Last Updated on 2026年9月28日 by oba3
イーサリアム(Ethereum)共同創設者のヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏が、2030年へ向けたEthereumの長期的な技術像を示した。2027年を目標とするHegotá以降は、従来型の大型アップグレードを積み重ねるだけではなく、再帰STARK、形式検証、耐量子暗号などをプロトコルの中核へ組み込み、ブロックチェーンと暗号証明を一体化した基盤へ発展させる構想だ。
重要なのは、Ethereumを単純に高速化するロードマップではないことだ。現在は各ノードが大量の計算や署名を直接検証しているが、暗号証明を使って多数の処理をまとめて証明できれば、検証者が確認すべき情報量そのものを減らせる。性能、安全性、検証コストを同時に設計し直すことが、2030年へ向けた次の競争軸になっている。
何が起きたのか?
ブテリン氏は9月27日に示した長期構想で、HegotáをEthereumにとって最後の一般的な大型フォークの一つになる可能性があると説明した。その後は、再帰STARKによる暗号証明、ソフトウェアを数学的に検証する形式検証、量子コンピューターに耐える署名方式などがプロトコル設計の中心へ移るとの見方を示している。
Hegotáは現在2027年を目標として計画されており、取引検閲への耐性を高めるFOCILや、新しいアカウント設計につながるFrame Transactionsなどが検討されている。ただしHegotá自体の仕様はまだ確定しておらず、候補となる多数の改善案についてEthereum Foundationの開発チームが優先順位を整理している段階だ。
その先で重要になる技術の一つが再帰STARKだ。多数の署名や暗号証明を一つの証明へまとめることで、ブロックを検証する側が個別の処理をすべて直接確認する必要を減らす。現在提案されているEIP-8288でも、量子耐性署名やSTARKを一つの再帰STARKへ集約し、ブロックレベルで検証する設計が示されている。
耐量子化についても具体的な期限が設定されている。Ethereum Foundationのプロトコル部門は、Ethereum L1の実行、コンセンサス、データの各層を2029年12月までに量子耐性へ移行させる目標を掲げている。これは量子コンピューターによる攻撃が2030年にも起こり得るという厳しい前提を置き、早期に対応するための内部目標だ。
なぜ重要なのか?
現在のブロックチェーンでは、性能を高めるほど検証負荷が増えるという問題がある。ブロックへ多くの取引を詰め込めば、ノードが処理しなければならない計算量やデータ量も増えるため、高性能な機器を持つ参加者へ検証が集中しやすくなる。
再帰STARKは、この関係を変える可能性を持つ。大量の計算を実行した結果が正しいことを一つの暗号証明として提示できれば、検証する側は同じ計算を最初から繰り返す必要がない。Ethereumが処理する計算量を増やしながら、検証者側の負担を一定範囲へ抑える設計が可能になる。
ここで暗号技術は、単なるセキュリティー機能ではなく性能向上の手段にもなる。従来は暗号処理を追加すると計算コストが増えるという考え方が一般的だったが、証明を集約できれば、複雑な処理をまとめて検証することで全体の効率を高める方向へ変わる。
市場構造への影響
この変化を市場構造から見ると、Ethereumの競争軸が単純なTPSや手数料から、どれだけ低コストで正しさを検証できるかへ広がっていることが分かる。
金融市場では、取引を高速に実行することだけでなく、その取引が正しいことを第三者が低コストで確認できることが重要だ。トークン化株式、国債、ステーブルコイン、オンチェーン決済が拡大すると、処理件数だけでなく監査可能性と検証コストも金融インフラの性能になる。
再帰STARKがプロトコルへ深く組み込まれれば、L2やアプリが生成する証明をさらにまとめ、Ethereum側で効率よく確認する構造も作りやすくなる。Ethereum自身がすべての処理を直接実行するのではなく、外部で実行された計算の正しさを暗号的に確認する決済・検証層としての役割が強まる可能性がある。
また、形式検証が広がれば、プロトコル実装や暗号処理が仕様どおり動作することを数学的な方法で確認する範囲も広がる。資産規模が大きくなるほど、コードレビューだけでなく、重要な機能を形式的に証明できることがインフラの信頼性へ直結する。
資金・規制・流動性との関係
Ethereum上で扱われる資産が増えるほど、基盤そのものの障害や暗号技術の破綻が与える影響も大きくなる。現在はDeFiやステーブルコインだけでなく、国債、ファンド、株式などのRWAもオンチェーンへ移り始めているため、長期的な暗号安全性は金融資産の保管リスクとも結び付く。
特に量子コンピューターは、現在Ethereumで使われているECDSAやBLSなどの楕円曲線暗号へ将来的な脅威となる。Ethereumではバリデーター署名や利用者ウォレットの署名を量子耐性方式へ移行する研究が進められており、専用の研究チームや公開テスト環境も設けられている。
一方、量子耐性署名にはデータ量や検証コストが大きいという問題がある。そこで再帰STARKを利用して大量の署名を集約できれば、耐量子化によるコスト増加を抑えることができる。耐量子化と証明集約は別々の技術ではなく、同じ次世代設計の中で相互に関係している。
金融機関がEthereumを利用する場合も、この長期安全性は重要になる。数年から数十年にわたって保有される証券や資産をオンチェーン化するなら、現在の暗号方式が将来も安全かという問題を無視できないためだ。
初心者向け補足
STARKとは、大量の計算を実際にすべて見せなくても、その計算結果が正しいことを暗号技術で証明する方法の一つだ。たとえば100万件の処理を一つずつ再計算する代わりに、その100万件が正しく処理されたことを示す証明だけを確認するイメージに近い。
再帰STARKでは、その証明をさらに別の証明へまとめる。多数の証明を一つへ集約できるため、ブロックチェーン上で確認しなければならないデータ量や処理量を減らせる可能性がある。
形式検証は、ソフトウェアが設計どおり動くことを数学的な方法で確認する技術だ。通常のテストでは特定条件で問題が起きないことを確かめるが、形式検証ではプログラムの性質そのものを証明することを目指す。
耐量子化は、将来の量子コンピューターでも簡単に破られない暗号方式へ移行する取り組みだ。Ethereumが現在危険な状態にあるという意味ではなく、将来的な暗号技術の変化を想定して早期に移行準備を進めている段階となる。
Web3Timesの視点
今回の構想をEthereumの次の高速化計画として読むだけでは、変化の大きさを捉えにくい。重要なのは、Ethereumが取引を処理するブロックチェーンから、計算や金融取引の正しさを暗号証明で確認する基盤へ役割を広げようとしていることだ。
これまでのL1競争ではTPS、ブロック時間、手数料が比較されてきた。しかし証券、ステーブルコイン、決済、AIエージェントなどが同じデジタル基盤へ接続するようになると、単純に処理件数が多いだけでは不十分になる。誰でも低コストで状態を検証でき、暗号方式が長期間安全で、実装そのものの正しさまで確認できることが重要になる。
特に再帰STARKは、この複数の課題をつなぐ位置にある。スケーリングのための証明、量子耐性署名の集約、軽量な検証、将来的なzkEVMなどを同じ暗号基盤へまとめられれば、Ethereumの設計は現在とは大きく変わる。
ただし、2030年構想の多くはまだ研究や提案段階にある。Hegotáは2027年を目標としているものの仕様は確定しておらず、再帰STARK、より短いファイナリティ、完全な耐量子化なども本番導入の時期や方法が最終決定されたわけではない。
今後見るべきなのは、Ethereumが何TPSまで高速化するかだけではない。再帰STARKをどこまでプロトコル標準へ組み込み、形式検証によって実装リスクを減らし、2029年末を目標とする耐量子化を実現できるかである。これらが統合されれば、Ethereumは単なる分散型台帳ではなく、金融取引やデジタル資産の正当性を暗号証明によって検証する次世代の基盤へ近づくことになる。
