Last Updated on 2026年9月23日 by oba3
米証券取引委員会(Securities and Exchange Commission・SEC)が、暗号資産カストディ制度を次の段階へ進めようとしている。SEC暗号資産タスクフォースの首席法律顧問テイラー・リンドマン(Taylor Lindman)氏は9月22日、投資運用会社向けのカストディ規則案がホワイトハウス審査に入り、証券会社向けの制度整備も準備されていると説明した。焦点は秘密鍵の保管技術だけではない。登録証券会社が非証券型暗号資産をどの条件で顧客のために保有できるのか、投資顧問会社が州認可の信託会社などを利用できるのかという、金融機関の参入資格そのものを整理する動きだ。
何が起きたのか?
リンドマン氏によると、SECは大きく二つのカストディ経路を整備している。一つは投資顧問会社やファンド向けで、顧客の暗号資産をどこへ預けられるのかを明確化する規則案だ。この案はホワイトハウスの審査工程へ進んでいる。
もう一つは証券会社向けで、非証券型の暗号資産を扱うためだけに特殊な登録形態を新たに取得しなくても、既存のブローカー・ディーラーが一定条件の下で顧客資産を保有できる制度を検討している。
SECのポール・アトキンス(Paul Atkins)委員長も9月14日、投資顧問会社による暗号資産の自己保管と、州認可の信託会社をカストディ先として利用する経路について、一定条件付きで認める提案を作るよう職員へ指示したと説明している。ただし現時点では最終規則が施行されたわけではなく、具体的な条件は今後の提案文で確定する。
なぜ重要なのか?
機関投資家が暗号資産を扱う際、最大の制度上の問題の一つが「誰が合法的に顧客資産を持てるか」だった。取引できる商品が増えても、投資顧問会社や証券会社が適法な保管先を確保できなければ、顧客向けサービスを大規模に展開しにくい。
従来の証券では銀行、信託会社、証券会社などが長年のカストディ制度の中で顧客資産を保護してきた。しかし暗号資産では秘密鍵の管理方法に加え、証券に該当するトークンとビットコインのような非証券型資産で適用制度が異なる。
SECがこの境界を明確にすれば、暗号資産専門企業だけでなく、既存の証券会社や資産運用会社が自社の登録制度を使ってサービスへ参入できる範囲が広がる可能性がある。
市場構造への影響
SECはすでに2025年12月、顧客の暗号資産証券を直接保有する証券会社について、顧客保護規則15c3-3上の「占有または支配」を満たすためのスタッフ見解を公表した。秘密鍵へのアクセス管理、分散型台帳の技術評価、資産保護のための方針などを整えれば、従来型の証券会社にもカストディの経路を開く考え方だ。
次の論点は、証券ではない暗号資産まで同じ金融仲介業者が扱えるかである。これが整理されれば、一つの証券会社がトークン化証券と非証券型暗号資産を顧客口座内で扱う市場設計に近づく。
暗号資産専用の特殊な事業体を別に作る必要が小さくなれば、伝統的な証券インフラと暗号資産サービスの境界も変わる。カストディ制度は裏方の技術規則ではなく、誰が市場へ参入できるかを決める競争条件になる。
資金・規制・流動性との関係
投資顧問会社向けでは、州認可の信託会社を適格なカストディ先としてどこまで認めるかが重要になる。アトキンス委員長は、現実に暗号資産を扱える第三者カストディ業者が十分存在しない資産もあるとして、条件付きの自己保管についても制度化する方向を示した。
一方、規制緩和だけが目的ではない。顧客資産と会社資産の分別、秘密鍵の管理、破綻時に顧客へ資産を返還できる仕組みなど、既存カストディ制度が持つ保護機能を暗号資産へどう移すかが必要になる。
特に非証券型暗号資産には注意が必要だ。SECスタッフは、証券会社が保管する非証券型暗号資産について、証券投資者保護法に基づくSIPCの保護が一般に及ばないと説明している。証券会社で保有できるようになることと、従来証券と同じ破綻時保護を受けられることは同義ではない。
初心者向け補足
カストディとは、金融機関などが顧客の資産を預かり、安全に保管・管理する業務を指す。暗号資産では秘密鍵を管理するため、ウォレット技術が注目されやすいが、制度上はそれだけでは不十分だ。
誰が資産を保有するのか、会社が破綻した場合に顧客資産を分離して返せるのか、第三者へ預ける場合にどの種類の事業者が認められるのかもカストディ制度に含まれる。
今回のSEC方針も、すべての銀行や証券会社が直ちに暗号資産を保管できるようになったという意味ではない。投資顧問会社向けの提案と証券会社向けの制度整備が進行中で、具体的な適用条件はこれから固まる段階だ。
Web3Timesの視点
暗号資産カストディを秘密鍵の安全性だけで読むと、今回の制度変更の大きさを捉えにくい。より重要なのは、SECが既存の金融仲介業者をオンチェーン市場へ入れるための入口を作ろうとしていることだ。
暗号資産の発行制度、トークン化証券の取引制度、移転代理人の近代化が整っても、顧客資産を適法に保有できる主体が限られていれば市場は拡大しにくい。SEC自身もカストディを、暗号資産の発行・取引・移転と並ぶ制度基盤の一つとして位置付けている。
今後確認すべきなのは、自己保管を認める具体的条件、州認可信託会社を適格カストディアンとして扱う基準、証券会社が非証券型暗号資産を保有する際の資本・分別管理、そしてSIPC保護が及ばない資産を顧客へどう説明するかだ。
米国の暗号資産市場への参入条件は、取引ライセンスだけでは決まらない。誰が顧客資産を持ち、破綻時にも返還できる仕組みを備えるかまで明確になって初めて、銀行・証券会社・運用会社が本格的に同じ市場へ入れる。SECの次のカストディ制度は、その入口を決める規則として見る必要がある。
