が作られれば、投資商品の評価や税務処理に使いやすくなるが、取引量が少ない段階では一部の市場参加者の注文が指標へ与える影響が大きくなる。価格算定に使う取引、異常値の除外、市場操作の監視方法を確認する必要がある。

資金・規制・流動性との関係

デジタル保管機関に求める自己資本は、一律ではない。取引後の決済を行う事業者には最大2億5000万ルーブル、暗号資産アドレスを管理したり海外の保管事業者へ資産を預けたりする場合にはより高い要件が設定される見通しである。単に残高を記録する事業者より、秘密鍵や決済へ直接関与する事業者へ重い責任を負わせる考え方だ。

顧客資産の保管では、ブロックチェーン上の秘密鍵管理と、法的な権利記録の双方が必要になる。保管機関が外部ウォレットや外国事業者を利用する場合、秘密鍵の所在、資産回収の手続き、障害時の責任分担が制度上の課題となる。

取引が認可基盤へ集まれば、ルーブルから暗号資産への資金移動や、暗号資産から証券、デジタル金融資産への交換を同じ仲介網で処理できる可能性がある。法律は暗号資産とロシア法に基づく証券やデジタル商品を交換する経路も想定しており、異なる資産市場を登録事業者の帳簿で接続する方向を示している。

ただし、制度導入だけで十分な流動性が生まれるとは限らない。一般投資家の年間上限、取扱資産の選定、外国市場との価格差、マーケットメーカーの参加条件によって、注文板の厚みは変わる。規制された国内市場の価格が海外市場と大きく離れれば、価格指標としての信頼性も弱くなる。

また、外国のステーブルコインにも暗号資産と同様の要件が適用される。発行体が海外にあり、準備資産や償還手続きがロシアの監督外にある場合、国内保管機関がどこまで価値と償還可能性を確認するかが問題になる。

初心者向け補足

組織的取引とは、取引所があらかじめ定めた規則に従い、複数の参加者から注文を集めて売買を成立させる仕組みである。個人同士が直接ウォレットから送金する取引とは異なり、注文記録や価格算定を取引所が管理する。

デジタル保管機関は、暗号資産そのものを発行する組織ではない。誰がどの資産を保有しているかを記録し、秘密鍵や外部保管先、取引後の資産移転を管理する事業者である。

自己資本要件は、事業者が顧客から預かった資産と同額の現金を常に持つという意味ではない。システム障害、不正流出、運営損失などが起きた際に、事業を継続し損失を吸収するための財務基盤を求める規則である。

Web3Timesの視点

今回の規則案を、ロシアが暗号資産を解禁したという一言で整理すると、制度の実態を見誤る。国内決済への利用は禁止されたままであり、一般投資家には試験と購入上限が設けられる。拡大するのは自由な利用範囲ではなく、認可された市場内で売買と保管を管理する仕組みである。

ロシア中銀が重視しているのは、暗号資産の分散性より、取引主体を識別できる記録である。取引所が価格と注文を管理し、デジタル保管機関が顧客別の権利を記録し、仲介事業者が投資家の適格性を確認する。公開ブロックチェーンの外側に、証券市場に近い管理層を置く構成だ。

今後確認すべきなのは、暗号資産を買えるようになったかだけではない。どの事業者が取引所と保管機関の登録を取得するのか、顧客資産を会社財産からどう分離するのか、海外ウォレットへの移転をどこまで認めるのか、公式価格をどの取引から算出するのかが重要になる。

この制度が定着すれば、ロシアの暗号資産市場は匿名性の高い分散市場から、取引、保管、顧客確認を認可主体へ集める市場へ近づく可能性がある。参加者にとっての変化は暗号資産の存在が合法になることではなく、どの経路を通れば保有と売買が法的に記録されるのかが明確になる点にある。

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