Last Updated on 2026年9月11日 by oba3
米上院共和党が、暗号資産市場構造法案であるデジタル資産市場明確化法案(Digital Asset Market Clarity Act・CLARITY Act)の改訂文を公表した。約630ページの新案では、実質的に管理主体が存在するDeFi取引プロトコルへの登録義務、DeFi条項の適用範囲、信用組合による暗号資産業務の権限などが修正された。重要なのは9月15日に予定される手続き採決だけではない。分散型ソフトウェアをどこまで規制から保護し、管理可能な取引サービスをどこから金融仲介業者として扱うのか、さらに銀行や信用組合へどの事業権限を認めるのかという境界が条文レベルで具体化している。
何が起きたのか?
シンシア・ルミス(Cynthia Lummis)上院議員ら共和党議員は2026年9月10日、夏季休会中の交渉を反映したCLARITY法案の改訂文を公表した。ルミス氏によると、民主党議員から求められた114を超える項目を取り込んだという。
主要な変更の一つがDeFiだ。改訂案では、名称上はDeFiであっても、個人や複数人の集団がプロトコルの機能、運営、合意ルールなどを実質的に変更できる権限を持つ場合、非分散型のDeFi取引プロトコルとして扱う枠組みを追加した。該当する事業者には米商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission・CFTC)への登録を求め、CFTCと米財務省による規則策定も予定する。
一方、DeFiに関する特例や保護条項の対象は、現物または現金決済型のデジタル商品取引へ限定する修正が入った。ルミス氏は、ブロックチェーンを利用した予測市場がDeFi条項によって州や部族の賭博規制から意図せず外れるとの懸念に対応するものと説明している。
さらに信用組合が暗号資産関連業務を行う権限についても文言が明確化された。ただし改訂案の公表時点で、信用組合や銀行を巡るすべての争点が解消したわけではない。特にステーブルコインの利回りや報酬を巡る銀行業界との対立は残っている。
なぜ重要なのか?
CLARITY法案の中心は、暗号資産を証券として米証券取引委員会(Securities and Exchange Commission・SEC)が扱う領域と、デジタル商品としてCFTCが監督する領域を整理することにある。しかし実際の法案成立では、単に二つの規制当局の管轄を分けるだけでは足りない。
特にDeFiでは、オープンソースコードを書いた開発者と、実際にプロトコルを制御し利用者の取引を仲介する事業者を同じように規制するべきかが長く争点になってきた。
今回の修正は、管理権限を持たないソフトウェア開発者などを広く金融仲介業者として扱うことを避けながら、実質的にプロトコルを操作できる主体には登録義務を課す方向をより明確にする。誰がコードを書いたかではなく、誰が市場のルールを変更できるかを規制判断の基準へ近づける動きといえる。
市場構造への影響
この線引きはDeFi事業モデルそのものを左右する。管理鍵、手数料設定、取引停止権限、アップグレード権限などを特定主体が保持していれば、分散型という名称だけで中央集権型取引所とは別の扱いを受けることが難しくなる可能性がある。
反対に、利用者資産を保管せず、運営主体が取引内容を変更できないソフトウェアまで同じ登録制度へ入れれば、非管理型ウォレットやオープンソース開発へ過大な負担が生じる。改訂案はこの二つを分ける制度境界を作ろうとしている。
信用組合条項も同じ視点で見る必要がある。暗号資産サービスを大手銀行や専業暗号企業だけの市場にせず、地域金融機関が既存法の範囲でカストディやデジタル資産関連サービスへ参加できるかは、市場への入口を誰が持つかに関わる。
資金・規制・流動性との関係
一方、銀行業界との調整は終わっていない。米銀行協会や独立系地域銀行団体などは9月10日、ステーブルコイン保有者へ取引所などが利回りや報酬を提供できる余地を閉じるよう上院へ改めて要求した。
銀行側は、高い報酬を付けたステーブルコインへ預金が流出すれば、地域銀行が住宅、中小企業、農業などへ融資するための資金基盤が縮小すると主張している。報道によると今回の改訂案では、このステーブルコイン利回りを巡る主要条項に大きな変更は入っていない。
つまり法案はDeFi開発者と管理型サービスの境界、信用組合の事業権限について修正を進めた一方、銀行預金とステーブルコインの資金獲得競争という別の争点を残している。市場構造法を成立させるには、暗号企業だけでなく銀行、信用組合、法執行機関など複数の事業モデルをどこまで同じ法案で調整できるかが重要になる。
初心者向け補足
DeFiは中央管理者を置かずスマートコントラクトなどで金融取引を行う仕組みを指す。ただし実際には、開発チームが管理鍵を持ち、取引を停止したりルールを変更したりできるサービスも存在する。
今回の改訂案では、このように実質的な管理者が存在するサービスと、管理権限を持たないソフトウェアを同じ扱いにしないことが重要になる。完全に分散しているかという名称ではなく、誰が実際の操作権限を持つかを見る考え方だ。
また今回の改訂文が公表されたからといって法案が成立したわけではない。9月15日には法案を前進させるための手続き採決が予定され、上院で進めるには60票が必要になる。公表時点の報道では必要な民主党支持が確保されたとは確認されていない。
Web3Timesの視点
今回の改訂で見るべきなのは、CLARITY法案が採決される日だけではない。どの条文が誰の事業モデルを守り、誰へ新しい義務を課すのかを見る方が制度の実態を理解しやすい。
DeFi開発者にとっては、単にコードを公開しただけで金融仲介業者として扱われない境界が重要になる。一方、プロトコルを実質的に支配する事業者にはCFTC登録を求めることで、分散型という名称を利用した規制回避を防ぐ設計が入る。
信用組合には暗号資産市場へ参加できる権限を明確化する一方、銀行業界はステーブルコイン報酬による預金流出を引き続き問題視している。つまり今回の法案交渉は暗号業界対規制当局という単純な構図ではなく、DeFi開発者、中央集権型事業者、銀行、信用組合、予測市場、法執行機関の権限を一つの市場制度へ配置する作業になっている。
今後確認すべきなのは修正項目の数ではない。非分散型DeFiの定義が最終条文でどこまで維持されるか、信用組合の暗号資産業務がどこまで認められるか、ステーブルコイン利回りを巡る銀行側との妥協が成立するか、そしてその調整によって60票を確保できるかが重要だ。CLARITY法案の最終形は、暗号資産を規制する法律というより、デジタル金融で誰が取引、信用、ソフトウェア、顧客資金を担えるのかを決める市場設計図になりつつある。
