NEAR IntentsがBitget侵害資金5000万ドル超の移動を検知、ソルバー型取引で検閲耐性と資金遮断を両立する設計が焦点に

Last Updated on 2026年9月30日 by oba3

クロスチェーン取引基盤のニア・インテンツ(NEAR Intents)は、ビットゲット(Bitget)の9月24日の侵害に関連する資金について、5000万ドルを超える移動試行を検知したと明らかにした。重要なのは、この5000万ドル超がすべてNEAR Intentsを通過したわけではない点だ。同サービスによると、約50万3000ドル相当を途中で停止し、約16万6000ドル相当は処理を通過した一方、拒否された資金の多くは別のサービスへ移った。

今回の焦点は、ハッカーがいくら交換したかだけではない。NEAR Intentsは利用者の希望する交換条件を受け取り、複数のソルバーが実行方法を提示するインテント型の取引基盤だ。こうした許可不要型の市場でも、盗難資金を検知した際に誰が処理を止められるのか、どの段階まで介入できるのかという運営権限が存在する。検閲耐性と犯罪資金遮断をどの層で両立させるかが、クロスチェーン市場の設計課題として表面化した。

目次

何が起きたのか?

ビットゲットでは9月24日に大規模なセキュリティー侵害が発生し、その後の調査で流出額は約3億8750万ドル相当とされた。攻撃者は複数のブロックチェーンや交換サービスを使い、盗難資産の移動や交換を進めている。

NEAR Intentsのゼネラルマネージャーであるアレックス・シェフチェンコ(Alex Shevchenko)氏によると、同サービスではビットゲット事件に関連すると判断した5000万ドル超の取引試行を確認した。重複した試行を除いた推計であり、実際の金額には一定の誤差があり得るとしている。

ただし、この金額をNEAR Intentsで完了したスワップ総額と扱うのは正確ではない。同サービスのSHIELDと呼ばれる仕組みが異常な資金フローを検知し、約50万3000ドル相当を実行途中で停止した。約16万6000ドル相当については処理を通過したとされる。

SHIELDはKYTと呼ばれる取引追跡情報、外部のインテリジェンス提供者、独立調査、企業や大手中央集権型事業者からの情報などを組み合わせ、疑わしい資金フローを判定する。拒否された取引の多くは、その後別のサービスを通じて移動したと説明されている。

停止された資金は現在、法的手続きや回収手続きが進むまで保留されている。一方で、誰が最終的に資金の解放を承認するのか、誤って問題資金と判定された利用者がどのように異議を申し立てられるのかについては、現時点で十分に明らかにされていない。

なぜ重要なのか?

NEAR Intentsの仕組みは、従来の取引所とは異なる。利用者が特定の取引経路を自分で指定するのではなく、「この資産をこの条件で別の資産へ交換したい」という結果を提示し、それを実現するソルバーが競争する。

この構造では、ユーザーインターフェース、ソルバー、流動性提供者、監視システムなど複数の主体が一つの取引に関わる。そのため「ブロックチェーンが許可不要か」という問いだけでは、誰が取引を止められるのかを説明できない。

今回NEAR Intentsは、ネットワーク上の資産保有そのものを凍結したわけではない。NEAR上で資産を保有したり送金したりする権利は残る一方、自社のインテント実行サービスを経由する取引については追加のチェックを行い、疑わしい資金を処理しない判断をした。

つまり、基盤となるブロックチェーンが許可不要でも、その上に構築される取引サービスまで完全に中立であるとは限らない。今回の事案は、その境界を具体的に示した。

市場構造への影響

クロスチェーン市場では、これまで速度、対応チェーン数、手数料、価格効率などが競争軸になってきた。しかし大規模な盗難資金が複数チェーンを移動するようになると、「誰がどこで資金を止められるか」もインフラ性能の一部になる。

インテント型取引では、ソルバーがユーザーの目的を実現するために複数の流動性源やチェーンを横断する。その柔軟性は価格改善や利便性につながる一方、不正資金が複数市場へ分散する経路にもなり得る。

そこで重要になるのが、監視と実行をどの層で分離するかだ。ユーザーが資産を保有する権利はネットワーク側で維持しつつ、特定のソルバーや取引サービスは独自のリスク判断で処理を拒否する。この構造なら、基盤全体を停止せずに一部の資金フローだけを制限できる。

一方、それは誰かが取引可否を判断する権限を持つことも意味する。誤判定、政治的圧力、法域ごとの制裁判断などが異なれば、同じ資産でも利用できるソルバーや流動性経路が分かれる可能性がある。

資金・規制・流動性との関係

ビットゲット侵害後の対応では、資産やサービスごとに資金遮断能力の違いが表れている。USDCやUSDTでは発行体が関連資金の一部を凍結した一方、発行者による凍結機能を持たない資産では取引所やスワップサービスへ到達した段階での対応が重要になる。

NEAR Intentsの場合、資産そのものを発行者権限で停止するのではなく、交換処理に入った段階でSHIELDが介入する。これは発行体によるブラックリストとも、ブロックチェーン全体の停止とも異なる中間的な資金遮断モデルだ。

同じ事件では、ソーチェーン(THORChain)が攻撃者アドレスを選択的に停止しない立場を取り、NEAR Intentsとは異なる対応を示した。つまりクロスチェーン市場には、検閲耐性を優先する基盤と、一定のリスク判断を実行層へ組み込む基盤が同時に存在している。

規制対象となる金融機関がインテント型基盤を利用する場合、この違いは重要になる。どの資金を拒否できるのか、誰がリスク判定を行うのか、誤判定時にどの手続きで解除するのかが明確でなければ、大規模な決済やRWAの移転には利用しにくい。

初心者向け補足

インテント型取引とは、利用者が取引手順ではなく結果を指定する仕組みだ。たとえば「このETHをできるだけ有利な条件でBTCへ変えたい」と希望を出し、複数のソルバーがその条件を満たす経路を探す。

ソルバーは取引所、分散型取引所、クロスチェーン流動性などを組み合わせて結果を実現する。利用者自身がどのブリッジや流動性プールを使うかを細かく操作しなくてよいことが利点になる。

一方で、ソルバーやその周辺サービスが取引を実行するため、誰でも資産を保有できることと、誰でも同じサービスを利用できることは別になる。NEAR Intentsは今回、疑わしい資金について自社の交換処理を拒否した。

そのため「パーミッションレス」という言葉も分けて考える必要がある。ブロックチェーン自体が許可不要であることと、特定のアプリや流動性提供者がすべての取引を無条件に処理することは同義ではない。

Web3Timesの視点

今回を5000万ドル規模のハッカー資金移動としてだけ追うと、インテント市場で起きている重要な変化を見落とす。焦点になるのは、ソルバー型の取引基盤で実際に誰が取引を止める権限を持っているかだ。

インテント設計は、複雑なクロスチェーン処理を利用者から隠し、最適な経路をソルバー側に任せる。その一方、実行主体が存在することで、完全に自動化されたスマートコントラクトとは異なる介入点も生まれる。今回のSHIELDはその介入点を不正資金対策へ使った。

ここで市場が問われているのは、検閲するかしないかという二択ではない。基盤チェーンでは資産保有や送金を許可不要のまま維持し、特定の取引サービスではリスクチェックを入れるのか。さらに複数のソルバーが異なるポリシーを採用できるのかという階層設計が重要になる。

この構造が成熟すれば、オンチェーン市場でも利用者は安全性や検閲耐性の異なる実行経路を選ぶようになる可能性がある。金融機関向けには厳格なKYTを持つソルバー、より中立性を重視する市場には介入を抑えたソルバーというように、流動性だけでなく取引ポリシーも競争軸になり得る。

今後見るべきなのは、NEAR Intentsがいくらの盗難資金を止めるかだけではない。SHIELDの判断基準がどこまで透明化され、誤検知時の救済手続きが整備され、ソルバーごとに異なる安全ポリシーを選択できるのかである。インテント型市場が金融インフラへ広がるほど、誰でも使えることと、犯罪資金をどこで遮断するかを両立する設計が中核課題になっていく。

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