JPモルガンがハイパーリキッドの成長はUSDC収益を脅かすと分析、ステーブルコイン収益の主導権は発行体から流通先へ移り始める

Last Updated on 2026年7月15日 by oba3

JPモルガン(JPMorgan)は、分散型デリバティブ取引基盤のハイパーリキッド(Hyperliquid)の成長が、サークル(Circle)のユーエスディーコイン(USD Coin・USDC)収益構造に圧力をかけると分析した。焦点になっているのは、USDCそのものの信用力ではなく、USDCがどこで流通し、その準備資産から生まれる収益を誰が受け取るのかという分配構造である。

ハイパーリキッドは、取引利用者の証拠金や待機資金としてUSDCを多く扱う。ステーブルコイン発行体にとって、流通量の拡大は通常プラス材料だ。しかし、取引基盤側がユーザーと流動性を握り、発行体や提携先に収益分配を求めるようになると、発行体が準備資産から得てきた収益は圧迫される。ステーブルコイン市場は、発行額の競争だけでなく、流通先との交渉力を巡る競争へ入っている。

目次

何が起きたのか?

JPモルガンは、ハイパーリキッドの成長とUSDC関連の提携条件が、サークルとコインベース(Coinbase)の収益見通しに影響すると指摘した。ハイパーリキッドはオンチェーンのデリバティブ取引で存在感を高めており、同プラットフォーム上で使われるUSDC残高が増えるほど、ステーブルコイン流通における同社の交渉力も強くなる。

USDCの発行体であるサークルは、利用者から受け入れたドル相当額を現金や短期米国債などの準備資産で保有し、そこから得られる利息収入を重要な収益源としてきた。コインベースもUSDCの流通や利用に関わり、準備資産収益の一部を受け取る関係にある。

一方、ハイパーリキッドのような大型流通先が成長すると、発行体側はUSDCを使ってもらうために、収益の一部を取引基盤側へ渡す必要が出てくる。報道では、ハイパーリキッドとの条件がサークルとコインベースの収益に短期的な逆風となり、長期的にはUSDC経済そのものへの圧力になると分析されている。

現時点で重要なのは、USDC需要が減ったという話ではない点だ。むしろ、利用先が成長しているからこそ、収益配分の力関係が変わっている。未公表の部分として、今後どのプラットフォームが同様の条件を求めるのか、サークルが収益分配をどこまで許容するのか、コインベースとの分担がどう変わるのかは引き続き確認が必要になる。

なぜ重要なのか?

ステーブルコインの収益構造は、表面上は単純に見える。発行体がドルを受け取り、同額のトークンを発行し、裏付け資産から利息を得る。しかし実際には、そのトークンを誰が流通させ、どのアプリがユーザーを集め、どの取引所が残高を抱えるかによって収益の取り分は変わる。

ハイパーリキッドのような取引基盤は、ユーザー、取引量、証拠金残高を握る立場にある。発行体にとっては、そうした場所で採用されることが流通拡大に直結する。一方で、流通先が大きくなるほど、発行体は収益を独占しにくくなる。

これは、ステーブルコイン市場の主導権が発行体だけにあるわけではないことを示す。USDCのブランド、規制対応、準備資産の透明性は重要だが、実際にユーザーが資金を置く場所は取引所、DeFi、ウォレット、決済アプリである。流通先が顧客接点を握るほど、収益配分の交渉は発行体に不利になりやすい。

市場構造への影響

今回の分析は、ステーブルコイン市場が発行競争から流通競争へ移っていることを示している。これまでは、どの発行体が最も大きな発行残高を持つか、どのステーブルコインが安全か、どの規制に準拠しているかが注目されてきた。今後は、それに加えて、どのプラットフォームが利用者の残高を集めているかが重要になる。

発行体にとって、取引基盤は単なる顧客ではなく、流通網そのものになる。ハイパーリキッドが大きなUSDC残高を抱えるなら、サークルにとって同社との関係は無視できない。逆にハイパーリキッド側は、USDC以外のステーブルコインや独自条件を比較材料にできるため、より有利な収益分配を求めやすくなる。

この構図は他のDeFiや取引所にも広がる可能性がある。大型の流通先が、発行体に対して準備資産収益の一部還元を求めるようになれば、ステーブルコイン発行体の利益率は下がりやすい。発行量が増えても、すべての収益が発行体に残るとは限らない市場へ変わっていく。

資金・規制・流動性との関係

USDCのような法定通貨連動型ステーブルコインは、暗号資産市場のドル流動性を支える基盤である。取引所での証拠金、DeFiの担保、送金、決済、待機資金として使われるため、流通先が成長すれば市場全体の資金効率も高まりやすい。

ただし、流通先が収益分配を求める構造は、発行体の収益安定性を揺さぶる。サークルは規制対応や準備資産管理を担う一方、ユーザー獲得を行う取引基盤側にも報酬を渡す必要がある。これは、金融インフラにおける発行者と販売チャネルの関係に近い。

規制面では、ステーブルコイン発行体には準備資産の透明性、償還能力、マネーロンダリング対策、制裁対応が求められる。これらの負担は発行体側に残りやすい。一方、収益の一部が流通先へ移るなら、発行体は規制コストを負いながら利益率を守る必要がある。

流動性の観点では、ハイパーリキッドの成長はUSDCの利用拡大に寄与する。しかし、同時に発行体の収益独占を崩す。ステーブルコイン市場では、流通量が増えることと、発行体の利益が増えることが必ずしも同じではなくなっている。

初心者向け補足

ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨と価格が連動するように設計された暗号資産である。USDCは代表的なドル連動型ステーブルコインで、暗号資産取引、送金、DeFi、決済に広く使われている。

発行体の収益は、利用者が預けたドルの裏付け資産から生まれる利息に大きく依存する。たとえば、発行体が準備資産として短期米国債を持っていれば、その利息が収益になる。金利が高い環境では、この収益は大きくなりやすい。

しかし、ステーブルコインを実際に使う場所は、取引所やDeFiアプリである。そうした流通先が多くのユーザーを集めると、発行体に対して収益の一部を分けるよう求める力を持つ。つまり、ステーブルコインのビジネスでは、発行する力だけでなく、使われる場所を押さえる力も重要になる。

Web3Timesの視点

JPモルガンの分析で重要なのは、ハイパーリキッドの成長がUSDC需要を弱めるという話ではなく、USDCが使われるほど収益配分の問題が表面化するという点だ。ステーブルコインは発行体だけで成り立つ商品ではない。流通先、取引基盤、ウォレット、マーケットメーカーがそろって初めてネットワーク効果を持つ。

サークルにとって、ハイパーリキッドのような成長プラットフォームは重要な流通先である。一方で、その重要性が高まるほど、取引基盤側はより大きな取り分を求めやすい。これは、ステーブルコインの利益が準備資産から自動的に発行体へ流れる時代が終わりつつあることを示している。

今後の焦点は、USDCの発行体がどこまで収益を分配して流通を取りに行くのか、競合ステーブルコインが同様の条件を提示するのか、主要取引基盤が独自ステーブルコインや提携通貨を採用するのかである。流通先を握る企業が増えるほど、ステーブルコイン市場の利益配分は発行体中心からプラットフォーム中心へ揺れ動く。

ステーブルコインは、暗号資産市場の決済通貨であると同時に、金利収益を生む金融商品でもある。だからこそ、誰が発行し、誰が流通させ、誰が顧客を持つのかが市場構造を左右する。ハイパーリキッドの成長は、ステーブルコイン経済の主導権が利用先の側へ移り始めたことを示す象徴的な事例である。

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