Last Updated on 2026年8月28日 by oba3
ムーンペイ(MoonPay)が、AI向け決済基盤ペイボックス(PayBox)にソラナ(Solana)の融資プロトコル、カミノ(Kamino)を統合した。対象ユーザーはChatGPTやクロード(Claude)との会話から、暗号資産の貸し出しや担保を使ったUSDCの借り入れを実行できる。重要なのはAIでDeFi操作が簡単になったことだけではない。これまで人間が判断していた貸し出し、借り入れ、担保管理という信用市場の操作を、事前に設定した権限の範囲でソフトウェアが実行できるようになった点だ。
何が起きたのか?
ムーンペイは2026年8月27日、ペイボックスへカミノを追加した。カミノはソラナ上の主要なレンディング市場の一つで、利用者は暗号資産を預けて利回りを得たり、預けた資産を担保に別の資産を借りたりできる。
今回の統合では、適格なユーザーがAIとの会話を通じて、カミノへの資産供給や暗号資産担保によるUSDCの借り入れを指示できる。新しい融資商品をムーンペイが発行したわけではなく、カミノ上にすでに存在する信用市場へAIインターフェースからアクセスできるようにしたものだ。
ペイボックス自体は2026年7月に開始され、決済、トークンスワップ、ブリッジ、Aaveを利用した運用などに対応していた。今回カミノが加わったことで、AIが扱える範囲が決済や資産交換から、ソラナ上の担保付き信用へ広がった。なお、この統合は米国、英国、EU、オーストラリアでは利用できず、対象資産や地域によって提供条件も異なる。
なぜ重要なのか?
従来のDeFiでは、人間がアプリを開き、担保比率や金利を確認してから取引を承認する必要があった。ペイボックスでは「USDCを借りる」「資産を貸し出す」といった目的をAIへ伝えると、AIが必要なオンチェーン操作を準備できる。
さらにユーザーは、すべての取引をパスキーで個別承認する方式と、あらかじめ設定した上限の範囲内でAIに自律実行を認める方式を選べる。後者ではAIが単なる案内役ではなく、ユーザーが定めた条件に従って実際の資金移動を行う執行主体になる。
市場構造への影響
信用市場で重要なのは、誰が資金をどこへ配分するかだ。これまでは人間が金利や担保状況を見て、貸し出すか、借りるか、返済するかを判断していた。AIエージェントがこの操作を継続的に実行できるようになれば、市場参加者という概念が個人や金融機関だけでなく、ユーザーから権限を与えられたソフトウェアへ拡張する。
例えばAIが複数の市場を監視し、設定されたリスク範囲内で資産を貸し出したり、必要な資金を借りたり、ポジションを調整したりする仕組みへ発展すれば、DeFiの資本配分速度は人間の操作頻度に制約されにくくなる。
ただし現時点で確認されているのは、カミノとの統合による貸し出しと借り入れへのアクセスだ。AIが完全に独立して長期的な信用戦略を運用する段階まで到達したわけではない。自律性はユーザーが設定した権限と限度の中で与えられる。
資金・規制・流動性との関係
AIが操作しても、DeFi融資の経済的な仕組みは変わらない。暗号資産を担保にUSDCを借りた場合、担保価値が下落してカミノの清算基準を下回れば、第三者による清算が発生する可能性がある。自然言語で操作できることは、信用リスクをなくすものではない。
むしろ自律実行が広がれば、権限管理の重要性が高まる。ペイボックスでは、取引ごとに人間の承認を必要とする設定に加え、自律モードでもユーザーが利用限度を定める。秘密鍵はMPCと安全な実行環境を使って保護され、ムーンペイやAI単独では資金を移動できない設計となっている。
将来的に複数の融資市場へ対応すれば、AIが金利や担保条件を比較して資金を振り分ける余地も生まれる。その場合、流動性を獲得する競争は人間向けアプリの使いやすさだけでなく、AIが接続しやすいAPIや権限管理を提供できるかにも左右される可能性がある。
初心者向け補足
DeFiの融資では、銀行員が借り手を審査する代わりに、利用者が暗号資産を担保として預ける。例えば一定額の暗号資産をカミノへ預け、その価値の範囲内でUSDCを借りる。担保価値が大きく下がれば、貸し手側を守るため担保が自動的に清算される場合がある。
今回変わったのは、この仕組みそのものではなく操作する主体だ。人間がDeFi画面を一つずつ操作する代わりに、AIへ目的を伝え、そのAIが許可された範囲でオンチェーン取引を準備または実行する。
Web3Timesの視点
今回のニュースをAIで暗号資産融資が簡単になったというUX改善だけで見ると、本質を捉えにくい。注目すべきなのは、信用市場における資本配分の執行権限がソフトウェアへ渡り始めたことだ。
これまでAIエージェントによる暗号資産利用は、小額決済、スワップ、送金など比較的単純な資金移動が中心だった。融資では担保、金利、借入残高、清算水準を継続的に管理する必要がある。ここへAIが入ることは、単発の決済を自動化するより金融的な意味が大きい。
今後見るべきなのはAIが何回取引したかではない。複数のレンディング市場を比較して資本を移動できるのか、借入と返済を自律的に管理できるのか、ユーザーが設定したリスク制限をどこまで確実に守れるのかが重要になる。人間が金融アプリを操作する市場から、ソフトウェアが資本を継続的に配置する市場へ移れば、DeFiの競争相手は利用者だけでなくAIエージェントから選ばれるための金融プロトコルへ変わっていく。
