SECが投資顧問とファンド向け暗号資産カストディ新制度を提案、直接保有時の保管責任と選択肢を再設計へ

Last Updated on 2026年10月2日 by oba3

米証券取引委員会(Securities and Exchange Commission・SEC)は2026年10月1日、登録投資顧問と規制対象ファンドによる暗号資産の保管方法を見直す規則案を公表した。提案には、一定条件を満たす場合の自己保管と、州認可の信託会社を暗号資産カストディアンとして利用する枠組みが含まれている。

今回のポイントは、機関投資家一般に新たな暗号資産投資権を与えることではない。投資顧問やファンドが暗号資産を直接保有する場合に、誰が秘密鍵を管理し、どの保管主体を利用でき、事故時の責任を誰が負うのかを既存のカストディ制度へ組み込む提案だ。ETFとは異なる直接保有の実務を支える保管インフラの設計として見る必要がある。

目次

何が起きたのか?

SECは暗号資産関連の規則案として、「Adviser and Regulated Fund Custody Rules; Crypto Custody Rules」を公表した。ファイル番号はS7-2026-35で、登録投資顧問に加え、登録投資会社や事業開発会社などの規制対象ファンドが対象となる。意見募集は連邦官報への掲載後60日間行われる予定で、現時点では最終規則ではない。

提案の一つが投資顧問による自己保管だ。ただし、通常の保管手段と並んで自由に選択できる制度ではない。SEC案では、対象となる暗号資産について適切な適格カストディアンが利用できないと投資顧問が合理的に判断した場合に限り、一定の条件の下で自己保管を認める枠組みが示されている。

その判断は書面で残す必要があり、自己保管を続ける場合も少なくとも四半期ごとに、適切な外部カストディアンが利用可能になっていないか再評価することが求められる。つまり自己保管は恒久的な優先ルートではなく、外部保管の選択肢が十分でない場合の限定的な制度として設計されている。

さらに自己保管では、投資顧問自身がカストディアンとして秘密鍵管理を含む保管責任を負う。秘密鍵に関する操作には少なくとも2人による共同承認を求め、顧客ごとに暗号資産アドレスを分離するほか、サイバーセキュリティ管理、年次レビュー、独立会計士による内部統制報告なども条件として示されている。

もう一つの柱が州認可の信託会社だ。SEC案では、州当局から暗号資産保管を行う権限を与えられた信託会社について、投資顧問やファンドが一定の確認を行ったうえで利用できる枠組みを提示している。利用前に保管権限や秘密鍵管理、サイバーセキュリティなどの体制を確認し、その後も少なくとも年次でレビューする。

なぜ重要なのか?

機関投資家の暗号資産参入では、ビットコインやイーサリアムのETFが注目されやすい。ETFであれば、投資家は自ら秘密鍵を管理せず、ファンドとそのカストディアンを通じて価格へのエクスポージャーを得る。

今回SECが扱っているのは、その一段下にある保管制度だ。登録投資顧問が顧客資産として暗号資産を持つ場合や、規制対象ファンドが暗号資産を直接保有する場合に、既存のカストディ規則をどのように適用するかを整理しようとしている。

暗号資産では、秘密鍵の管理者が資産移動に関わる強い権限を持つ。そのため、伝統的な証券のように「証券会社や銀行へ預ければ終わり」という構造をそのまま当てはめにくい。誰が鍵を管理するのか、どのような内部統制を設けるのか、外部カストディアンを使えない場合にどうするのかを制度上明確にする必要がある。

今回の提案は、その空白を埋めようとするものだ。ただし自己保管には厳しい条件があり、適切な外部カストディアンが利用可能なら、投資顧問が自由に自己保管へ切り替えられる設計ではない。この制約が、制度の実態を理解するうえで重要になる。

市場構造への影響

制度化された場合、暗号資産カストディ市場では「誰が保管主体として認められるか」という競争が一段と重要になる。銀行やブローカーディーラー、専門カストディ企業に加えて、州認可信託会社が一定条件の下で利用できれば、機関向け保管サービスの選択肢が広がる。

一方、自己保管を選ぶ投資顧問には、外部へ払う保管手数料とは別のコストが発生する。2人以上による承認体制、顧客ごとのアドレス分離、秘密鍵管理、サイバーセキュリティ、内部統制、外部会計士による検証などを自社で維持しなければならないためだ。

このため市場では、暗号資産保管能力を自社インフラとして持つ大手金融機関、州認可信託会社、専門カストディ事業者の間で役割分担が進む可能性がある。重要なのは自己保管が広がるかどうかだけでなく、どの保管モデルがコストと管理責任の両面で選ばれるかだ。

また、州信託会社の利用は今回突然登場した考え方ではない。SECスタッフは2025年9月、一定条件の下で州信託会社を暗号資産カストディアンとして扱うことについて実務上の救済を示していた。今回の規則案には、そうした個別対応をより正式な制度へ整理する側面もある。

資金・規制・流動性との関係

この規則案が採用されたからといって、機関資金が直ちに暗号資産へ流入するわけではない。カストディ制度は投資判断そのものではなく、投資した資産を誰がどの責任で保管するかを定める基盤だからだ。

ただし、保管方法が不明確であることは、登録投資顧問や規制対象ファンドが暗号資産を取り扱う際の実務上の障害になり得る。外部カストディアン、自社保管、州信託会社という選択肢と要件が整理されれば、各社は法務、リスク管理、コストを比較したうえで保有方法を設計しやすくなる。

対象資産にも注意が必要だ。投資顧問側の改正案は、原則として資金または証券に該当する暗号資産を中心に適用される。規制対象ファンドについても、証券またはそれに類する投資対象として扱われる暗号資産が主な対象になる。すべての暗号資産を一律に直接保有できるようにする制度ではない。

したがって制度の市場影響を見るには、最終規則で対象資産の範囲がどう定義されるか、自己保管が実際にどの程度利用されるか、州信託会社への保管がどれだけ増えるかを分けて追う必要がある。

初心者向け補足

暗号資産のカストディとは、資産を安全に保管し、送金などに必要な秘密鍵を管理する仕組みを指す。秘密鍵を管理する主体には資産移動へ関与する権限があるため、金融機関が顧客資産として暗号資産を扱う場合には強い内部統制が必要になる。

今回使われている自己保管という言葉は、個人が自分のウォレットで暗号資産を管理する一般的なセルフカストディとは意味が異なる。SEC案では、登録投資顧問自身がカストディアンとして顧客の暗号資産を管理する制度上の方式を指す。

しかも、その方式を選べるのは適切な外部カストディアンが利用できないと合理的に判断した場合が前提になる。さらに2人以上による承認や顧客別の資産管理なども求められるため、個人ウォレットのように一人で秘密鍵を管理する仕組みとは大きく異なる。

州信託会社は、州法の下で認可・監督される信託事業者だ。暗号資産カストディを専門に行う企業の一部もこの形態を採用している。SEC案は、一定の要件を満たす州信託会社を投資顧問やファンドが利用するための判断基準を制度として整理しようとしている。

Web3Timesの視点

今回追うべきなのは、ETF以外の暗号資産保有手段が増えたかどうかだけではない。より重要なのは、機関投資家が暗号資産を直接保有する際の責任が、どの主体へ配分されるのかである。

第一の観測点は、最終規則で「適切な適格カストディアンが利用できない」という自己保管の条件がどこまで維持されるかだ。ここが厳格に残れば、自己保管は限定的な例外として機能する。条件が変更されれば、投資顧問自身が保管機能を内製する余地も変わる。

第二は州信託会社の利用状況だ。2025年のSECスタッフによる実務対応から今回の規則案へ進んだことで、州レベルの暗号資産カストディ事業者が連邦規制下の投資顧問やファンドとどこまで接続するかが具体的な観測対象になる。

第三は、自己保管、州信託会社、既存の専門カストディアンのどこへ資産が集まるかである。この配分が見えてくれば、暗号資産カストディ市場の主導権が銀行型、信託会社型、専門事業者型のどこへ向かうのかを判断できる。

暗号資産の機関導入では、ETFや取引市場の整備が表側に見えやすい。しかし直接保有を広げるには、売買後の資産を誰が守るのかという裏側の制度が必要になる。SECの今回の提案は、新しい投資商品を増やす制度というより、暗号資産を金融機関のバランスシートや顧客資産として扱うための保管責任を組み直す動きとして読む方が実態に近い。

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