業界団体がクラリティ法案を巡る全米保安官協会の懸念へ反論、非管理型開発者の保護範囲が捜査協力と市場参入を左右する

Last Updated on 2026年8月6日 by oba3

米暗号資産業界団体のデジタル・チェンバー(The Digital Chamber)は、クラリティ法案(CLARITY Act)が法執行機関の捜査や訴追を難しくするとの主張へ反論した。全米保安官協会(National Sheriffs’ Association)は、上院で調整されている法案の第604条が、利用者資産を直接管理しない開発者やサービス提供者へ広すぎる保護を与える可能性があると懸念している。業界側は、資金を保管・移転しないソフトウェア開発者を送金事業者から除外しても、詐欺や制裁違反などへの刑事責任は消えないと主張する。争点は犯罪捜査を認めるかではなく、情報提出や取引停止を求められる主体を、コード開発者、画面提供者、資産管理者のどこまで広げるかにある。

目次

何が起きたのか?

全米保安官協会は2026年5月13日、米上院銀行委員会へ書簡を送り、下院を通過したH.R.3633を基にした上院修正案について懸念を表明した。協会が特に問題視したのは、非管理型の開発者やサービス提供者を送金事業者などの規制対象から除外する第604条である。

条文案では、利用者の承認なしに暗号資産取引を単独で管理、開始、実行できない主体を、一定の登録義務から保護する構成が示されている。秘密鍵を預からず、利用者自身が取引を承認するウォレット開発者やソフトウェア提供者を、顧客資産を管理する取引所と同じように扱わないための規定である。

全米保安官協会は、形式的な管理権の有無だけを基準にすると、実際には利用者間の資金移転を仲介し、手数料を受け取り、サービス運営へ継続的に関与する主体まで免除されるおそれがあると指摘した。ミキサーや一部の分散型サービスが対象外となれば、銀行秘密法に基づく登録、本人確認、取引記録、疑わしい取引の報告を求めにくくなるとの立場である。

これに対しデジタル・チェンバーは、クラリティ法案が法執行権限を縮小するとの説明を誤解だとした。顧客資産を保管・管理する企業には既存の資金洗浄対策、制裁、詐欺、犯罪幇助に関する法律が引き続き適用され、非管理型開発者の保護は刑事免責を意味しないと主張している。

両者の対立は法案全体への賛否より、第604条の定義をどこまで狭めるかに集中している。現時点で最終条文は確定しておらず、上院での調整によって保護対象や例外が変更される可能性がある。

なぜ重要なのか?

暗号資産市場構造法案は、証券と商品の監督区分だけを決めるものではない。犯罪が発生した際に、当局がどの事業者へ顧客情報を照会し、取引記録を提出させ、資産の凍結を求められるかも制度の一部となる。

顧客資産を預かる取引所であれば、口座情報を保有し、利用停止や出庫制限を実行できる。一方、秘密鍵を持たないウォレット開発者や、自動的に動く公開プロトコルには、利用者の取引を止める技術的権限がない場合がある。

履行できない義務を開発者へ課せば、公開ソフトウェアや自己管理型ウォレットの提供が難しくなる。反対に、管理権限がないという形式だけで規制を免れられれば、実質的に資金移転を運営する企業が監視義務を回避する余地が生まれる。

そのため、条文の境界は企業の名称や分散型という表示ではなく、秘密鍵の保有、取引への介入、管理者権限、手数料設定、利用者資産への接触といった実際の機能を基準に引く必要がある。

市場構造への影響

第604条の保護範囲が狭くなれば、ウォレット、分散型取引画面、ミキサー、プロトコル開発者の一部が送金事業者に近い義務を負う可能性がある。登録、顧客確認、取引監視へ対応できる企業と、米国利用者への提供を停止する開発者に分かれることも考えられる。

反対に保護範囲が広ければ、利用者が秘密鍵を管理するサービスの開発は続けやすい。ただし、資産を直接保管しないまま取引経路や手数料を実質的に支配する運営者まで対象外となれば、登録事業者との費用差が広がる。

重要なのは、非管理型という一つの分類だけで責任を決めないことである。例えば、利用者が取引へ署名していても、運営者が接続先を変更でき、特定の送金を遮断し、管理者鍵で契約を更新できるなら、単なるコード公開者より強い制御権を持つ。

法案の最終設計は、企業が管理機能を残して規制下へ入るか、制御権を手放して純粋なソフトウェア提供者へ近づくかという事業判断にも影響する。捜査権限の境界が、サービスの技術構成そのものを変える可能性がある。

資金・規制・流動性との関係

法執行機関が犯罪収益を回収するには、ブロックチェーン上で移動先を追跡するだけでは足りない。資金が取引所やカストディ事業者へ入った時点で、本人情報を照会し、裁判所命令などに基づいて移転を止める経路が必要となる。

非管理型サービスには、同じ回収手段が存在しない場合がある。公開台帳上で資金を追跡できても、取引を取り消したり秘密鍵を差し押さえたりできる中央管理者がいなければ、実際の回収には利用者の特定や別の接点が必要になる。

業界側は、こうした技術的限界を無視して開発者へ金融機関と同じ義務を課しても、捜査能力は高まらないとみる。一方、保安官協会は、サービス運営へ実質的に関与する主体まで保護されれば、情報提出や被害回復の窓口が失われると懸念している。

法執行団体の懸念が解消されなければ、上院議員が追加修正を求め、法案の支持票や審議日程へ影響する可能性がある。市場監督の法案であっても、成立には証券・商品区分だけでなく、資金洗浄対策、地方警察との情報共有、詐欺被害者の回復手順まで調整する必要がある。

規制対象が広がれば、登録や監視に対応できる大手事業者へ取引が集まりやすい。対象が狭すぎれば、監視費用を負う登録企業と、類似機能を持つ非登録サービスの競争条件が不均衡になる。捜査権限の線引きは、そのまま市場参加費用の配分につながる。

初心者向け補足

非管理型サービスとは、運営企業が利用者の秘密鍵や暗号資産を預からず、利用者自身が取引を承認する仕組みである。顧客資産を保有し、利用者に代わって送金できるカストディ型サービスとは権限が異なる。

ミキサーは、複数の暗号資産取引を組み合わせるなどして、送付元と送付先の関係を追いにくくする仕組みである。プライバシー保護へ使われる場合がある一方、犯罪収益の移転や制裁回避へ悪用されることもある。

銀行秘密法は、対象となる金融機関や送金事業者へ、顧客確認、記録保存、疑わしい取引の報告などを求める米国の制度である。誰を送金事業者として扱うかによって、これらの義務を負う範囲が変わる。

登録義務から除外されることと、あらゆる犯罪責任を免れることは同じではない。非管理型開発者であっても、詐欺、窃盗、制裁違反、犯罪への故意の関与が認定されれば、別の法律による責任を問われる可能性がある。

Web3Timesの視点

今回の論争を暗号資産業界と警察の対立として整理すると、条文が決めようとしている実務上の境界が見えにくくなる。双方とも犯罪捜査の必要性自体を否定しているわけではなく、取引を止める能力を持たない開発者へどこまで金融仲介業者の責任を負わせるかで意見が分かれている。

業界側の主張には、コードを公開しただけの人物へ利用者の犯罪行為まで負わせれば、自己管理型技術の開発を萎縮させるとの懸念がある。保安官協会の主張には、形式上は非管理型でも、実際には取引経路や運営を支配する主体が免除を利用する危険がある。

両者を分ける鍵は、企業の自己申告ではなく操作権限である。秘密鍵を持つか、管理者として契約を変更できるか、取引を止められるか、送金経路を選べるか、継続的な手数料を受け取るかを確認し、義務の範囲を段階的に設定する必要がある。

今後の焦点は、第604条で保護される非管理型開発者の定義、ミキサーと一般的なウォレットの区別、実質的な制御権を持つ運営者への例外規定である。これらが曖昧なままでは、法執行団体の支持を得にくいだけでなく、成立後の財務省や金融犯罪取締ネットワークによる細則でも同じ対立が繰り返される。

クラリティ法案が作るのは市場の監督区分だけではない。犯罪発生時に誰へ記録提出、取引停止、資産回収を求められるかという責任の地図でもある。開発者保護と捜査の実効性を両立できるかは、サービスの名称ではなく、資産移転を実際に制御できる権限を条文へ落とし込めるかにかかっている。

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