ワイズがGENIUS法に沿う米信託銀行免許を再申請へ、国際送金網とステーブルコイン発行規制の接続が焦点に

Last Updated on 2026年7月25日 by oba3

国際送金大手のワイズ(Wise)が、米通貨監督庁からナショナル・トラスト・バンク設立申請を却下されたことを受け、決済用ステーブルコインを規制するGENIUS法の枠組みに沿った新たな申請を提出する方針を示した。当初の申請は米ドル決済を連邦準備制度の決済網へ直接つなぐ構想を前提としていたが、制度環境の変化や法令順守体制への懸念から認められなかった。今回の焦点は免許を取得できるかだけではない。世界規模の送金網を持つ銀行外事業者が、ステーブルコインの発行、準備資産、償還、法定通貨決済をどのように一体化するかにある。

目次

何が起きたのか?

ワイズは2025年6月、米国でワイズ・ナショナル・トラスト(Wise National Trust)を設立するため、米通貨監督庁へナショナル・トラスト・バンク免許を申請した。一般の商業銀行のように預金を集めて融資するのではなく、米ドル決済を自社管理へ移し、外部銀行への依存を減らすことが主な目的だった。

しかし米通貨監督庁は2026年7月21日付の判断で申請を却下した。当初計画が、預金保険を持たない信託銀行による連邦準備制度のマスターアカウント利用を巡る新しい政策環境と合わなくなったことに加え、マネーロンダリング対策、テロ資金供与対策、経営陣の米国銀行法や信託業務への理解などに重大な監督上の懸念があると指摘した。

ワイズは、申請書を作成した時点から事業規模や法令順守体制を強化してきたと説明している。同社によると、2026年3月までの1年間に約1900万人の顧客を支援し、国境を越える取引の処理額は2400億ドルを超えた。

同社は却下された申請を修正して継続するのではなく、GENIUS法を前提とした新しいナショナル・トラスト・バンク免許申請を提出する計画を米通貨監督庁へ伝えた。ただし、提出日、新法人の業務範囲、利用するステーブルコイン、発行主体は現時点で公表されていない。

なぜ重要なのか?

GENIUS法は2025年7月に成立した米国の決済用ステーブルコイン規制である。発行者に対し、準備資産、額面償還、情報開示、資本や流動性の管理、マネーロンダリング対策などを求め、銀行以外の企業にも一定の条件で連邦監督下の発行者となる道を設けた。

ワイズは暗号資産交換所ではなく、銀行口座、為替取引、現地決済網を組み合わせて国際送金を処理する企業である。すでに多数の国で、送金人から法定通貨を受け取り、別の地域にいる受取人の銀行口座へ現地通貨を届ける仕組みを持つ。

この既存網に規制対応済みのステーブルコインが組み込まれれば、オンチェーン資産を暗号資産市場の内部だけで動かすのではなく、銀行口座からの入金、国際移転、受取国での換金まで一つの決済経路へ接続できる余地が生まれる。

ただし、信託銀行免許の取得とステーブルコイン発行の承認は同じではない。新法人が自ら発行者になるのか、他社のステーブルコインを送金に利用するのか、準備資産の保管や償還だけを担うのかによって、必要な監督と責任は異なる。

市場構造への影響

国際送金企業が連邦免許とステーブルコイン規制を組み合わせれば、デジタルドルの流通経路は暗号資産交換所や銀行だけに限定されなくなる可能性がある。決済会社や金融技術企業が、自社アプリと顧客基盤を維持したまま、オンチェーン決済へ接続する選択肢が広がるためだ。

現在の国際送金では、ワイズが各地域に置く法定通貨資金を使い、送金元と送金先の残高を社内で調整する。実際の資金が毎回国境を越えるのではなく、各国の銀行口座や決済網を通じて受取人へ支払う仕組みである。

ステーブルコインを中間的な決済資産に使えば、一部の通貨間では資金照合や事業者間精算を24時間処理できる可能性がある。しかし、ブロックチェーンを採用するだけで国際送金全体が即時化するわけではない。送金元の入金、為替交換、受取国の銀行への支払いが従来の営業時間や現地制度に依存すれば、最後の入出金部分には時間差が残る。

利用者がステーブルコインを直接保有できるかも重要である。ワイズの内部精算だけに使われる場合、顧客の操作や資金の置き場所は大きく変わらない。一方、利用者が外部ウォレットへ出金できれば、ワイズの送金網は法定通貨とオンチェーン市場を結ぶ大規模な入口と出口になり得る。

資金・規制・流動性との関係

ワイズが発行主体を目指す場合、ステーブルコインの準備資産と通常の送金用顧客資金を明確に分ける必要がある。発行残高と同額以上の適格資産を管理し、利用者から償還請求があれば額面でドルを返せる体制が求められる。

既存の送金事業では、顧客から受け取った資金は特定の送金を完了するために保護される。ステーブルコインの準備金は、流通しているトークン全体の償還を支える資産であり、目的も負債の性質も異なる。両者を同じ資金として運用すれば、どの利用者にどの資産が帰属するのかが曖昧になる。

ワイズが他社発行のステーブルコインを利用する場合は、発行会社、準備資産の保管先、ワイズ、受取人の間で責任を分けなければならない。ブロックチェーン上の送金が完了しても、発行者が償還を停止したり、受取国で換金できなかったりすれば、国際送金としては完了しない。

当初申請で指摘された法令順守上の課題も再審査の中心となる。国境を越えるステーブルコイン決済では、顧客確認、制裁対象の照合、不審取引の検知、送金元と受取人の情報管理を、既存の送金と同等以上の水準で行う必要がある。GENIUS法に沿った計画を示すだけで、過去に指摘された管理上の懸念が解消されるわけではない。

また、連邦信託銀行が連邦準備制度の決済網へどの条件で接続できるかは、ステーブルコインの流動性にも関係する。発行者が中央銀行マネーを使って直接決済できるのか、引き続き提携銀行を経由するのかによって、償還速度や資金管理コストは変わる。

初心者向け補足

ナショナル・トラスト・バンクは、一般の銀行と同じ業務をすべて行う免許ではない。資産保管、信託、決済、ステーブルコイン関連業務など、認められた範囲のサービスを米通貨監督庁の監督下で提供する金融機関である。

ステーブルコインはブロックチェーン上で移転できるデジタル資産だが、安定した決済手段として使うには法定通貨へ戻せる仕組みが必要になる。誰が発行し、どこに準備資産を置き、誰が償還請求を受け付けるかが、ネットワークの処理速度以上に重要である。

今回発表されたのは新しい免許申請の計画であり、免許取得やステーブルコイン事業の開始ではない。再申請が提出された後も、米通貨監督庁による事業計画、経営体制、資本、法令順守能力の審査が残る。

Web3Timesの視点

ワイズの再申請を、銀行免許へ再挑戦するニュースだけで捉えると、決済市場で起きている変化を見落とす。重要なのは、世界各国の銀行口座を結ぶ既存の送金網が、米国のステーブルコイン発行制度へ接続される可能性が出てきたことである。

ワイズ自身がステーブルコインを発行する場合、同社は送金の受付企業であると同時に、デジタルドルの発行者や償還窓口になる可能性がある。他社発行資産を使う場合でも、銀行口座とウォレットの間を結ぶ大規模な流通事業者として位置付けられる。

一方、ステーブルコインを社内精算へ導入するだけなら、利用者がオンチェーン資産へ直接アクセスできるわけではない。銀行外決済企業の参入が本格化したかを判断するには、免許の名称よりも、誰がトークンを保有できるのか、外部ウォレットへ送れるのか、受取人が現地通貨へどの経路で換金できるのかを見る必要がある。

今後の確認点は、再申請の提出時期、新法人の業務範囲、発行主体、準備資産、提携銀行、外部ウォレット対応である。ワイズの送金網とGENIUS法の発行規制が実際に接続されれば、ステーブルコインは暗号資産取引の道具から、銀行外決済企業が利用する国際送金の構成要素へ役割を広げる可能性がある。

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