Last Updated on 2026年9月17日 by oba3
米上院でCLARITY法案のクローチャーが49対50で否決された翌日、米証券取引委員会(Securities and Exchange Commission・SEC)と米商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission・CFTC)の両トップが、議会立法を待たず既存の法的権限で暗号資産ルールを前進させる姿勢を改めて示した。SECのポール・アトキンス(Paul Atkins)委員長は「立法の有無にかかわらず」SECの権限内で行動すると表明し、CFTCのマイケル・セリグ(Michael Selig)委員長も既存の制定法上の権限を使って規則整備を進める考えを示した。議会が止まったから規制整備も止まるわけではない。今後は、恒久法になる前に行政機関が取引所、発行、カストディ、レバレッジ取引などの実務ルールを先に作る可能性が高まっている。
何が起きたのか?
米上院は9月15日、H.R.3633として進められていたCLARITY法案の審議入りに必要なクローチャーを49対50で否決した。必要だった60票には届かず、SECとCFTCの暗号資産監督区分を議会制定法として整理する工程はいったん停止した。
翌16日、アトキンス氏は、CLARITY法案に関わった議会や業界関係者へ謝意を示したうえで、法律が成立するかどうかにかかわらず、SECは現在持つ法的権限の範囲で規制上の明確性を提供すると表明した。
セリグ氏も同日、米国には暗号資産市場の規制上の明確性、法的確実性、利用者保護が必要だとして、CFTCが既存権限を使って規則を進める準備ができていると説明した。
両当局の動きは今回の採決後に突然始まったものではない。SECは3月に暗号資産へ連邦証券法をどう適用するかについてCFTCと共同で解釈を公表し、8月には暗号資産を伴う一定の投資契約向けに新しい発行免除制度を設ける規則案「レギュレーション・クリプト・アセッツ(Regulation Crypto Assets)」を公表している。
なぜ重要なのか?
CLARITY法案が成立すれば、どの市場をSECが監督し、どのデジタル商品市場をCFTCが監督するのかを議会が法律として定められる。一方、法案が止まっている間にも暗号資産企業は新商品を発行し、取引所や銀行はサービスを設計しなければならない。
その空白を埋めるのが行政規則だ。SECは暗号資産の発行、カストディ、移転代理人制度など既存証券法と接続する領域を進めることができる。CFTCも商品取引所法の範囲で、暗号資産取引所やレバレッジ・証拠金取引をどのように監督できるか検討を進めている。
つまり米国では、包括法が完成してから詳細ルールを作る順番ではなく、行政機関が先に実務を整え、その後に議会が恒久法として境界を固定する順序へ変わる可能性がある。
市場構造への影響
CFTCではすでに、既存登録業者だけでなく現在未登録の暗号資産取引所についても、指定契約市場の枠組みを利用した暗号資産市場として監督する案が検討されている。そこではレバレッジや証拠金を使った取引も、専用ルールの下で認める構想が示されている。
またCFTCはオンチェーン金融プロトコルの開発者とも協議し、米国内で合法的にサービスを提供するための道筋を検討する方針を示している。これが規則化されれば、取引所だけでなくDeFiの提供方法にも行政機関が先に具体的な境界線を引くことになる。
SEC側でも、8月の規則案では一定の暗号資産関連投資契約について500万ドルまでの長期的な小規模発行と、12カ月で7500万ドルまでの発行に対応する登録免除案などが示された。市場構造法がなくても、資金調達の入口から取引・保管まで個別領域の制度整備は進められる。
資金・規制・流動性との関係
行政規則が先行すれば、金融機関や暗号資産企業は議会の最終決着を待たず商品開発や登録準備を進めやすくなる。取引所がどの登録形態を使えるか、発行者がどの開示制度を利用できるか、銀行やカストディ事業者がどの条件で暗号資産を扱えるかが明確になれば、事業投資の判断材料は増える。
ただし行政機関が作るルールには限界もある。SEC自身が8月の規則案で、議会による立法は将来の政権によって簡単に覆されにくい制度を作るうえで不可欠だと説明している。既存法を解釈して作る規則は、将来の委員会が変更したり、裁判所で法的権限を争われたりする可能性がある。
そのため行政規則はCLARITY法案の完全な代替ではない。短期的には実務上の空白を埋められる一方、SECとCFTCの境界そのものを長期的に固定する役割は引き続き議会に残る。
初心者向け補足
米国では議会が法律を作り、SECやCFTCなどの行政機関がその法律に基づいて詳細な規則を作る。今回のポイントは、新しい包括法が成立していなくても、両当局には既存の証券法や商品取引所法を使える範囲があることだ。
例えばSECは証券に該当する暗号資産の発行や取引について規則を作れる。CFTCは商品デリバティブや一定のレバレッジ取引を監督できる。ただし、新しい種類の現物暗号市場へどこまで権限を広げられるかには既存法上の限界がある。
したがって今回の動きを「SECとCFTCがCLARITY法案を行政規則だけで再現する」と理解するのは正確ではない。両当局は自分たちがすでに持つ権限の範囲から制度を埋めていくことになる。
Web3Timesの視点
CLARITY法案の停滞を米国の暗号資産規制が停止した出来事として見ると、次の制度形成を見落とす。9月15日の採決で止まったのは議会による恒久的な監督区分であり、SECとCFTCによる規則制定ではない。
ここからは、どのルールが法律より先に完成するかが重要になる。SECでは暗号資産発行、カストディ、移転代理人制度、CFTCでは取引所、証拠金取引、オンチェーン金融の扱いが具体的な確認対象になる。
さらに見る必要があるのは、両当局が同じ資産やサービスへ異なる解釈を出さず、3月に始めた共同運用を維持できるかだ。議会が監督境界を確定していない以上、SECとCFTCの協調そのものが当面の市場ルールを支えることになる。
米国の制度形成は「議会が法律を作り、その後に当局が実施する」という一本線ではなくなっている。CLARITY法案が再交渉される間に行政規則が先行し、その実務を後から議会が恒久法へ取り込む展開もあり得る。今後は法案の再投票だけでなく、SECとCFTCが既存権限でどの市場領域までルールを具体化するかを並行して追う必要がある。
