韓国国会予算政策処がウォン建てステーブルコインで年間最大5.15兆ウォンの加盟店負担削減を試算、決済効率と銀行預金を巡る資金獲得競争が制度設計の焦点に

Last Updated on 2026年9月9日 by oba3

韓国の国会予算政策処(National Assembly Budget Office・NABO)が、ウォン建てステーブルコインを国内決済へ導入した場合、加盟店が負担する年間決済手数料を最大5.15兆ウォン、約38億ドル削減できるとの試算を公表した。最低ケースは0.37兆ウォンであり、実際の効果はカード決済からステーブルコインへ移る割合と、新しい決済網の手数料水準によって大きく変わる。今回の論点は安い決済手段が一つ増えることだけではない。家計や企業の資金が銀行預金からステーブルコインへ移れば、決済市場で得られる効率性と引き換えに、銀行が融資へ回す預金基盤が縮小する可能性がある。ウォンステーブルコインを決済商品ではなく、銀行と発行事業者が同じ資金を取り合う金融構造として見る必要がある。

目次

何が起きたのか?

国会予算政策処は2026年9月8日、ステーブルコインの金融市場への影響と政策課題を分析した報告書を公表した。報告書では、ウォン建てステーブルコインがカード決済の一部を代替した場合の加盟店手数料削減効果を試算している。

結果は年間0.37兆ウォンから5.15兆ウォンの削減となった。上限の5.15兆ウォンが約38億ドルに相当する。ただしこれは単一の予測値ではなく、カード決済からどの程度利用が移るか、ステーブルコイン決済の手数料をどの水準に設定するかによって変わるシナリオ分析だ。最大38億ドルがそのまま実現すると確定したわけではない。

同報告書によると、2026年7月時点の世界ステーブルコイン市場は約3123億ドルで、その98.8%をドル建てステーブルコインが占める。韓国ではまだウォン建てステーブルコインは制度化されておらず、現在はデジタル資産に関する第2段階の法整備が議論されている。

国会予算政策処は決済コスト削減だけでなく、準備資産規制、利用者への報酬上限、重要ステーブルコインの指定、市場安定化措置なども必要だと指摘した。導入を前提とした推進報告ではなく、便益と金融安定リスクを同時に評価した内容となっている。

なぜ重要なのか?

カード決済では、加盟店がカード会社や決済事業者へ手数料を支払い、複数の仲介主体を通じて資金が精算される。ステーブルコインで購入者から加盟店へより直接的に価値を移せれば、この仲介コストの一部を減らせる可能性がある。

しかし決済コストが下がるほど、銀行側には別の問題が生まれる。利用者が銀行口座に置いていたウォンをステーブルコインへ交換し、その残高を日常決済のために保有するようになれば、銀行預金から発行事業者の準備資産へ資金が移るためだ。

銀行は預金を重要な資金調達源として融資を行っている。ステーブルコイン保有が大規模化すれば、決済市場での競争だけでなく、企業や家計へ貸し出す原資を誰が保有するかという信用仲介の問題へ広がる。

市場構造への影響

ウォン建てステーブルコインが普及した場合、利用者から見れば銀行預金とステーブルコインはどちらもウォン価値を保存し決済に使う選択肢になる。しかし金融システムの内部では、その資金の使われ方が異なる。

銀行預金は銀行の負債となり、銀行は規制の下でその資金を企業融資や住宅ローンなどへ振り向ける。一方、ステーブルコイン発行者に移った資金は、償還に備える準備資産として現金や安全性の高い資産へ置かれる設計が想定される。

そのため利用者が銀行預金からステーブルコインへ大規模に移れば、同じウォン建て資金でも経済全体での役割が変化する。決済の高速化や手数料低下が実現する一方、銀行の預金調達コストが上昇したり、貸出能力へ影響したりする可能性が出てくる。

ウォンステーブルコインの競争相手はカードだけではない。資金保管という面では銀行預金とも競合する。この二面性が、単純な決済効率の比較では捉えにくい部分になる。

資金・規制・流動性との関係

もう一つの論点は大量償還だ。利用者がステーブルコインを一斉にウォンへ戻そうとした場合、発行者は準備資産を現金化して償還へ応じる必要がある。準備資産の構成や換金性が不十分なら、売却圧力やペッグへの不安が広がる可能性がある。

国会予算政策処が準備資産の規制や重要ステーブルコインに対する市場安定化措置を求めているのは、このためだ。平常時の手数料が安いだけでは決済インフラとして十分ではなく、利用者が大量に資金を引き出す局面でも額面通りに償還できる仕組みが必要になる。

また保有者へ高い報酬を付ければ、銀行預金からステーブルコインへの資金移動をさらに促す可能性がある。報告書が報酬率の上限や対象範囲への規制を論点として挙げたことは、ステーブルコインを単なる送金技術ではなく、預金と競争する金融商品として見ていることを示している。

現在の韓国ではウォン建てステーブルコインの具体的な制度はまだ確定していない。誰に発行を認めるのか、どのような準備資産を要求するのか、銀行と非銀行にどの条件を課すのかが今後の重要な政策論点になる。

初心者向け補足

加盟店手数料とは、店舗がカードなどの決済を受け付ける際に支払う費用だ。ウォンステーブルコインを使った直接的なデジタル決済で仲介事業者を減らせれば、その費用を下げられるというのが今回の試算の基本的な考え方になる。

一方、ステーブルコインを買うためには通常、銀行口座などからウォンを移す必要がある。利用者が100万ウォンを銀行預金からステーブルコインへ変えれば、利用者から見た資産価値は同程度でも、銀行側では100万ウォンの預金が減る。

この動きが小規模なら影響は限定的だが、決済市場全体で大きくなれば銀行の資金調達へ影響する。そのため中央銀行や金融当局は、手数料削減だけでなく預金流出や大量償還まで含めて制度を考える必要がある。

Web3Timesの視点

最大38億ドルという数字は目を引くが、今回の報告でより重要なのは、その節約効果と同じ資料の中で金融安定リスクが示されていることだ。ウォンステーブルコインはカード会社の手数料収入を削るだけではなく、銀行が預金を獲得する市場にも入ってくる。

ここで生まれるのは決済技術同士の競争ではなく、資金を誰が保有するかを巡る競争だ。銀行が預金として集めて融資へ回すのか、ステーブルコイン発行者が準備資産として保有するのかによって、同じ1000億ウォンでも金融システム内で流れる経路が変わる。

今後見るべきなのは、ウォンステーブルコインの決済件数だけではない。銀行預金からどれだけ資金が移るのか、発行者が準備資産を何で保有するのか、利用者への報酬をどこまで認めるのか、大量償還時に誰が流動性を提供するのかが重要になる。

韓国が制度化へ進む場合、政策の成否は加盟店手数料をどこまで下げられるかだけでは決まらない。決済効率を高めながら銀行の信用仲介機能と償還時の安定性をどう維持するか。その設計によって、ウォンステーブルコインが単なる低コスト決済手段になるのか、銀行預金と本格的に資金を奪い合う新しい金融層になるのかが決まってくる。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Web3をやさしく解説するOba3

目次