Last Updated on 2026年9月11日 by oba3
米証券取引委員会(Securities and Exchange Commission・SEC)が、証券の所有記録や名義変更を担う移転代理人の規則を大幅に近代化する案を公表した。提案は電子記録、ブロックチェーン型の記録管理、無券面証券を現在の市場実務へ合わせる内容を含み、トークン化証券を扱う際の公式な所有記録や資産保全も対象となる。重要なのは、ブロックチェーン上で証券を発行できるようにすることだけではない。ウォレット上のトークンと法的な証券所有権を誰が結び付け、どの記録を正式な株主・証券保有者の記録として扱うのかという、証券保有制度そのものの再設計に踏み込んでいる点だ。
何が起きたのか?
SECは2026年9月1日、登録移転代理人に適用する規則と届出様式を更新する提案を公表した。連邦官報には9月4日に掲載され、意見募集期限は11月3日となっている。現時点では最終規則ではなく、内容は今後の意見募集を経て変更される可能性がある。
移転代理人は、企業が証券を発行した際の発行量管理、名義変更、取消し、所有者記録などを担う。SECは現在の主要規則の多くが1970年代から1980年代に作られ、その後普及した電子的な証券管理やブロックチェーン型記録へ十分対応していないとしている。
今回の案では、電子システムや第三者を使った記録保存の規則を更新し、公式な証券保有者ファイルへの記録反映期限を現在の決済サイクルへ合わせる。さらに移転代理人が保有・管理する証券や資金について、リスクを特定、監視、軽減するための方針や事業継続計画を求める内容も盛り込まれた。
SECは提案文書の中で、ブロックチェーン上で発行体と証券保有者の記録を管理するオンチェーン型移転代理人や、スマートコントラクトを使った証券管理が米国市場へ入り始めていると明記している。
なぜ重要なのか?
トークン化証券では、ブロックチェーン上にトークンが存在するだけでは、そのウォレット保有者が法的な証券所有者になるとは限らない。米国の証券制度では、発行企業や移転代理人が管理する公式記録に直接記載される登録保有者と、証券会社などを通じて間接的に保有する受益所有者が存在する。
SECは2026年1月の整理でも、発行企業自身が証券をトークン化する方式と、第三者が既存証券を保管してトークン化する方式、さらに原株の価格だけを参照する合成型商品を区別している。見た目が同じ株式トークンでも、保有者が持つ法的権利は大きく異なる可能性がある。
そのため機関投資家がトークン化証券を保有するには、秘密鍵を安全に管理できるだけでは足りない。誰の記録が正式な所有権を示すのか、オンチェーン移転がいつ法的な名義変更になるのか、記録の不一致が起きた場合にどの台帳を優先するのかまで明確にする必要がある。
市場構造への影響
今回の規則案が示しているのは、トークン化を既存の証券制度の外側へ新市場として作るのではなく、移転代理人という既存インフラをオンチェーン環境へ適応させる方向だ。
SECの説明では、移転代理人は発行企業の公式な所有記録を維持する中心的な存在である。今後ブロックチェーン上のウォレットアドレスやトークン残高を証券保有記録へ組み込む場合でも、誰がその情報を管理し、発行済み総数と照合し、名義変更を確定するかという機能は残る。
これはトークンを持っていることと正式な証券権利を持っていることを一致させるための重要な土台になる。オンチェーン上の残高と発行企業側の正式記録が別々に動けば、二重発行や権利関係の不一致が起きる余地があるためだ。
規則が最終化され、ブロックチェーン型記録への対応が明確になれば、証券会社、カストディ事業者、資産運用会社がトークン化証券を扱う際の法務・運用上の摩擦を下げる余地がある。
資金・規制・流動性との関係
機関資金にとって重要なのは、取引速度より資産の法的帰属だ。数億ドル規模の証券をブロックチェーン上で保有していても、破綻時に誰へ請求できるのか、カストディ事業者が倒れた場合に資産が分別されているのか、議決権や配当を誰が受け取れるのかが不明確なら導入しにくい。
今回の提案では、移転代理人が管理する資金や証券を保護するための包括的なリスク管理を求め、発行体や証券保有者などの資金について専用銀行口座を設けることも盛り込まれている。また電子記録や外部サービス事業者を使う場合の記録保持も見直す。
ただし、この規則案だけでトークン化証券のカストディや取引に関するすべての法律問題が解決するわけではない。証券会社の顧客資産保護、統一商事法典に基づく所有権、取引所規則、発行企業の会社法など複数の制度が関係する。
したがって今回の提案は、トークン化証券を全面的に解禁する制度ではなく、公式な所有記録を担う移転代理人側のルールをデジタル証券時代へ更新する一つの基盤整備として位置付ける必要がある。
初心者向け補足
移転代理人とは、企業に代わって誰が株式や債券を正式に保有しているかを管理する事業者だ。株式を新しく発行したり、保有者が変わった際に名義を変更したり、発行済み株数が正しいかを確認したりする。
トークン化証券では、ブロックチェーン上にウォレットアドレスとトークン数量を記録できる。しかしその記録がそのまま法的な株主名簿になる場合もあれば、別のオフチェーン記録が正式な台帳として残る場合もある。
さらに第三者が原株を保管し、その原株に対する権利だけをトークンとして発行する方式もある。この場合、利用者が持つのは発行企業への直接的な所有権ではなく、仲介事業者に対する証券上の権利になることがある。
そのためトークン化証券を見る際には、どのブロックチェーンを使っているかだけでなく、公式な所有記録を誰が持ち、トークン移転が法的な権利移転とどのように連動するかを確認することが重要になる。
Web3Timesの視点
今回のSEC案をブロックチェーン対応の技術規則としてだけ読むと、本質を小さく捉えてしまう。証券市場で本当に重要なのは、データをどこに保存するかではなく、その記録が法的にどの権利を表しているかだ。
トークン化が機関市場へ広がるためには、ウォレット残高、カストディ記録、移転代理人の公式記録、発行企業の証券保有者情報が矛盾しない仕組みが必要になる。ブロックチェーンによって移転を高速化しても、この権利関係が曖昧なら法務部門やカストディ事業者は大規模な資金を載せにくい。
今後見るべきなのはトークン化証券の発行件数だけではない。最終規則でウォレットアドレスをどこまで証券保有者情報として扱えるのか、オンチェーンとオフチェーンの記録をどう照合するのか、外部カストディや技術事業者を使った際の責任分担がどう整理されるのかが重要になる。
トークン化証券の次の段階では、株式や債券をブロックチェーンへ載せる技術そのものより、そこで動いた記録を正式な証券所有権として金融制度が受け止められるかが問われる。SECの移転代理人規則案は、その法的な橋渡しを既存の証券インフラ側から作り直す動きとして見るべきだ。
