Coldcardの秘密鍵生成問題で1億ドル超のビットコイン被害、自己管理は単一秘密鍵を守る設計から障害点を分散する設計へ

Last Updated on 2026年8月10日 by oba3

ビットコイン(Bitcoin)専用ハードウェアウォレット「コールドカード(Coldcard)」で、秘密鍵の元になるシード生成時の乱数が弱くなる不具合が判明し、2026年7月30日以降、影響を受けたウォレットからビットコインが相次いで流出した。ギャラクシー・リサーチ(Galaxy Research)は8月4日時点の追跡で被害額を約1億3,000万ドルと推計している。今回の問題は、ハードウェアウォレットから秘密鍵が直接盗み出されたという単純な事故ではない。生成時の乱数不足によってシード候補を絞り込める状態が長期間残っていたことが核心だ。自己管理では秘密鍵を自分で持つことが安全性の中心とされてきたが、攻撃者の計算能力や探索能力が高まる環境では、その一つの秘密に資産管理権限を集中させる設計そのものを改めて考える必要がある。

目次

何が起きたのか?

コールドカードを開発するコインカイト(Coinkite)は7月30日、複数モデルのシード生成に使われる乱数処理についてセキュリティ警告を公表した。問題は2021年3月のソフトウェア変更にまでさかのぼり、本来利用する予定だったハードウェア乱数生成器ではなく、ソフトウェア側の疑似乱数処理がシード生成経路で使われる状態になっていた。

影響を受けたMk2とMk3では、本来約128ビットのランダム性を持つことが期待されるシードについて、実効的なエントロピーが約40ビットまで低下していた可能性がある。より新しいMk4、Q、Mk5でも、修正版以前に生成された一部シードは約72ビットだったと説明されている。

ギャラクシー・リサーチによると、攻撃者は端末そのものへ物理的にアクセスする必要がなく、端末情報やシード生成時期について一定の推測ができれば、候補となるシードをオフラインで計算し、公開されているビットコインアドレスと照合できた。7月30日から複数回にわたって資金移動が確認され、8月4日時点では少なくとも15の独立した攻撃者が問題を利用していると推定されている。

コインカイトは対象モデル向けの修正版ファームウェアを公開した。ただし更新によって安全になるのは新たに生成するシードであり、過去に弱い乱数で生成されたシード自体を強化することはできない。同社は対象ユーザーに対し、修正版で新しいシードを生成し、資産を新しいウォレットへ移すよう案内している。

なぜ重要なのか?

今回の事例は、コールドカードという一製品の欠陥だけで考えると本質を捉えにくい。自己管理型ウォレットでは、最終的に資産を動かす権限が秘密鍵やその元となるシードへ集中する。その値が第三者に再現されれば、端末を金庫に保管し、インターネットへ接続していなくても資産を守れない場合がある。

実際、今回の問題ではハードウェアウォレットを遠隔操作する必要すらなかった。攻撃者側でシード候補を計算し、ブロックチェーン上のアドレスと一致するものを探せる状態だったためだ。オフライン保管という防御策が有効なのは、そもそも秘密鍵が十分なランダム性を持って生成されているという前提が満たされている場合に限られる。

暗号資産の被害では、スマートコントラクトの欠陥だけでなく、秘密鍵やウォレット、運用基盤の侵害が大きな損失源になっている。過去の業界調査でも秘密鍵侵害が盗難額の大きな割合を占めており、攻撃対象がブロックチェーンそのものから、資産を動かす権限の管理へ移っていることが分かる。

市場構造への影響

自己管理の基本思想は、取引所やカストディ企業に秘密鍵を預けず、自分で資産の支配権を持つことにある。ただし仲介者を外したからといって、管理リスクそのものが消えるわけではない。リスクの置き場所が、取引所から端末、ファームウェア、乱数生成、バックアップ、秘密鍵管理へ移る。

そこで問題になるのが単一障害点だ。一つのシードだけで全資産を動かせる構成では、そのシード生成や保管が破られた瞬間に防御が崩れる。秘密鍵をオフラインに置くことは有効な対策だが、それだけでは生成段階の欠陥やバックアップ流出、フィッシング、端末侵害まで同時に解決できない。

このため大口保有者や法人では、複数鍵によるマルチシグ、複数地点への鍵分散、複数主体で署名権限を管理する方式など、単一の秘密へ全権限を集中させない設計の重要性が高まる。こうした方式にも運用の複雑さや復旧手順といった別のリスクはあるが、一つの鍵や一台の端末が破られただけで全資産を失う状態を避けやすい。

ウォレットの競争軸も変わる可能性がある。端末がオフラインかどうかだけでなく、シード生成をどのように検証できるか、鍵を複数に分散できるか、侵害が疑われたときに権限を切り替えられるかまで、安全性を評価する必要が出てくる。

資金・規制・流動性との関係

コールドカードの事例では、ファームウェアを更新するだけでは既存の危険なシードを修復できない。資産を守るには新しいシードとアドレスを作り、旧ウォレットから実際にビットコインを移動する必要がある。つまり脆弱性への対応が、そのままオンチェーン上の資金移動を伴う。

機関投資家にとっては、この復旧可能性もカストディ評価の一部になる。問題を検知した後に鍵を交換できるのか、複数署名者の一つだけを失効できるのか、資産全体を緊急移動する必要があるのかで、事故時の対応コストは大きく異なる。

またAIの進歩によってコード解析、脆弱性探索、候補生成と検証を自動化する能力が高まっている。ただし、今回のコールドカード攻撃についてAIが利用されたと確認されているわけではない。重要なのは、この事件をAI攻撃と断定することではなく、秘密情報の探索コストが技術進歩によって下がる環境では、弱い鍵や単一障害点を長期間放置する余裕が小さくなるという点だ。

規制面でも、カストディサービスを提供する企業では鍵生成、署名権限、バックアップ、復旧手順をどのように管理しているかが重要になる。秘密鍵を持っているという事実だけでは安全性を説明できず、鍵がどのように生成され、何人で承認し、障害時にどう交換できるかまで運用基準として問われる。

初心者向け補足

秘密鍵とは、ビットコインなどの暗号資産を動かすための署名に使う秘密の情報だ。ウォレットでは通常、シードフレーズと呼ばれる複数の単語から秘密鍵を生成・復元できる仕組みが使われている。そのためシードが他人に知られたり推測されたりすると、端末本体を盗まれていなくても資産を動かされる可能性がある。

エントロピーとは、簡単に言えば予測の難しさを表す。十分にランダムな128ビットの値と、候補範囲が大幅に狭まった40ビットの値では、攻撃者が総当たりで探す際の難易度が大きく異なる。今回の問題は暗号方式そのものが破られたのではなく、暗号方式へ渡す秘密情報を作る工程のランダム性が不足していた。

またマルチシグとは、資産を動かすために複数の秘密鍵による署名を要求する仕組みだ。例えば3つの鍵のうち2つが必要という設定なら、一つの鍵が侵害されただけでは資産を移動できない。ただし鍵の保管場所や復旧方法を適切に設計しなければ、逆に自分自身が資産へアクセスできなくなるため、単純に鍵の数を増やせば安全という話でもない。

Web3Timesの視点

Web3Timesが今回見るのは、コールドカードが安全なウォレットか危険なウォレットかという製品評価ではない。より重要なのは、暗号資産の自己管理が「秘密鍵を守れば終わり」という設計思想だけでは維持しにくくなっていることだ。

今回の問題は約5年前に入り込んだシード生成上の欠陥が、後になって大規模な資金流出へつながった。ここから分かるのは、保管時の安全性だけでは不十分ということだ。鍵が生成された瞬間から、更新、バックアップ、署名、復旧、交換までのライフサイクル全体を見る必要がある。

今後追うべきなのは被害総額だけではない。ウォレット事業者が乱数生成をどのように検証するのか、重大な問題を何日で検出し修正できるのか、既存ユーザーの鍵を安全に更新できる仕組みがあるのか、そして大口保有者が単一シードから複数の承認主体へ移行するかが重要になる。

AIによって攻撃側の探索や自動化能力が高まるほど、防御側も一つの秘密が永遠に守られることを前提にしにくくなる。自己管理の次の課題は秘密鍵をさらに隠すことだけではない。一つの鍵が破られても資産全体を失わず、問題発生後に権限を交換できる設計へ進めるかどうかにある。

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