Last Updated on 2026年7月28日 by oba3
実物資産のトークン化を手掛けるオンド・ファイナンス(Ondo Finance)が、金融取引向けの執行基盤であるオンド・ネットワーク(Ondo Network)を開始した。従来構想していた独立型ブロックチェーンのオンド・チェーンをそのまま稼働させるのではなく、高速な注文処理と公開チェーン上の資産決済を分離する設計へ転換した。最初の利用例は永久先物市場のオンド・パープス(Ondo Perps)だが、将来は現物市場、融資、仕組み商品、トークン化資産の決済にも対応できるとしている。今回見るべきなのは新しいチェーンの登場ではない。発行された証券やファンド持分を、どの仕組みで注文照合し、証拠金を管理し、最終的な所有記録へ反映するかという取引執行の層が追加された点である。
何が起きたのか?
オンドは2026年7月27日、オンド・ネットワークを正式に発表した。同社はこれを、中央集権型交換所に近い速度とプライバシーを持ちながら、利用者が資産管理権を維持し、処理結果を検証できる執行環境と説明している。
オンドは当初、実物資産向けの独立ブロックチェーンとしてオンド・チェーンを開発する方針を示していた。しかし、取引サービスの開発を進める中で、主な制約は資産を最終記録する決済部分ではなく、注文照合、証拠金計算、リスク管理、強制清算を高速に処理する執行部分にあると判断した。
新しい構成では、取引処理をセキュア・エンクレーブと呼ばれる隔離された計算環境で実行する。承認されたコードだけが動作していることを複数の検証者が確認し、重要な鍵も一つの事業者が単独で保有しない設計を採る。資産移転は現在、公開ブロックチェーン上で決済されており、対応ネットワークは今後追加する計画だ。
最初にオンド・ネットワークを利用するオンド・パープスはすでに稼働している。株式や商品に連動する永久先物を24時間提供し、トークン化された実物資産を担保として利用できる構成を目指す。ただし、オンド・ネットワーク自体は永久先物専用ではなく、現物取引、融資市場、仕組み商品、取引決済などへ応用できる汎用基盤とされる。
なぜ重要なのか?
これまでのトークン化資産市場では、株式、国債、ファンド持分などをブロックチェーン上で発行し、ウォレット間で移転できることが主な成果として扱われてきた。しかし、資産を発行できても、継続的に売買注文を集め、適正な価格で成立させる市場がなければ、保有者は必要な時に売却しにくい。
発行と取引執行は別の機能である。発行基盤は誰が何単位を保有しているかを記録する。一方、執行基盤は買い注文と売り注文を並べ、優先順位を決め、約定価格を確定し、証拠金不足が起きた場合には清算処理を行う。
公開ブロックチェーンですべての注文を処理すると、注文内容や保有ポジションが外部から見えやすくなり、処理速度もネットワークの混雑に左右される。機関投資家やマーケットメーカーにとっては、大口注文の意図が事前に知られることや、約定までの遅延が取引コストにつながる。
オンドはこの問題に対し、注文処理を非公開かつ高速な環境へ置き、資産移転と検証可能性を公開チェーンへ残す方法を選んだ。発行された資産をただ保管する段階から、実際に売買できる金融市場へ近づけるための設計変更といえる。
市場構造への影響
トークン化資産に執行機能が加わると、発行会社、ブローカー、取引市場、カストディー、決済ネットワークの役割分担が変わる可能性がある。従来は別々のシステムが担っていた注文管理と資産移転を、一つの技術基盤から連動させられるためだ。
特に重要なのは、取引執行と最終決済を分ける点である。注文照合は速度と機密性を重視し、取引成立後の所有権移転は耐久性と検証可能性を重視する。二つを異なる環境で処理すれば、すべてを一つの公開台帳へ載せる場合より、金融取引に必要な性能を確保しやすくなる。
一方、この設計では執行環境の運営方法が新しい信頼点になる。公開チェーン上で残高を確認できても、注文が公平な順番で処理されたか、不利な価格で意図的に約定させられていないかは、執行記録を検証できなければ判断しにくい。
オンドは、処理に使われたコードと状態変化の記録を第三者が検証できる構成を示している。ただし、現段階では注文処理が単一の高性能な実行環境で行われ、検証者の参加範囲も段階的に広げる計画である。完全に分散した取引所が完成したというより、高速処理と外部検証を組み合わせる初期運用段階と見る必要がある。
今後、現物のトークン化証券が同じ基盤へ接続されれば、発行後の売買、担保利用、決済を一つの市場設計で扱える可能性がある。ただし、技術的に注文を処理できても、証券の販売地域、投資家資格、取引時間、価格表示、本人確認などの規制条件は別に適用される。
資金・規制・流動性との関係
トークン化資産の流動性は、ブロックチェーン上の発行残高だけでは決まらない。継続して価格を提示するマーケットメーカー、十分な買い手と売り手、担保として利用できる資金、法定通貨やステーブルコインへの換金経路が必要になる。
オンド・ネットワークが複数の商品を扱えば、国債や株式に連動するトークンを担保にして別の取引を行うなど、資産を売却せずに資金を利用する経路が広がる可能性がある。永久先物市場でトークン化資産を担保として利用する構想は、その最初の例に当たる。
ただし、担保価値の算定と清算には注意が必要だ。裏付け資産の市場が閉まっている時間帯にトークンだけが24時間取引されれば、参照価格が更新されにくくなる場合がある。価格差が拡大した際に、どの指数を使い、どの時点で証拠金不足と判断するかが市場の安定性を左右する。
規制面では、執行基盤が非管理型であっても、証券に相当する商品を上場し、注文を照合し、手数料を得る場合には、取引所、ブローカー、代替取引システムなどの規制区分が問題になる。利用者が秘密鍵を保持していることだけで、金融市場としての監督義務がなくなるわけではない。
また、執行内容を非公開にする場合でも、規制当局や監査人が必要な記録を確認できる設計が必要になる。注文情報を一般公開せずに機密性を保ちながら、市場操作、優先約定、不正清算がなかったことを後から検証できるかが重要となる。
初心者向け補足
取引執行とは、買いたい人と売りたい人の注文を照合し、価格と数量を決める処理である。決済は、取引成立後に資産と代金を実際の保有者へ移す処理を指す。
公開ブロックチェーンでは、注文から決済までを同じネットワークで処理する場合がある。オンド・ネットワークは、速度が必要な注文処理を別の環境で行い、最終的な資産移転を公開チェーンへ記録する考え方を採っている。
セキュア・エンクレーブは、外部から内部の処理を見たり変更したりしにくい隔離された計算領域である。ただし、ハードウェアを使えば自動的に安全になるわけではない。承認するコード、検証者の構成、障害時の停止方法、記録の監査手順を確認する必要がある。
Web3Timesの視点
オンドの発表を新しいブロックチェーンの開始として読むのは正確ではない。同社自身が、現在のオンド・ネットワークは従来型の独立チェーンではなく、取引執行に特化した環境だと説明している。変化の中心はチェーンの数ではなく、トークン化資産を発行した後に誰が注文を処理するかという点にある。
実物資産のトークン化では、発行額や対応銘柄数が注目されやすい。しかし、投資家が必要な時に売買できなければ、トークンはデジタル化された保有記録にとどまる。市場として機能するには、注文板、マーケットメーカー、証拠金、清算、最終決済が一続きで動く必要がある。
オンド・ネットワークは、この不足していた執行部分を自社の発行・商品基盤へ加える試みである。一方、発行、担保利用、取引執行が同じ企業の経済圏へ集まれば、上場判断、価格形成、清算処理の独立性も問われる。処理が高速であることと、市場が公正であることは同じではない。
今後確認すべきなのは、対応商品の追加数だけではない。実際の注文量、約定速度、売買価格の差、マーケットメーカーの参加、執行記録を検証する主体、公開チェーンへ反映される情報の範囲が重要になる。オンドがトークン化資産市場を変えるかどうかは、新しいネットワークを発表した事実ではなく、発行された資産に継続的な注文と公正な決済を提供できるかによって判断される。
