Last Updated on 2026年7月31日 by oba3
オンチェーン・デリバティブ基盤のオスティウム(Ostium)は、7月15日に流動性提供者向け資金庫から2375万2746USDCが流出した攻撃について検証報告を公表した。同社の調査では、スマートコントラクトの欠陥ではなく、価格情報を供給するオフチェーン基盤への不正アクセスが起点だった。攻撃者は偽のビットコイン価格を正規形式の報告として通過させ、架空の取引利益を確定し、資金庫から払い出させた。被害額だけでなく、外部価格が注文処理、損益計算、決済へ接続されるまでに検証が止まらなかった点を見る必要がある。
何が起きたのか?
オスティウムは、アービトラム(Arbitrum)上で株式、指数、商品、外国為替、暗号資産などの無期限契約を提供する取引基盤である。利用者の利益は、流動性提供者がUSDCを預けるオスティウム流動性プールから支払われる。
検証報告によると、攻撃者は価格データをプロトコルへ渡すオフチェーン基盤へ不正にアクセスし、BTC米ドル市場の偽価格を含む報告を提出した。報告は既存システムが認識する経路から送られたため、オンチェーン側では許可された価格情報として処理された。
攻撃者は最初に100USDC規模の小さなポジションを使い、約897USDCの不正利益を得られるか試した。その後、複数の大口ポジションを短時間で開閉し、主な一連の取引で約1190万USDCを受け取った。さらに6回の独立した攻撃が続き、合計8件の払い出しによる損失は2375万2746USDCに達した。
同社は、取引ロジックを実行するスマートコントラクトや、運営権限を管理するマルチシグが侵害された証拠は確認していないと説明した。トレーダーの担保も別のコントラクトに隔離されており、直接の被害は流動性提供者向け資金庫に集中した。
なぜ重要なのか?
今回の攻撃では、スマートコントラクトは与えられた価格を基に、設計通り損益を計算した。問題は計算式ではなく、その前段階で偽の価格が正しい入力として受け入れられたことにある。
オンチェーン・デリバティブは、現物資産を保有せず、参照価格との差額をUSDCなどで決済する。株価や商品価格、外国為替レートはブロックチェーンの外部で形成されるため、オラクルと呼ばれる仕組みを通じて価格を取り込む必要がある。
価格報告の署名が正しくても、その署名に使われる権限が奪われていれば、偽の情報が正規データに見える。暗号学的な署名確認だけでは、価格が実際の市場と一致するか、時刻が不自然でないか、送信者の運用環境が侵害されていないかまでは保証できない。
市場構造への影響
今回の損失経路は、参照価格の提出、ポジションの開始と終了、損益計算、資金庫からの支払いという順番で構成されていた。どこか一つで異常を止められれば、偽の利益が実際のUSDCへ変換されるのを防げた可能性がある。
特に重要なのは、価格の正当性と払い出しを直接結び付けない設計である。参照価格が外部市場から大きく離れている場合、未来の時刻を示している場合、短時間に同じ利用者が大きな利益を繰り返す場合には、決済を一時停止して別の価格源と照合する仕組みが必要になる。
また、一つの価格送信権限だけで取引結果を確定できる構成は、オフチェーン鍵の侵害を資金庫全体の損失へつなげる。複数の独立した価格源、複数署名、価格変動幅の上限、一定時間当たりの払い出し制限を組み合わせることが、今後の安全基準として重視される可能性がある。
スマートコントラクト監査だけでは、この種の問題を十分に検出できない。監査対象を契約コードから、価格サーバー、署名鍵、転送経路、監視システム、緊急停止手順まで広げる必要がある。
資金・規制・流動性との関係
オスティウムでは、異常検知システムが攻撃中に作動し、資金庫のサーキットブレーカーも複数回発動した。同社は最初の攻撃取引から60分以内に取引を停止したが、その前に複数の払い出しが完了していた。
これは、異常を検知することと、資産移動を止めることが別の機能であることを示す。警告が出ても、決済コントラクトが自動的に支払いを続ける構成では、運営者が状況を確認して停止操作を行うまで損失が増える。
流動性提供者にとっては、契約コードの安全性だけでなく、どの価格源を信頼し、異常時に一回当たりいくらまで支払われるかがリスクになる。資金庫の残高に対して一度に払い出せる割合を制限すれば損失を抑えられる一方、正常時の大口取引や出金を遅らせる可能性もある。
オスティウムは基盤を新しい運用環境へ移し、セキュリティ対策を強化したうえで7月23日に取引を再開した。被害を受けた流動性提供者への回復計画は別途公表するとしている。今後は再開の事実より、価格情報の権限分散、異常価格の拒否条件、払い出し上限がどのように変更されたかが重要になる。
初心者向け補足
参照価格とは、デリバティブ取引の利益や損失を計算する基準となる価格である。利用者同士が実物のビットコインを受け渡すのではなく、開始時と終了時の価格差を基にUSDCで精算する場合、この数字が取引結果を決める。
オラクルは、ブロックチェーン外の価格をオンチェーンへ届ける仕組みである。価格報告に正しい署名が付いていても、その署名鍵を攻撃者が使える状態なら、偽価格が正規の報告として受理される場合がある。
清算とは、証拠金が不足したポジションを強制的に終了させる処理を指すことが多い。今回の中心は通常の強制清算ではなく、偽価格によって作られた利益が確定され、流動性提供者の資金庫から支払われた経路である。
Web3Timesの視点
今回の検証報告で重要なのは、2375万USDCという最終的な損失額だけではない。偽価格が入力されてから実際の資金が外へ出るまで、複数の機能がそれぞれ正常に動きながら、全体として不正な結果を生んだ点にある。
スマートコントラクトに脆弱性がなかったという説明は、基盤全体が安全だったことを意味しない。取引契約が正しくても、その前に置かれた価格配信基盤が侵害されれば、正しい計算によって誤った支払いが実行される。
今後確認すべきなのは、価格報告を何者が承認するのか、別市場との乖離を自動検査するのか、未来時刻や急激な変動を拒否するのか、異常検知から払い出し停止までを自動化するのかである。加えて、一つの取引や一つのアドレスが資金庫から引き出せる金額にも上限が必要となる。
オンチェーン・デリバティブの安全性は、コードが公開されているかだけでは測れない。外部価格がどの経路を通り、誰の権限で有効になり、どの条件で利用者の利益として確定し、資金庫から支払われるかまで検証できて初めて、取引基盤全体の耐性を評価できる。オスティウムの事例は、安全基準の対象をスマートコントラクトから価格配信と決済の一連の経路へ広げる必要性を示している。
