Last Updated on 2026年8月6日 by oba3
予測市場を運営するカルシ(Kalshi)は、ニューヨーク州がスポーツ関連のイベント契約へ州賭博法を適用する動きに対し、米商品先物取引委員会(CFTC)に登録された連邦市場は商品取引所法の下で優先されると主張している。
ニューヨーク州はカルシを無免許の賭博事業者と位置付ける一方、カルシはイベント契約が連邦規制下のデリバティブ市場で取引されている以上、州が同じ取引を禁止したり追加免許を要求したりすることはできないとの立場だ。争点は企業の成長性ではなく、連邦認可された市場に州法が入り込める境界にある。
何が起きたのか?
カルシの市場運営会社カルシEX(KalshiEX)は、CFTCから指定契約市場として認可を受け、将来の出来事の結果に応じて決済されるイベント契約を提供している。スポーツ関連市場の拡大を受け、ニューヨーク州当局は州の賭博免許を持たずに実質的なスポーツ賭博を提供しているとして、停止や州法上の対応を求めてきた。
カルシは2025年10月、ニューヨーク州ゲーミング委員会による執行を防ぐため、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所へ提訴した。カルシ側は、商品取引所法がCFTCに指定契約市場で取引されるスワップなどへの排他的管轄権を与えており、州賭博法は連邦法によって排除されると説明した。
しかしアナリサ・トーレス連邦地裁判事は2026年7月7日、カルシが求めた仮差し止めを認めなかった。裁判所は、ニューヨーク州が伝統的に持つ賭博規制権限を重視し、州法を守るための追加要件が連邦制度と直ちに矛盾するとはいえないと判断した。
カルシはこの決定を不服として控訴したが、控訴中に州の執行を止める緊急措置も認められなかった。その後、ニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官は7月31日、カルシが違法かつ無免許の賭博事業を運営しているとして州裁判所へ提訴した。州は事業停止、利益の返還、利用者への救済や制裁金を求めている。
なぜ重要なのか?
カルシの指定契約市場という免許は、単なる事業登録ではない。指定市場では契約を上場する際、連邦法やCFTC規則への適合を自己認証する仕組みが使われる。カルシは、連邦制度が契約の審査、取引監視、不正操作への対応を一体として設計している以上、各州が独自に同じ契約を禁止すれば全国市場として運営できなくなると主張する。
ニューヨーク州は反対に、連邦登録が州の賭博規制を全面的に消すものではないとみる。特に年齢制限、依存症対策、スポーツの公正性、消費者保護、州税は、州が長く担ってきた領域である。州側の見方では、商品取引所法の対象となる形式を採用しても、実質がスポーツ結果への賭けであれば州法を適用できる。
この違いを裁判所がどう整理するかによって、予測市場が全米共通の連邦市場として運営されるのか、州ごとに提供商品や利用条件を変える必要があるのかが決まる。
市場構造への影響
カルシの主張が広く認められれば、CFTCに登録された指定契約市場は、一つの連邦免許を基盤として複数州へイベント契約を提供しやすくなる。州ごとの賭博免許、商品制限、税率、年齢基準を個別に適用されにくくなり、取引注文を全国市場へ集約できる。
ただし、連邦認可を受けた事業者であれば、どのような契約でも州法を排除できるわけではない。中心となるのは、その契約が商品取引所法上のスワップなどに該当するか、指定契約市場の規則に従って取引されているか、州法が契約取引そのものを規制しているかという点だ。
ニューヨーク州側の判断が維持されれば、カルシはスポーツ関連契約を州内で停止するか、州免許を取得するか、商品設計を変える対応を迫られ得る。他州も同様の規制を採用すれば、同じプラットフォームでも居住地によって取引できる市場が異なる分断型の運営になる。
裁判所の結論は、カルシだけでなく、予測市場の商品を仲介する証券会社、暗号資産取引サービス、決済事業者にも及ぶ可能性がある。連邦市場の契約を顧客へ提供する仲介者まで州賭博法の対象となるのかが、次の争点になるためだ。
資金・規制・流動性との関係
予測市場は、参加者の注文を一つの板へ集めることで価格を形成する。州ごとに契約の提供可否が変われば、参加者と注文量が分かれ、売買価格の差や取引成立のしにくさが生じる。全国共通市場を維持できるかどうかは、サービス範囲だけでなく価格形成にも関係する。
一方、州が規制権限を失えば、年齢確認、自己排除制度、広告規制、依存症対策、州税などをどの主体が担うのかという問題が残る。CFTCは市場操作、取引監視、顧客資金、契約市場の健全性を監督するが、州のスポーツ賭博制度と同じ目的や仕組みを持つわけではない。
CFTC自身も2026年4月、ニューヨーク州が登録市場へ州賭博法を適用することを防ぐため、別の連邦訴訟を起こした。同委員会は、指定契約市場上のイベント契約には連邦の排他的管轄が及ぶと主張している。これはカルシ一社の防御論ではなく、連邦規制当局が自らの監督領域を守る争いでもある。
ただし、連邦裁判所の判断は地域によって分かれている。第3巡回区控訴裁判所はニュージャージー州との事件でカルシ側の主張を支持した一方、ニューヨーク南部地区の裁判所は州法の適用余地を認めた。異なる司法判断が続けば、最終的には連邦最高裁判所や議会による整理が必要となる可能性もある。
初心者向け補足
予測市場のイベント契約は、特定の出来事が起きるかどうかに応じて一定額で決済される契約である。参加者は結果への見方に基づいて契約を売買し、市場価格は出来事が起きる確率の目安として利用されることがある。
指定契約市場とは、CFTCの審査を受けたデリバティブ取引所を指す。認可後も、契約内容、取引監視、財務基盤、顧客保護などの連邦基準を守る必要がある。ただし、指定契約市場の免許が、州の消費者保護法や賭博法をすべて自動的に無効にするかは確定していない。
連邦法の優先とは、連邦法と州法が同じ対象について矛盾した場合、米国憲法上、連邦法が州法に優先する考え方である。今回の裁判では、商品取引所法がイベント契約の取引をどこまで占有し、州にどの範囲の規制余地を残しているかが問われている。
Web3Timesの視点
今回の訴訟を、カルシがスポーツ賭博事業を続けられるかという一社の問題だけで見ると、本質を外す。中心にあるのは、連邦市場免許が全国共通の取引権を与えるのか、それとも州が商品ごとに追加条件を課せるのかという市場免許の効力だ。
カルシ側が勝てば、連邦登録されたイベント契約は州境を越えて取引される金融商品としての性格を強める。州側が勝てば、契約の形式がデリバティブであっても、スポーツや賭博に近い実態を持つ商品には州の警察権が及ぶことになる。
重要なのは、連邦か州かを一律に選ぶことではない。契約の上場審査、価格操作、清算、顧客資金は連邦市場規制と結び付き、年齢制限、依存症対策、地域の賭博政策は州制度と結び付く。司法判断では、これらの目的を区分したうえで、州法が連邦市場の取引そのものを禁止しているのか、周辺的な利用者保護を求めているのかが精査される。
今後は控訴審の結論だけでなく、どの種類のイベント契約を対象に判断するのか、州が求める免許や地域制限が連邦法と両立できるとされるのかを見る必要がある。その線引きが、予測市場を全国的な金融市場として扱う条件を形作る。
