全米保安官協会がCLARITY法案への反対を撤回し中立へ転換、法執行機関との調整が進む一方でDeFiとAMLの制度境界は未解決に

Last Updated on 2026年9月6日 by oba3

全米保安官協会(National Sheriffs’ Association・NSA)が、米国の暗号資産市場構造法案であるデジタル資産市場明確化法案(Digital Asset Market Clarity Act・CLARITY Act)への反対を撤回し、中立へ立場を変更した。重要なのは、主要な法執行団体が法案への賛成に転じたわけではないことだ。NSAはDeFiやミキサーを巡るマネーロンダリング対策への懸念を取り下げておらず、立法プロセスを止める立場から一歩引いただけになる。それでも上院採決を前に強い反対主体が減ったことで、暗号資産市場の監督権限を整理する法案にとって政治的な障害の一つが小さくなった。

目次

何が起きたのか?

NSAは2026年9月3日付の書簡で、CLARITY法案に対する立場を反対から中立へ変更すると上院指導部へ伝えた。法案が非常に複雑で、重要な詳細がなお検討中であることを理由に、今後は一歩引いて立法プロセスの進行を認める方針を示している。

これは正式な支持表明ではない。NSAは2026年5月、上院銀行委員会へ送った書簡で、法案の第604条について強い懸念を示していた。特に暗号資産ミキサー、タンブラー、分散型金融(DeFi)の開発者やサービス提供者に対する規制除外が広すぎれば、マネーロンダリング、テロ資金供与、制裁回避などを捜査する能力が弱まると主張していた。

今回の中立化では、それらの論点がすべて修正されたとは説明されていない。NSAは法案の複雑さと議会、政権、関係者による継続的な協議を踏まえて反対運動から退く姿勢を示した形だ。

CLARITY法案は2025年7月に下院を294対134で通過した。その後、2026年1月に上院農業委員会、5月には上院銀行委員会で市場構造法制の審議が進み、上院本会議では9月15日に法案を前進させるための手続き採決が予定されている。

なぜ重要なのか?

CLARITY法案の中心的な目的は、米証券取引委員会(Securities and Exchange Commission・SEC)と米商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission・CFTC)の間で、暗号資産市場をどのように監督するかを整理することにある。

しかし暗号資産の市場構造法は、取引所の登録制度だけを決めれば成立するものではない。分散型プロトコル、自己管理ウォレット、ソフトウェア開発者、ミキサーなどについて、誰を金融仲介業者として扱い、どこまで本人確認やマネーロンダリング対策を求めるのかという問題が残る。

NSAの反対は、この法執行面を象徴する政治的な障害だった。特に上院で法案を進めるには超党派の票が必要になるため、暗号資産に慎重な議員が法執行機関の懸念を理由に支持を見送る可能性があった。中立化によってその一つの材料が弱まったことには意味がある。

市場構造への影響

今回を見る際に重要なのは、暗号資産業界と警察組織のどちらが勝ったかではない。市場構造法案を成立させるために、金融規制と法執行の境界をどこまで合意できるかが見え始めた点だ。

暗号資産企業にとっては、SECとCFTCの管轄が明確になれば、登録先や商品分類、取引市場のルールを判断しやすくなる。一方、法執行側から見れば、規制を明確化した結果として資金追跡や差し押さえが難しくなる制度では受け入れにくい。

特にDeFiでは、中央管理者が存在しないソフトウェアと、利用者資産を実質的に管理する金融仲介サービスをどこで区別するかが難しい。開発者を一律に送金事業者として扱えばオープンソース開発を阻害する可能性があるが、広範囲に免除すれば実質的な金融サービスまで規制の外へ出るとの懸念が生まれる。

NSAが中立へ移ったことは、この問題が解決した証拠ではなく、法案そのものを止めるより議会の修正過程で調整する段階へ移ったと見る方が近い。

資金・規制・流動性との関係

市場構造法案が成立すれば、米国で暗号資産取引所、ブローカー、カストディ、DeFi関連サービスへ資本を投入する企業にとって、規制上の予測可能性が高まる余地がある。誰がSECの管轄に入り、誰がCFTCへ登録するのかが整理されれば、事業計画や機関投資家との取引関係を構築しやすくなるためだ。

一方、AML規則の線引きが曖昧なままでは、銀行や機関投資家がDeFi関連サービスへ接続する際のリスクは残る。取引相手の確認、制裁対象資金の遮断、犯罪収益の追跡などを誰が担うのかが明確でなければ、金融機関のコンプライアンス部門は利用範囲を限定する可能性がある。

つまりNSAの中立化は資金流入を直接生む出来事ではない。市場構造法案を前進させる政治条件の一つが改善した一方、金融機関が実際に資金を投入するためのAML基準はなお詰める必要がある。

初心者向け補足

CLARITY法案は、暗号資産を合法化するか禁止するかを決める単純な法律ではない。主に、どの種類のデジタル資産をどの規制当局が監督し、取引所や仲介業者にどの登録義務を求めるかを整理する市場構造法案だ。

また、NSAが中立になったことは法案への支持を意味しない。反対とは法案を止める立場、中立とは賛成も反対もしない立場であり、AMLや犯罪捜査を巡る懸念がなくなったわけではない。

ミキサーとは暗号資産の送金経路を分かりにくくする技術やサービスを指す。プライバシー保護に利用できる一方、犯罪収益の追跡を難しくする場合もあるため、開発者や運営者をどこまで金融規制の対象にするかが長く議論されている。

Web3Timesの視点

今回の変化を「法執行機関もCLARITY法案を支持した」と読むのは正確ではない。むしろ注目すべきなのは、法案成立を阻んでいた一つの反対主体が中立へ移り、議論の中心が法案そのものを進めるかどうかから、具体的な執行条件をどう設計するかへ移っていることだ。

市場構造法が機能するには、暗号資産企業へ明確な営業ルールを与えるだけでは足りない。犯罪資金を追跡する当局が必要な権限を維持しながら、非管理型ソフトウェアや分散型プロトコルまで過剰に金融仲介業者として扱わない境界が必要になる。

今後見るべきなのはNSAが最終的に賛成するかではない。第604条を含むDeFiや非管理型サービスの扱いがどう修正されるか、法執行側が必要とする資金追跡能力をどこまで確保するか、そしてその調整によって上院で必要な超党派票を集められるかが重要だ。

CLARITY法案の政治的な障害は一つ小さくなった。しかしAMLの制度境界は残っている。米国の暗号資産市場構造が確立するかどうかは、SECとCFTCの役割分担だけでなく、分散型金融と法執行をどのルールで共存させるかまで合意できるかにかかっている。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Web3をやさしく解説するOba3

目次