Last Updated on 2026年7月22日 by oba3
機関投資家向けブロックチェーン「カントン(Canton)」を開発するデジタル・アセット(Digital Asset)は、韓国の新韓金融グループ(Shinhan Financial Group)と、スタンダードチャータード(Standard Chartered)の投資部門であるSCベンチャーズ(SC Ventures)から、追加で1000万ドルを調達した。
今回の追加出資により、直近の資金調達ラウンドは3億5500万ドルから3億6500万ドルへ拡大した。企業評価額は従来と同じ20億ドルとされる。追加額だけを見るとラウンド全体の一部にすぎないが、銀行グループと銀行系投資部門が新たに加わった点は、機関向けトークン化ネットワークの広がりを考えるうえで重要になる。
何が起きたのか?
デジタル・アセットは2026年7月21日、募集枠を上回る需要があった資金調達ラウンドに、新韓金融グループとスタンダードチャータードが戦略的投資家として加わったと発表した。報道によると、両社による追加出資の合計は1000万ドルで、評価額は20億ドルに据え置かれた。
同社は6月、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)の暗号資産部門であるa16zクリプト(a16z crypto)が主導する3億5500万ドルの調達を公表していた。参加企業には、BNPパリバ(BNP Paribas)、HSBC、シタデル・セキュリティーズ(Citadel Securities)、CMEベンチャーズ(CME Ventures)、ブロードリッジ(Broadridge)、SBIグループ、トレードウェブ(Tradeweb)などが含まれている。
追加出資後のラウンド総額は3億6500万ドルとなる。調達資金は、規制対象となる金融市場でカントンの利用を広げ、金融機関が資産、アプリケーション、取引処理をネットワークへ接続するための開発や導入支援に使われる見通しだ。
現時点で、新韓金融グループとスタンダードチャータードが具体的にどの資産や業務をカントンへ移すのか、追加出資額を両社がどの割合で負担したのかは公表されていない。今回確認できるのは、両社が投資家としてラウンドへ加わり、調達総額が1000万ドル増えたことまでである。
なぜ重要なのか?
今回の重要点は、1000万ドルという金額そのものより、カントンへ接続する金融機関の範囲が広がったことにある。新韓金融グループは韓国を基盤とする大手金融グループであり、スタンダードチャータードはアジア、中東、アフリカを含む複数地域で銀行業務を展開している。
トークン化された債券、国債、ファンド、担保などを金融機関同士で取引するには、発行企業だけでなく、銀行、証券会社、取引所、清算機関、資産管理会社が同じ仕組みへ接続する必要がある。一社が実証実験を行うだけでは、取引相手や決済手段が不足し、十分な市場を作りにくい。
デジタル・アセットの調達ラウンドには、技術投資家だけでなく、実際に金融市場で取引、仲介、清算、資産管理を担う企業が参加している。これは投資による資金提供と、将来の利用企業候補の獲得が重なっている点で、一般的なソフトウェア企業の資金調達とは性質が異なる。
市場構造への影響
実物資産のトークン化では、資産をブロックチェーン上へ発行する技術だけでなく、異なる金融機関のシステムを安全に接続する仕組みが必要になる。特に機関投資家の取引では、取引内容を市場全体へ公開せず、必要な当事者と規制当局だけが情報を確認できる設計が求められる。
カントンは、参加者ごとのプライバシーや権限を維持しながら、別々に構築された金融アプリケーションを相互接続することを狙う。銀行や証券会社は既存の顧客管理、法令順守、リスク管理を残したまま、必要な取引だけを他社と同期できる。この設計が実務で広がれば、一つの巨大な取引基盤へ全社が移行するのではなく、各社のシステムをつなぐ形でトークン化市場が形成される可能性がある。
そのため、投資家として参加する金融機関の数と種類は、単なる企業評価の材料にとどまらない。債券を発行する銀行、取引を仲介する証券会社、担保を管理する機関、価格形成を担う取引企業が加わるほど、カントン上で完結できる業務の範囲が広がる余地が生まれる。
資金・規制・流動性との関係
デジタル・アセットの評価額が20億ドルで維持されたことは、追加出資が前回ラウンドと同じ条件で行われたことを示している。今回の1000万ドルによって企業価値が新たに引き上げられたわけではなく、既存ラウンドへ戦略的な参加企業が追加された形である。
機関向けネットワークでは、開発企業への出資と実際の利用が結び付きやすい。金融機関は株主として事業の成長に関与しながら、自社の規制要件や業務上の要望をネットワーク設計へ反映しやすくなる。開発側にとっても、導入候補となる金融機関との接点を早い段階で確保できる。
一方、投資への参加が、そのまま大規模な資産発行や取引開始を保証するわけではない。トークン化商品を本格運用するには、各国の証券規制、顧客確認、資産保管、会計、決済の最終性などを整理する必要がある。今回の追加出資は接続候補の増加を示すが、実際の取引量は今後発表される商品、参加者、決済実績によって判断すべきである。
流動性の面では、同じネットワークへ金融機関が集まるほど、買い手と売り手を見つけやすくなる可能性がある。ただし、システムが接続されているだけでは流動性は生まれない。十分な発行残高、継続的な売買、現金や預金トークンによる決済、担保の移転が組み合わさって初めて、市場としての厚みが形成される。
初心者向け補足
トークン化とは、債券、国債、ファンド、不動産などの権利を、ブロックチェーン上で管理できるデジタル情報として表現する仕組みである。紙や複数の社内データベースで管理していた所有権や取引履歴を共有しやすくし、受け渡しや照合作業を自動化できる利点がある。
カントンは、暗号資産を個人同士で自由に売買することを主目的としたネットワークではない。銀行や証券会社などが必要とするプライバシー、アクセス制限、法令順守を保ちながら、異なる金融システム間の取引を同期させることに重点を置いている。
また、企業が20億ドルと評価されたことは、20億ドルの現金を保有しているという意味ではない。資金調達時の株式価格を基に、会社全体の価値を計算した数字である。今回実際に追加された資金は1000万ドルで、ラウンド全体の調達額は3億6500万ドルとなった。
Web3Timesの視点
今回の追加調達は、金額だけを見れば6月に公表された3億5500万ドルの大型ラウンドに比べて小さい。しかし、新韓金融グループとスタンダードチャータードが加わったことで、カントンを支える金融機関の地域的な接点は広がった。
機関向けトークン化市場で競争力を左右するのは、単独チェーンの処理速度だけではない。どの銀行が資金を供給し、どの証券会社が商品を扱い、どの取引基盤が売買を仲介し、どの仕組みで決済と担保移転を完了できるかが重要になる。ネットワークの価値は、接続された機関同士が実際の金融取引を成立させられるかによって決まる。
デジタル・アセットのラウンドには、銀行、取引会社、市場運営企業、金融情報会社、暗号資産企業が並ぶ。これはカントンが単なる技術基盤ではなく、既存金融の複数機能を結ぶ共通レイヤーを目指していることを表している。
次に確認すべきなのは、追加投資家の名前ではなく、その参加が具体的な資産や取引へどう変わるかである。新韓金融グループやスタンダードチャータードがカントン上で商品発行、担保管理、資金決済などを開始するのか、既存参加者との取引がどこまで増えるのかが焦点となる。今回の1000万ドルは、資金量の上積みよりも、機関金融を接続する範囲が一段広がった出来事として見る方が実態に近い。
