Last Updated on 2026年8月28日 by oba3
分散型融資プロトコルのムーンウェル(Moonwell)が2026年8月27日、ベース(Base)上のMAMO Core Marketで発生した問題の調査を開始し、被害拡大を防ぐためBase上の主要市場で新規借入を事実上停止した。セキュリティ企業のサーティック(CertiK)やペックシールド(PeckShield)は、低流動性のMAMOを担保として扱う市場で価格操作が行われ、約870万ドル相当の資産が影響を受けた可能性を指摘している。今回見るべきなのは最終的な被害額だけではない。DeFi融資では一つの担保価格の異常が借入可能額を変え、別の資産の流出や不良債権へ連鎖するという信用市場特有の構造が改めて示された。
何が起きたのか?
ムーンウェルは8月27日、Base上のMAMO Core Marketに問題が発生しているとして調査を開始した。同時に予防措置として、Base上のすべてのCore Marketで借入上限を1weiまで引き下げ、新規借入を事実上停止した。MAMOとWELLについては供給上限も1weiへ変更し、それ以外の資産の供給上限は維持した。
サーティックとペックシールドはオンチェーン取引を分析し、約870万ドル規模の影響を推計している。サーティックによれば、攻撃者は比較的流動性の低いMAMOの担保価格を押し上げ、その評価額を利用してムーンウェルから実際に価値を持つcbBTCなどを借り出したとみられる。
ブロックエイド(Blockaid)も同様の動きを検知し、初期段階だけで50.6cbBTC、400万ドル超がmCBTC市場から引き出されたと報告した。その後の分析では、cbBTCに加えてUSDC、wstETH、ETHなども借り出されたとされ、資産は最終的にDAIへ集約されたとの観測が出ている。
ただしムーンウェル自身は現時点で詳細な事後分析を公表しておらず、約870万ドルという数字もセキュリティ企業による推計だ。最終的な損失額、各市場に残る不良債権、預金者への影響、問題を可能にした価格参照方式については今後の公式説明を確認する必要がある。
なぜ重要なのか?
DeFi融資では、借り手の所得や信用履歴を審査する代わりに、預けられた暗号資産の市場価格を基に借入可能額を決める。そのため価格情報は単なる参考データではなく、どれだけ資金を貸し出してよいかを決める信用審査そのものになる。
例えば実際には100万ドル程度の市場価値しか支えられない担保が、価格参照の仕組みによって一時的に数倍高く評価されれば、その過大評価を基にUSDCやBTCなど流動性の高い資産を借りられる可能性がある。その後に担保価格が元へ戻っても、借り出された資産を回収できなければプロトコル側には穴が残る。
つまり問題は一つのトークン価格が操作されたことだけではない。価格情報が担保価値へ変換され、担保価値が借入枠へ変換され、その借入枠を通じて別の預金資産が外へ流出するという連鎖にある。
市場構造への影響
融資市場の安全性は、最も流動性の高いBTCやUSDCだけを見ても判断できない。担保として認められている資産の中に流動性が薄く、価格を動かしやすいトークンが存在すれば、その資産が市場全体への入口になる。
利用者がUSDCを預けていても、そのUSDCを借りられる条件が別の低流動性トークンの担保価格によって決まる場合、預金者は間接的にその価格リスクを負う。DeFi融資では資産ごとの市場が独立して見えても、借入機能を通じて担保と預金がつながっているためだ。
今回ムーンウェルがMAMO市場だけではなくBase上の全Core Marketで借入上限を1weiへ落としたことは、この伝播リスクを示している。一つの担保市場の異常でも、別資産の借り出しを止めなければ影響が広がる可能性があるため、信用供給全体を一時的に絞る必要が生じた。
資金・規制・流動性との関係
融資プロトコルが新しい担保資産を追加すると、利用可能な資本は増える。保有者はそのトークンを売却せず借入へ利用でき、プロトコル側も貸出需要を拡大できる。しかし担保資産の流動性が低い場合、清算時にその資産を十分な価格で売却できるかという別の問題が生まれる。
価格参照と清算流動性はセットで考える必要がある。画面上で100万ドルと評価される担保でも、実際の市場で大量売却すると価格が大きく崩れるなら、貸し手が回収できる価値はそれより小さい。担保掛け目、借入上限、供給上限、価格オラクル、清算条件を組み合わせて管理しなければならない理由がここにある。
ムーンウェルは今回、借入上限と一部資産の供給上限を急速に引き下げることで追加流出を防ごうとした。今後はMAMOを担保として採用した際の流動性評価、価格参照方式、異常価格を検知する仕組みがどのように設定されていたかが重要な検証点になる。
初心者向け補足
DeFiのレンディングでは、利用者AがUSDCを預け、その資金を利用者Bが暗号資産を担保に借りる。銀行のように担当者が借り手を審査するのではなく、スマートコントラクトが担保価格を確認して自動的に借入上限を計算する。
ここで担保価格が実態より高く表示されると、本来より多くの資産を借りられる。後から担保価格が下がって清算しようとしても、担保を売却した金額だけでは貸した資産を回収できず、不足分が市場に残る場合がある。この不足が預金者の引き出し可能額やプロトコルの財務へ影響する可能性がある。
Web3Timesの視点
今回の事件を約870万ドルのハッキングとしてだけ見ると、DeFi融資で本当に重要な部分を見落とす。信用市場で危険なのは、単独のスマートコントラクトが破られる場合だけではない。担保として認めた資産の価格が誤って評価されるだけでも、正常に動いている借入機能を通じて価値の高い資産を外へ移動できる。
その意味で、オラクルは価格表示サービスではなく信用供給を制御する金融部品だ。担保上限も単なる設定値ではなく、一つの資産で問題が起きた際に損失が市場全体へ広がる量を制限する防波堤になる。
今後注目すべきなのは最終的な損失額だけではない。ムーンウェルがどの価格参照方式を修正するのか、低流動性資産の担保採用基準を変更するのか、不良債権が発生した場合に預金者へどう処理するのかが重要になる。DeFi融資が大きな信用市場になるほど、安全性を決めるのはコード監査だけではなく、担保選定、価格取得、借入上限、清算流動性を一つのリスク管理システムとして運用できるかどうかになる。
