Last Updated on 2026年8月6日 by oba3
ブラックロック(BlackRock)は2026年8月3日、ブロックチェーン上で持分を管理するマネー・マーケット・ファンド関連商品を2つ投入し、トークン化された現金運用基盤を拡充した。既存ファンドにオンチェーン持分を追加したBSTBLと、ステーブルコイン準備資産での利用を想定した新ファンドBRSRVである。
両商品は、現金、短期米国債、米国債を担保とする翌日物レポ取引を中心に運用する。ブラックロックは、米国の決済用ステーブルコイン発行者が保有する適格準備資産として利用できる投資方針を目指している。
今回の焦点は、トークン化商品の数が増えたことだけではない。ステーブルコイン発行者が準備資産を保有し、利息を受け取り、償還需要に備える一連の業務を、規制されたマネー・マーケット・ファンドとブロックチェーン基盤の組み合わせで処理できるかが重要になる。
何が起きたのか?
一つ目の商品は、ブラックロック・セレクト・トレジャリー・ベースド・リクイディティ・ファンドのオンチェーン持分であるBSTBLだ。既存のマネー・マーケット・ファンドに、イーサリアム(Ethereum)上で記録されるトークン化持分を追加した。
BSTBLのオンチェーン持分は、法令や参加条件に従い、承認された投資家のウォレット間で移転できる。BNYが名義書換代理人とトークン化サービス提供者を務めるため、ブロックチェーン上の移転記録だけでなく、従来のファンド持分管理とも接続される。
二つ目は、ブラックロック・デイリー・リインベストメント・ステーブルコイン・リザーブ・ビークルであるBRSRVだ。デジタル資産市場で活動する機関投資家を想定した新しい政府系マネー・マーケット・ファンドで、分配金の毎日再投資と複数ブロックチェーンへの対応を特徴とする。
BRSRVではセキュリタイズ(Securitize)が名義書換代理人とトークン化サービス提供者を担当する。ブラックロックの開示によると、2026年8月3日に運用を開始し、8月5日時点のファンド規模は5000万ドル、最低当初投資額は300万ドルだった。
運用対象は、現金、残存期間93日以内の米国債、米国債を担保とする翌日物レポ取引である。ポートフォリオの加重平均残存期間は60日以下、加重平均運用期間は120日以下に抑える設計となっている。
なぜ重要なのか?
法定通貨連動型のステーブルコインでは、利用者から受け取った資金に対応する準備資産を安全性と換金性の高い形で保有する必要がある。発行体は利回りだけでなく、大規模な償還が発生した際に短時間で現金を確保できるかを重視する。
従来は、銀行預金、米国債、レポ取引、マネー・マーケット・ファンドなどを複数の口座や管理システムで運用してきた。ファンド持分がトークン化されれば、承認済みウォレットへの移転、保有状況の確認、償還依頼などをデジタル資産側の業務基盤と接続しやすくなる。
ブラックロックは両商品の投資戦略について、米国のステーブルコイン法制であるジーニアス法(GENIUS Act)に基づく適格準備資産となることを意図している。ただし、ファンド持分は銀行預金ではなく、米連邦預金保険公社による保証もない。1口当たり1ドルの維持を目指していても、元本が保証される商品ではない。
また、トークン化によって米国債そのものが自由にブロックチェーン上を移動するわけではない。投資家が保有するのは規制されたファンドの持分であり、本人確認、資金洗浄対策、ウォレット審査、名義書換代理人の記録といった管理手続きが残る。
市場構造への影響
ブラックロックは2024年にトークン化ファンドのビルド(BUIDL)を開始し、暗号資産取引の担保やオンチェーン上の資金待機先として利用範囲を広げてきた。今回のBSTBLとBRSRVは、幅広い機関投資家向けのトークン化国債運用から、ステーブルコイン準備管理という特定用途へ商品設計を分化させた動きと読める。
特にBRSRVは、ステーブルコイン発行体が準備金を預けるだけの商品ではない。分配金を毎日再投資しながら、ファンド持分をオンチェーンで保有できるため、準備資産の運用残高とデジタル通貨の発行基盤を近づける役割を持つ。
この仕組みが利用されれば、ステーブルコインの裏側では、発行残高に応じてファンドを購入し、償還請求に応じて持分を現金化する流れが形成される。発行体、資産運用会社、名義書換代理人、カストディ事業者、ブロックチェーンが一つの準備管理網へ組み込まれる形だ。
ただし、ウォレット間の持分移転が24時間可能でも、米国債の売買、銀行送金、ファンドの基準価額計算、現金償還までが常に即時処理されるとは限らない。オンチェーン移転の時間と、裏側にある伝統的な金融市場の営業時間には差が残る。
したがって、トークン化は流動性を自動的に生む技術ではない。利用可能な投資家、対応ウォレット、償還窓口、銀行決済、保有資産の換金能力がそろって初めて、準備資産としての実用性が高まる。
資金・規制・流動性との関係
ステーブルコイン発行体にとって、準備資産から得られる利息は事業収益の重要な部分になる。一方で、高い収益を求めて満期の長い債券や信用リスクのある資産へ資金を移せば、短期償還への対応力が低下する。今回の商品は短期米国債と翌日物レポを中心にすることで、収益性より換金性と元本安定性を優先している。
ブラックロックのキャッシュ・マネジメント部門は、発表時点で約1兆730億ドルの現金運用戦略を管理していた。米国のマネー・マーケット・ファンド市場も8兆4000億ドルを超えており、今回の展開は暗号資産専用の小規模商品というより、既存の巨大な短期資金市場へステーブルコイン準備を取り込む試みである。
ブラックロックはサークル(Circle)の準備資産も管理しており、2026年第2四半期の説明では約600億ドルを受託しているとした。新商品の投入により、個別発行体との運用契約に加えて、複数の適格発行体が利用できるファンド形式の準備運用を拡大しようとしている。
規制面では、準備資産の種類だけでなく、資産の分別管理、日次開示、償還能力、保管主体、監査可能性が問われる。トークン化ファンドは保有権の移転記録を効率化できるが、発行体がステーブルコイン保有者の請求へ確実に応じられるかは、ファンドから現金へ戻す手続きまで含めて判断する必要がある。
将来的にファンド持分を発行や償還の担保として直接利用できれば、ステーブルコイン発行体が現金を長時間待機させる必要は減る可能性がある。ただし、その実現にはファンド、発行体、銀行、決済網の間で、処理時間や本人確認基準をそろえる作業が必要になる。
初心者向け補足
マネー・マーケット・ファンドは、現金や短期国債など、満期が短く換金しやすい資産を中心に運用する投資信託である。価格の安定と日々の換金性を重視するため、企業や金融機関の短期資金置き場として利用される。
トークン化マネー・マーケット・ファンドでは、ファンドの持分をブロックチェーン上のトークンとして記録する。トークンは暗号資産のように見えるが、実体は投資信託の持分であり、利用できるのは本人確認を終えた承認済み投資家に限られる。
ステーブルコインは利用者に対する支払い手段であり、トークン化ファンドはその価値を裏側で支える準備資産になり得る。両者は同じ1ドル付近で扱われても役割が異なり、ステーブルコイン保有者がファンドの利息を直接受け取れるとは限らない。
また、ファンド持分をブロックチェーン上で移転できることと、いつでも無条件に現金化できることは別である。償還期限、利用資格、対応銀行、運用資産の状況などを確認する必要がある。
Web3Timesの視点
今回の新商品は、ブラックロックがトークン化ファンドを増やしたというだけでは捉えきれない。注目点は、ステーブルコインの準備管理を、資産運用会社が提供する規制ファンドへ組み込んだことにある。
ステーブルコイン市場が拡大するほど、発行体は準備資産の安全性、収益、換金性を同時に管理しなければならない。ブラックロックは、その運用部分を短期金融市場で担い、セキュリタイズやBNYがファンド持分をブロックチェーンへ接続する役割を担う。
これにより、ステーブルコインは単独の暗号資産商品ではなく、米国債、レポ市場、マネー・マーケット・ファンド、名義書換、ウォレット管理を束ねる金融サービスへ近づく。発行体の競争も、流通量や決済速度だけでなく、どの運用会社と組み、どの準備資産をどの時間帯で換金できるかへ広がる可能性がある。
今後確認すべきなのは、BRSRVの運用規模だけではない。実際にどのステーブルコイン発行体が準備資産として採用するのか、複数チェーン間の移転をどう管理するのか、オンチェーンで出された償還依頼が銀行現金へ戻るまでにどの程度の時間を要するのかが重要になる。
トークン化された準備ファンドが定着すれば、資産運用会社はステーブルコイン市場の外部委託先ではなく、発行と償還を支える基盤事業者になる。今回の投入は、RWA化が証券の表示方法を変える段階から、デジタル通貨の裏側にある資金管理を組み替える段階へ入ったことを示す事例である。
