Last Updated on 2026年7月22日 by oba3
英国議会の暗号資産・デジタル資産に関する超党派議員連盟は、暗号資産企業が銀行口座や決済サービスへアクセスする際に直面する制限について調査を開始した。銀行による法人口座の開設拒否や閉鎖、暗号資産関連企業への送金制限などが、事業者、消費者、競争、技術革新へどのような影響を与えているかを検証する。
今回の焦点は、暗号資産企業を認可する制度が整うかどうかだけではない。規制要件を満たした企業であっても、給与支払い、顧客資金の入出金、取引先への送金に必要な銀行サービスを利用できなければ、英国で事業を拡大することは難しい。暗号資産市場と既存金融を結ぶ法定通貨の入口が、免許制度とは別の成長条件として浮上している。
何が起きたのか?
調査を開始したのは、英国の国会議員と上院議員で構成される暗号資産・デジタル資産超党派議員連盟である。政府の省庁や議会の常任委員会による正式な行政調査とは異なるが、業界関係者から証言や資料を集め、政府や規制当局へ提言を示す役割を持つ。
議員連盟は、暗号資産企業が法人口座を開設できない、既存口座を維持できない、決済や加盟店向けサービスを利用できないといった問題を調査対象に挙げた。銀行が特定の暗号資産企業への支払いを遮断したり、利用者の送金額へ上限を設けたりする事例についても、運用方法と妥当性を確認する。
調査では、銀行、金融技術企業、暗号資産事業者などから意見を集める見通しだ。制限が金融犯罪対策や消費者保護に照らして必要なものなのか、企業や利用者を一律に排除する過度な対応になっていないかが論点となる。
現時点では、特定の銀行に是正命令を出したり、口座提供を義務付けたりする決定が行われたわけではない。調査の回答内容、個別企業名、最終的な提言の公表時期など、詳細の一部は今後の発表を待つ必要がある。
なぜ重要なのか?
暗号資産企業が英国で営業するには、暗号資産に関する規制への対応だけでなく、通常の企業と同じように銀行口座や決済サービスを確保する必要がある。従業員への給与、税金、家賃、外部企業への支払いは、多くの場合ポンド建ての銀行決済を通じて行われる。
取引所や保管サービスでは、顧客がポンドを入金し、暗号資産の売却代金を銀行口座へ出金できる経路も必要になる。この接続が不安定であれば、認可や登録を取得していても、利用者へ継続的なサービスを提供しにくい。
銀行側には、マネーロンダリング、詐欺、制裁違反、資金源の確認に関する責任がある。暗号資産取引には送金先の特定が難しい場合もあり、リスク管理を強化すること自体には理由がある。一方、企業ごとの管理体制を評価せず、業種だけを理由に口座を拒否する運用が広がれば、規制を守る企業も市場から排除される可能性がある。
市場構造への影響
暗号資産市場はブロックチェーン上だけで完結しているわけではない。利用者が法定通貨を入金し、企業が経費や税金を支払い、取引相手と決済するには、銀行や決済事業者との接続が必要になる。銀行口座は裏方の機能に見えるが、実際には市場へ参加するための基礎設備である。
銀行アクセスが限られると、大手企業と新規企業の格差が広がりやすい。複数の銀行と契約できる大手は、一つの口座が利用できなくなっても代替経路を確保できる。資金や人員が少ない新興企業は、一行から拒否されるだけでサービス開始や事業継続が難しくなる場合がある。
その結果、規制の厳しさではなく、銀行との関係を構築できるかどうかが市場参入を左右する可能性がある。形式上は競争へ開かれた市場でも、法定通貨の入出金経路が一部の企業に集中すれば、サービスの選択肢や手数料競争は限定される。
英国が暗号資産企業向けの認可制度を整えても、銀行側の判断基準が不透明なままであれば、制度上の参入許可と実務上の営業可能性が一致しない。今回の調査は、この二つの間にある隔たりを可視化する動きといえる。
資金・規制・流動性との関係
法定通貨への接続は、企業の運転資金と顧客資金の流れを支える。入金や出金に時間がかかれば、顧客は取引機会を失い、企業側には問い合わせや資金管理の負担が増える。銀行口座の閉鎖が突然行われれば、代替口座への移行や取引先への説明も必要になる。
市場の流動性にも影響が及ぶ。ポンドと暗号資産を交換する経路が少なければ、注文を出せる利用者や事業者が減り、売買価格の開きが広がることがある。銀行接続を提供できる少数の取引所へ資金が集中すれば、障害や口座制限が市場全体へ波及しやすくなる。
規制面では、銀行に暗号資産企業を無条件で受け入れさせることが解決策になるとは限らない。重要なのは、企業の登録状況、顧客確認、取引監視、資産管理、制裁対応などを基に、リスクを個別に評価できる基準を作ることだ。
今後は、金融行動監視機構の登録や将来の認可を取得した企業が、銀行審査でどのように扱われるかが注目される。規制当局が認めた事業者であっても銀行が独自判断で接続を拒否できる場合、認可制度が銀行取引上の信頼証明として機能するのかという問題が残る。
初心者向け補足
銀行アクセスとは、企業が法人口座を持つことだけを指す言葉ではない。顧客からの入金、銀行振り込みによる出金、カード決済、加盟店向けサービス、給与や請求書の支払いなども含まれる。
暗号資産企業がブロックチェーンを利用していても、事業活動のすべてを暗号資産で処理できるわけではない。英国で営業する会社は、税金や人件費などをポンドで支払う場面が多く、銀行口座を失えば通常の企業活動にも支障が出る。
銀行が暗号資産関連の支払いを制限する理由には、詐欺被害の防止や金融犯罪対策がある。ただし、利用者保護を目的とした送金制限と、規制を守る企業への一律のサービス拒否は同じではない。今回の調査では、その線引きが適切かどうかも問われる。
Web3Timesの視点
英国の暗号資産政策を評価する際、法律や免許制度だけを見ると実態を見誤る。認可を取得できる仕組みが存在しても、ポンドの入出金や日常的な銀行決済を利用できなければ、企業は顧客を増やせず、英国へ事業拠点を置く利点も小さくなる。
重要なのは、銀行アクセスを暗号資産業界への特別な優遇として扱わないことだ。銀行には金融犯罪を防ぐ責任があり、すべての企業へ同じサービスを提供する義務が直ちに生じるわけではない。一方、規制対応の状況を見ずに業種だけで排除するなら、政府が整備する認可制度との整合性が問われる。
今後確認すべきなのは、口座拒否や送金制限の件数だけではない。規制済み企業と未登録企業で銀行の扱いに差があるのか、拒否理由が企業へ説明されるのか、異議申し立てや再審査の経路が用意されているのかが重要になる。
暗号資産市場への機関参入や企業成長を支えるのは、取引規制だけではない。銀行口座、決済、清算、法定通貨の入出金が安定して利用できて初めて、認可制度は実際の市場参加へつながる。今回の調査は、英国が暗号資産企業を規制する段階から、規制を満たした企業を既存金融へどう接続するかを検討する段階へ移ったことを示している。
