Last Updated on 2026年8月21日 by oba3
暗号資産ウォレットのマネーロンダリング対策(AML)確認を装い、利用者にウォレット接続や取引承認を求める偽サービスが確認された。サイバーセキュリティ企業のマルウェアバイツ(Malwarebytes)が2026年8月19日に報告したもので、正規のコンプライアンス確認を受けているように見せながら、最終的には利用者自身に攻撃者が用意した取引を承認させる仕組みだ。今回の問題は単なる偽サイトではない。規制対応や資金の安全性を確認したいという利用者の心理そのものが、暗号資産を盗むための入口として利用されている。
何が起きたのか?
マルウェアバイツによると、攻撃者は正規の暗号資産AML確認サービスであるAMLボット(AMLBot)を模倣したサイトや、「AML Check」などの名称を使った偽サービスを展開していた。サイトでは暗号資産の種類を選び、「ウォレットを確認する」といった操作を進めると、利用者にウォレット接続を要求する。
接続後には「ウォレット履歴を確認中」「コンプライアンスを検証中」といった表示が出され、本物のAML審査が行われているように演出される。確認された一部のサイトでは、処理途中で手数料を補うための少額入金が必要だという偽のエラーも表示された。その後は実際の審査が行われたかに関係なく、安全性が低リスクであるかのような結果を表示し、利用者を安心させていた。
重要なのは、ウォレットを接続しただけで直ちに資産が移動するわけではない点だ。接続によって公開アドレスが攻撃者側に伝わると、そのアドレスに保有されている資産を確認できる。攻撃者はその情報を基に利用者向けの取引を生成し、最終的に本人へ承認させることで資金へのアクセスを狙う。マルウェアバイツは複数の名称やロゴで同様の仕組みを確認しており、同じ攻撃テンプレートが再利用されている可能性を指摘している。
なぜ重要なのか?
通常の基本的なAML確認では、対象ウォレットの公開アドレスがあれば取引履歴を調べられる。利用者がウォレットそのものを接続したり、トークンへのアクセス権限を与えたり、取引へ署名したりする必要はない。この違いが今回の攻撃を見分ける重要なポイントになる。
これまで暗号資産のフィッシングでは、エアドロップ、NFT、投資機会、ウォレット更新などが誘導材料として使われてきた。今回特徴的なのは、「危険な資金を受け取っていないか確認したい」「AML上の問題を避けたい」という防御的な行動が逆に利用されていることだ。安全確認のために行った操作が、攻撃者へ取引承認を与える入口へ反転している。
市場構造への影響
暗号資産市場では、規制対応が取引所や金融機関だけの問題ではなくなっている。個人利用者や企業も、受け取る資産が制裁対象やハッキング資金と関係していないかを意識する場面が増えている。その需要が高まれば、ウォレット評価やコンプライアンス確認を提供するサービスも増える。
一方で、利用者から見れば正規サービスと偽サイトを外見だけで区別することは難しい。AML、本人確認、資金源確認といった言葉には正当な手続きを想起させる力があるため、攻撃者にとって信用を作りやすい。コンプライアンスサービスが普及するほど、その名称や操作画面を模倣した社会工学攻撃も成立しやすくなるという別のリスクが生まれる。
資金・規制・流動性との関係
今回の攻撃では、規制そのものが資産を危険にしているわけではない。問題は、規制対応に対する利用者の不安や知識差が、資金移動を承認させる材料として利用されていることだ。暗号資産では一度承認された取引を後から取り消すことが難しく、不正な権限付与や署名がそのまま資金流出につながる場合がある。
今後、銀行、取引所、ステーブルコイン事業者、ウォレットなどでAML対応が一般化すれば、利用者が目にするコンプライアンス関連の通知や確認手続きも増える。その際に「AML確認だからウォレット接続が必要」「規制対応だから署名しなければならない」と誤認する利用者が増えれば、制度対応そのものがフィッシングの信頼材料として悪用される余地も広がる。
初心者向け補足
AML確認とは、あるウォレットがハッキング、詐欺、制裁対象などと関連していないかを過去の取引履歴から調べる作業だ。ブロックチェーン上の取引履歴は公開されているため、基本的な確認で必要なのは調べたいウォレットの公開アドレスであり、秘密鍵やリカバリーフレーズを渡す必要はない。
また、「ウォレットを接続すること」と「資産移動を承認すること」は別の操作である。接続だけなら通常は資産を自由に移動させる権限までは与えないが、その後に表示されるトークン承認や取引署名を受け入れると状況が変わる。AML確認を名乗るサービスから予期しない署名や送金、トークンへのアクセス許可を求められた場合は、通常の確認手続きとは異なる可能性を考える必要がある。
Web3Timesの視点
このニュースで注目すべきなのは、AML規制が強くなったことではなく、「規制対応」という言葉が新しい社会工学攻撃の信用装置として使われ始めている点だ。攻撃者は暗号技術を破る必要がない。利用者に安全確認だと思わせ、自分でウォレットを接続し、自分で承認ボタンを押させればよい。
暗号資産の利用が金融制度へ組み込まれるにつれ、利用者はKYCやAML、資金源確認といった手続きを日常的に目にするようになる。その変化は市場の信頼性を高める一方、手続きの意味を十分理解していない利用者を狙う攻撃にも新しい材料を与える。
今後必要になるのは、規制対応サービスを増やすことだけではない。公開アドレスの照会で完結する操作と、資産への権限を与える操作をウォレット側でも明確に区別し、利用者が署名の意味を理解できる設計にすることが重要になる。コンプライアンスが普及するほど、「規制らしさ」を悪用した攻撃への防御もインフラの一部として考える必要が出てくる。
