バイナンス関連3社がレドットペイ創業者らへ4億7280万ドルを請求、資金経路と顧客関係を巡る契約管理が争点に

Last Updated on 2026年8月7日 by oba3

バイナンス(Binance)の関連会社3社が、香港の暗号資産決済企業レドットペイ(RedotPay)の共同創業者3人を相手取り、約4億7280万ドルの損害賠償を求める訴訟を香港で起こした。原告側は、契約で認められていないレドットペイカードへの入金にバイナンス・ペイ(Binance Pay)の資金が使われ、47万人を超える利用者がバイナンス側のサービスから移ったと主張している。

現時点で裁判所が契約違反や損害を認定したわけではない。レドットペイ側は原告の主張を否定し、法的手続きを通じて争う方針を示している。今回見るべきなのは請求額の大きさだけではなく、提携によって生まれた資金経路と利用者との関係を、どちらの企業の事業資産として評価するかである。

目次

何が起きたのか?

香港で訴えを起こしたのは、バイナンス関連会社のネスト・トレーディング(Nest Trading)、ディストリビューテッド・テクノロジーズ(DistributedTechnologies)、チェインテックス・コンサルティング・シンガポール(Chaintecs Consulting Singapore)の3社である。訴えの対象は、レドットペイ共同創業者のガオ・ジャンペン(Gao Zhangpeng)、チャン・ワー・チョイ(Chan Wa Choi)、ヤオ・チャオ(Yao Chao)の3人とされる。

原告側の申立てによると、両社の提携はレドットペイがバイナンスの利用者基盤へ接続し、バイナンス側は自社の決済機能をより広い販売網で利用してもらうことを目的としていた。2025年3月に結ばれた契約では、バイナンス・ペイの資金を暗号資産から法定通貨への交換、アプリ内送金、レドットペイブランド商品の購入などに使うことが認められていたとされる。

一方、レドットペイカードへの直接入金は契約上の許可範囲に含まれず、バイナンスの資金を他の資金と分別して管理することも求められていたという。原告側は、レドットペイがこの条件に反し、バイナンス・ペイからカードへ資金を移せる状態を提供したことで、利用者を自社の決済網へ取り込んだと主張している。

原告側は、問題の経路を通じて約3億400万ドルの資金がレドットペイ側へ流れたと説明している。さらに、移ったとする利用者1人当たりの顧客生涯価値を925ドルと算定し、47万人超を基に約4億7280万ドルの損害額を計算した。

両社は2023年11月にも提携していたが、同様にカード入金を巡る問題が生じ、半年未満で終了したと報じられている。その後、資金を分別するとの保証を前提に2025年3月に再契約した経緯がある。バイナンス側は2026年3月以降に問題を把握し、4月3日にレドットペイ上のバイナンス・ペイ機能を停止したとしている。

レドットペイは請求内容を根拠のないものとして争い、日常業務への影響はないとの立場を示した。チェインテックスはシンガポールでもレドットペイ関連会社を相手に別の手続きを進めており、香港訴訟と並行して争いが広がっている。

なぜ重要なのか?

暗号資産決済では、取引所、決済アプリ、カード運営会社、本人確認事業者などが一つの利用体験を分担する。利用者はバイナンス・ペイから資金を送り、レドットペイのカードで支払うことができても、その資金経路と顧客接点を複数社が共同で作っている。

提携中は、この接続によって双方が利用者と取引量を増やせる。しかし契約が終了すると、どの利用者が提携元の顧客で、どの時点から提携先の独自顧客になったのかが問題になる。本件で直接争われているのは、顧客データの取得そのものよりも、契約で制限された資金経路を利用してカードへ入金させたかどうかである。

ただし、その判断は顧客関係の評価にも及ぶ。原告側が1人当たり925ドルの生涯価値を請求額に組み込んだことで、利用者との継続的な取引機会が企業資産として金額化された。裁判所がこの計算をどこまで認めるかは未確定だが、単発の手数料ではなく、将来収益を含む顧客関係が損害論の中心に置かれている。

市場構造への影響

暗号資産企業が提携する際には、サービス名や手数料配分だけでなく、資金がどの口座を通り、どの商品に使えるのかを細かく管理する必要がある。今回の訴訟では、バイナンス・ペイの残高をレドットペイカードへ直接入金できたかどうかが、利用者移行の入口として扱われている。

この点は、販売経路が広告や紹介リンクだけではないことを示す。決済ボタン、ウォレット残高、カード入金画面といった機能そのものが、利用者を別のサービスへ移す導線になる。提携契約では今後、許可された用途、禁止された入金先、資金の分別方法、契約終了時の機能停止を、技術仕様と結び付けて定める必要性が高まる。

本件の判断が出るまでは、業界全体の契約が直ちに変更されるとは言えない。ただ、同じ問題を理由に一度提携が終了し、再契約後にも違反があったと原告側が主張している点は重い。企業は契約書上の禁止だけでなく、システム上その取引を実行できない設計や、資金経路を検証する監査記録を重視することになる。

資金・規制・流動性との関係

レドットペイは、ステーブルコインを入金し、カードを通じて店舗やオンラインで利用できる決済サービスを展開している。同社は800万人を超える利用者、年換算140億ドルの決済額、年換算1億8000万ドルの売上を公表しており、米国での新規株式公開も検討していると報じられている。

その成長過程で、バイナンスから約47万人の利用者が移ったという原告側の主張が認められるかは、レドットペイの顧客獲得力や事業価値の評価にも関わる。もっとも、これらは訴訟当事者の主張であり、利用者が自らレドットペイを選んだのか、契約違反の経路によって移されたのかは今後の審理で確認される。

資金の分別も重要である。提携先から受け取った資金を許可された用途だけに使う仕組みがなければ、契約違反だけでなく、決済管理や会計処理の問題へ広がる。暗号資産決済企業が上場や大型資金調達を目指す場合、提携先別の資金管理と収益の由来を説明できることは、投資家や監査担当者にとって重要な確認項目になる。

初心者向け補足

顧客生涯価値とは、一人の利用者がサービスを使い続ける間に企業へもたらすと見込まれる利益や収益を金額にしたものだ。今回、原告側は利用者1人の価値を925ドルと置き、移ったとする人数を掛けて損害額を計算した。

ただし、企業が主張した顧客生涯価値が、そのまま裁判で損害として認められるわけではない。実際に何人が契約違反によって移ったのか、その利用者がどれだけ長くバイナンスを利用したはずなのか、費用を差し引いた利益はいくらだったのかなどが検討される。

資金の分別とは、特定の企業や目的のために受け取ったお金を、別の商品や自社資金と混ぜずに管理することを指す。本件では、バイナンス・ペイの資金が契約上認められた用途と、禁止されたとされるカード入金の間で適切に分けられていたかが重要になる。

Web3Timesの視点

この訴訟を巨額請求だけで読むと、バイナンスとレドットペイの企業対立に見える。市場設計の視点では、決済機能を共有した企業同士が、利用者との関係をどこまで自社の資産として主張できるかを問う事件である。

直接の争点は顧客名簿の持ち出しではなく、契約で制限された資金経路がカードへの入金に使われたかどうかだ。その経路を通じて利用者がレドットペイの決済網へ移ったというのが原告側の主張であり、資金の動線と顧客獲得が一体化している点に本件の特徴がある。

今後確認すべきなのは、2025年3月の契約がカード入金をどのように禁止していたのか、レドットペイが資金を実際に分別していたのか、47万人超という人数と925ドルの計算がどの記録に基づくのかである。レドットペイ側が、利用者の自主的な選択や契約上認められた機能だったと反論するかも判断を左右する。

裁判所の結論はまだ出ていない。それでも、取引所と決済企業が顧客接点を共同利用する際、契約文だけでなくシステム上の資金制御まで一致させる必要があることは明確になった。顧客関係を守る手段が競業禁止条項だけではなく、決済経路の設計と監査へ移っている点が、この訴訟から読み取れる変化である。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Web3をやさしく解説するOba3

目次