Last Updated on 2026年9月24日 by oba3
グーグル(Google)とアップル(Apple)が、ステーブルコインやトークン化預金、ブロックチェーン金融に関する知識を持つ人材の採用を進めている。現時点で両社が独自ステーブルコインや新しい暗号資産サービスを発表した事実はなく、確認できるのは人材採用を通じて関連領域の専門性を取り込もうとしている段階だ。
重要なのは、これを「大手テック企業が暗号資産事業へ参入する」という単純な話として見ないことだ。アップルは消費者向け決済、グーグルはクラウドと金融機関向けインフラという既存事業を持つ。そこへステーブルコインやトークン化預金の知識が加われば、ブロックチェーンを新規事業として外側に作るのではなく、既存の決済やクラウド基盤の内部へ取り込む動きへ発展する可能性がある。
何が起きたのか?
アップルは2026年8月26日、アップルペイ(Apple Pay)の金融商品戦略を担当する人材募集を掲載した。対象となるのはアップルカードやアップルキャッシュなど同社の金融サービスで、長期戦略、新たな成長機会、商品設計、提携などを検討する役割となっている。
この募集では、望ましい経験としてステーブルコイン、トークン化預金、ブロックチェーンなどに関する知識が挙げられている。つまりアップルが募集しているのは暗号資産専用アプリの担当者ではなく、すでに存在する決済・金融サービスの戦略側でデジタル資産の知識を持つ人材だ。
一方、グーグルは香港でグーグル・クラウド(Google Cloud)のWeb3分野を担当する業界プリンシパル・アーキテクトを募集していると報じられている。対象領域にはステーブルコイン決済レール、トークン化預金、現実資産のトークン化、カストディーなどが含まれ、金融機関、取引所、カストディアン、ブロックチェーン開発企業などとの連携が想定されている。
両社の募集は方向性が同じように見えるが、役割は異なる。アップルは消費者が日常的に利用するウォレットと金融商品の側に近く、グーグルは金融機関や事業者が利用するクラウド基盤の側に近い。現時点で確認できるのは人材と専門知識の獲得であり、具体的なステーブルコイン発行や新サービスの開始は公表されていない。
なぜ重要なのか?
ステーブルコインの普及を考える際、発行企業だけを見ると全体像を見誤りやすい。実際に利用が広がるためには、ウォレット、本人確認、加盟店決済、銀行口座、クラウド、カストディーなど複数の接点が必要になる。
アップルとグーグルはすでにその一部を大規模に持っている。アップルにはアップルウォレットやアップルペイがあり、グーグルにはクラウド基盤と企業向け技術サービスがある。こうした既存基盤がトークン化された資金移動へ対応すれば、利用者が新しい暗号資産アプリを意識せずにブロックチェーン由来の決済技術へ接続する形も考えられる。
ここで競争軸になるのは、どの企業がステーブルコインを発行するかだけではない。利用者の画面を持つ企業、決済処理を担う企業、銀行や金融機関へクラウドを提供する企業のうち、誰が実際の資金移動を制御する基盤を握るのかという問題が生まれる。
市場構造への影響
暗号資産業界ではこれまで、ウォレット、取引所、ステーブルコイン発行体、ブロックチェーンがそれぞれ別の企業によって提供される構造が一般的だった。しかし巨大テック企業が必要な機能を既存サービスへ組み込めば、その境界は変わり得る。
アップルのように端末、ウォレット、決済画面を持つ企業がトークン化された資金移動へ対応すれば、消費者との接点を自社サービスの中に保持したまま新しい決済レールを利用できる可能性がある。利用者から見れば、ステーブルコインを使っているという感覚より、従来のウォレット機能が拡張されたように見える形もあり得る。
グーグルの場合は別の位置にいる。金融機関や決済会社がトークン化預金、現実資産のトークン化、カストディーを構築する際、そのシステムがクラウド上で動けば、グーグルは資産発行そのものではなく、その裏側を動かす計算・データ・セキュリティー基盤を提供する立場を取れる。
この違いは重要だ。大手テック企業が必ずしも独自トークンを発行しなくても、利用者側と企業側の双方でインフラを押さえることはできる。暗号資産企業と巨大テック企業の競争は、コインの発行数ではなく、決済の入口と処理基盤を誰が保有するかへ広がる可能性がある。
資金・規制・流動性との関係
ステーブルコインやトークン化預金は、どちらもデジタルネットワーク上で価値を移転する仕組みだが、法的な位置付けや発行主体は同じではない。ステーブルコインは民間企業などが準備資産を裏付けとして発行する場合が多く、トークン化預金は銀行預金をトークン形式で扱う構造を指す。
そのため大手テック企業がこの領域へ関与する場合、単純にブロックチェーン技術を導入すればよいわけではない。銀行、決済事業者、ステーブルコイン発行体、カストディアンなどとの役割分担に加え、本人確認、マネーロンダリング対策、資金移動、データ管理といった既存金融の規制体系との接続が必要になる。
一方で、既存のウォレットやクラウドへこうした仕組みが組み込まれれば、ステーブルコインの流動性が暗号資産取引所の内部だけで循環する状態から、一般的な決済や企業間資金移動へ接続する経路が増える可能性がある。
現時点では両社が具体的な商品を発表していないため、実際にどのレールを採用するかは分からない。採用情報から確認できるのは、ステーブルコインだけでなくトークン化預金やカストディーまで含めた複数の金融インフラを検討できる人材を求めているという点までである。
初心者向け補足
ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨に連動するよう設計されたデジタル資産を指す。代表的な用途には暗号資産取引だけでなく、国際送金や決済、企業間の資金移動などがある。
トークン化預金は、銀行預金をブロックチェーンなどの技術上で扱える形にしたものだ。見た目はステーブルコインと似る場合があるが、銀行預金として扱われる点が大きな違いになる。
今回の採用情報から、アップルやグーグルが独自のステーブルコインを発行すると断定することはできない。求人は企業が必要としている専門性を示す材料にはなるが、正式な製品発表とは別物だ。
むしろ見るべきなのは、両社がステーブルコインだけを対象にしていない点だ。トークン化預金、カストディー、現実資産のトークン化まで視野に入れていることから、特定の暗号資産商品よりも、金融資産をデジタルネットワーク上で扱うための広い基盤を検討している可能性が読み取れる。
Web3Timesの視点
今回のニュースは「アップルとグーグルも暗号資産へ参入する」と読むより、「巨大な既存プラットフォームが次世代の決済レールをどこまで自社サービスへ取り込むか」という視点で見る方が重要だ。
これまでWeb3では、新しいブロックチェーン、新しいウォレット、新しい決済アプリを作り、利用者をそこへ呼び込む発想が中心だった。しかし既存の巨大プラットフォームが同じ技術を内部へ組み込む場合、利用者は新しいサービスへ移動する必要がない。普段使っているウォレットや金融アプリの裏側だけが変わる形でも普及は起こり得る。
そうなれば競争相手も変わる。ステーブルコイン企業同士だけでなく、スマートフォンのウォレットを持つ企業、クラウドを提供する企業、銀行、カード会社、カストディアンまでが同じ資金移動の層で接点を持つことになる。
まだ両社の具体的な商品計画は確認されていないため、現在はインフラへの関心を示す初期段階として扱うべきだ。それでも、大手テック企業の採用要件にステーブルコインやトークン化預金が入り始めたことは、ブロックチェーン金融が独立した暗号資産サービスだけでなく、既存の決済・クラウド基盤の機能として評価され始めていることを示す材料になる。
今後の注目点は、アップルやグーグルが独自コインを作るかどうかではない。ウォレット、クラウド、銀行、ステーブルコイン発行体をどのようにつなぎ、利用者や企業が資金を移動する際の入口を誰が握るのかである。巨大プラットフォームがその接続部分を内部化すれば、Web3企業にとっての競争条件も、金融アプリの顧客接点も大きく変わる余地がある。
