Last Updated on 2026年9月8日 by oba3
韓国のハンファ投資証券(Hanwha Investment & Securities)が、アバランチ(Avalanche)を含む複数の分散型台帳へ対応するトークン化証券基盤を完成させたと報じられた。韓国では改正電子証券法が2027年2月4日に施行され、分散型台帳に記録された証券を既存の証券制度へ正式に組み込む予定だ。今回の重要点は、大手証券会社が特定のブロックチェーンを採用したことだけではない。制度施行を待ってからシステムを作るのではなく、証券会社と韓国預託決済院が発行・登録・流通を支える技術基盤を先に整え始めている点にある。
何が起きたのか?
韓国経済紙の報道によると、ハンファ投資証券は2025年から開発してきたトークン化証券プラットフォームを完成させた。開発はブロックチェーン技術企業フェアスクエアラボ(FairSquare Lab)が担当し、アバランチだけでなく企業向けイーサリアム互換基盤のハイパーレジャー・ベス(Hyperledger Besu)など複数ネットワークへ対応できる設計とされる。
現時点ではハンファ投資証券自身による詳細な正式発表ではなく、業界関係者を基にした報道段階である。実際にどの商品を最初に発行するのか、発行額やサービス開始日、一般投資家が利用できる範囲などは明らかになっていない。
一方、制度側の準備は正式に進んでいる。韓国金融委員会(Financial Services Commission・FSC)は9月4日、証券発行と流通のデジタル化に向けた3段階の政策ロードマップを公表した。改正電子証券法は2027年2月4日に施行され、トークン化証券を既存証券のデジタルな形態として法的に位置付ける。
韓国預託決済院(Korea Securities Depository・KSD)も証券会社の分散型台帳と接続する基盤を準備している。接続対象にはハイパーレジャー・ベス、ハイパーレジャー・ファブリック(Hyperledger Fabric)、アバランチが含まれており、証券会社などが利用する台帳へ預託決済院自身が参加し、発行総量や電子登録情報を管理する構想だ。
なぜ重要なのか?
これまでRWAでは、不動産や債券などをブロックチェーン上のトークンとして表現する実証が数多く行われてきた。しかし既存の資本市場へ本格的に組み込むには、トークンを発行できるだけでは足りない。誰が正式な権利記録を管理するのか、既存の証券口座とどう接続するのか、障害時にどの記録を正本として扱うのかまで制度上決める必要がある。
韓国では、この部分を法改正と預託決済インフラの両方から整備している。FSCのロードマップでは、第1段階として機関投資家向けの私募MMFや債券、信託構造を使った非上場株式、公募型の小口投資証券などからトークン化を開始する予定だ。
そのためハンファ投資証券の基盤は、ブロックチェーン実証だけを目的とした独立システムというより、2027年から始まる新しい証券登録制度へ接続するための事前準備として見る方が実態に近い。
市場構造への影響
今回の制度で注目したいのは、トークン化証券を既存の証券制度とは別の暗号資産市場へ切り離していないことだ。株式や債券、ファンドなど従来の証券を、その法的性質を維持したまま分散型台帳へ記録する方向が採られている。
韓国預託決済院は、証券会社が利用する分散型台帳へ参加し、発行総量や登録情報を管理する。つまり証券会社が自由にトークンを発行し、その記録だけで所有権を完結させる仕組みではない。既存資本市場で権利管理を担ってきた機関をオンチェーン側へ接続する設計になっている。
アバランチの採用も、誰でも自由に参加できる公開ネットワークへそのまま証券を載せるという意味ではない。アバランチには参加者やバリデーターを限定した独立ネットワークを構築できる仕組みがあり、金融機関が規制要件に合わせた参加管理を行える点が利用理由の一つとみられる。
このモデルが機能すれば、RWAの競争軸は単にどのブロックチェーンでトークンを発行するかではなく、証券会社、預託決済機関、投資家口座、売買市場をどの分散型台帳で安全につなぐかへ移っていく。
資金・規制・流動性との関係
FSCの計画では、2027年2月からすべての証券を一度にオンチェーン化するわけではない。第1段階で限定した商品から開始し、その運用結果を見ながら第2段階で公募証券全体へ対象を広げる構想だ。さらに最終段階では、ステーブルコインと接続したオンチェーン決済基盤の構築まで検討している。
ここが資金移動の面で重要になる。証券の所有記録だけがブロックチェーン上にあっても、代金決済が従来の銀行営業時間や別システムに依存したままでは、取引全体がオンチェーンで完結するわけではない。将来的に証券と決済資産を同じ時間軸で動かせれば、証券移転と資金移転をより密接に連動させる余地が生まれる。
ただしこれは将来段階の計画であり、2027年2月からステーブルコイン決済まで全面的に利用できるという意味ではない。FSCも第2、第3段階については、第1段階の運用実績や技術進歩、ステーブルコイン法制の状況を見ながら柔軟に進めるとしている。
また分散型台帳へ移行しても、証券会社に求められる安定性が下がるわけではない。FSCはシステム障害時の事業継続計画などを審査項目に含め、既存証券インフラと同水準の安定運用を求める方針を示している。
初心者向け補足
トークン化証券とは、株式や債券などの法的な証券をブロックチェーンや分散型台帳へ記録できる形にしたものだ。暗号資産のように新しい種類の資産を作るのではなく、既存の証券をデジタルな登録方式で管理する点が基本になる。
韓国では従来、電子証券の正式な権利記録を既存の電子登録制度で管理してきた。法改正後は一定の条件を満たす分散型台帳を証券登録へ利用できるようになり、発行体や証券会社がオンチェーン技術を資本市場の正式な業務へ組み込めるようになる。
今回ハンファ投資証券が準備した基盤も、アバランチ上で自由に株式を発行するサービスがすでに始まったという話ではない。制度施行後に証券発行や権利管理へ利用できるよう、必要な技術を先行して用意した段階と考える必要がある。
Web3Timesの視点
今回をハンファ投資証券によるアバランチ採用としてだけ見ると、韓国で進んでいる変化の中心を外す。より重要なのは、2027年2月の制度施行を前に、民間証券会社と中央的な証券登録インフラが同時にオンチェーン対応を始めていることだ。
韓国の設計では、ブロックチェーンが既存資本市場を外側から置き換えるのではなく、証券会社や預託決済院が現在担っている役割の中へ組み込まれる。技術を採用しても、発行総量の管理、投資家保護、システム障害への対応といった制度上の責任は残る。
今後確認すべきなのはアバランチ上で何件のトークンが発行されるかだけではない。2027年2月に始まる第1段階で実際にどの商品が登録されるのか、韓国預託決済院と各証券会社の台帳をどこまで相互接続できるのか、さらに売買後の資金決済までオンチェーンへ移せるかが重要になる。
韓国で進んでいるのは、RWAを暗号資産市場へ追加する動きというより、資本市場の登録・流通基盤そのものを分散型台帳へ対応させる準備だ。制度施行前にインフラが完成し始めていることは、2027年以降のトークン化証券が実証実験ではなく、既存証券市場の正式な運用方式の一つへ入る可能性を示している。
