Last Updated on 2026年7月31日 by oba3
全米消費者連盟(Consumer Federation of America・CFA)は、米国人が2025年に被った暗号資産関連詐欺の実質的な損失を約807億ドルと推計した。連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation・FBI)へ報告された損失は約113億6600万ドルであり、807億ドルは未届け被害を含めるために算出された推計値である。注目すべきなのは総額の大きさだけではない。銀行預金や現金が暗号資産へ交換され、外部ウォレットへ送られた後、短時間で複数のアドレスや国外事業者を通過して回収が難しくなる経路にある。
何が起きたのか?
CFAは7月28日、2025年に米国で発生したオンライン詐欺と犯罪の実質的な損失が約1482億ドルに達したとの推計を公表した。2024年からは25.8%増え、1世帯当たりでは年間平均1009ドルに相当するとしている。
このうち、暗号資産が関係する被害の推計額は約807億ドルだった。基礎となったFBIのインターネット犯罪苦情センター(Internet Crime Complaint Center・IC3)の統計では、2025年に暗号資産関連の申告が18万1565件あり、報告された損失は約113億6600万ドルだった。件数は前年比21%、損失額は22%増加している。
ただし、807億ドルはFBIが確認した実損額ではない。CFAは、詐欺被害の多くが警察やFBIへ届けられないという前提から、IC3の報告額を基に未報告分を加えた実質的な被害規模を推計している。したがって、報告済みの約113億6600万ドルと推計値の約807億ドルは、同じ性質の数字として扱うべきではない。
FBIの統計では、暗号資産投資詐欺だけで6万1559件、約72億2800万ドルの損失が報告された。暗号資産ATMやキオスクを利用した被害も1万3460件、約3億8900万ドルに達した。詐欺の入口は投資話に限らず、恋愛、政府機関や金融機関のなりすまし、技術サポート、口座保護を装う指示など多岐にわたる。
なぜ重要なのか?
暗号資産は詐欺の勧誘手段そのものではなく、被害金を犯人側へ移す最終的な決済手段として使われる場合が多い。被害者は銀行送金、カード、現金引き出しなどで資金を用意し、交換所や暗号資産ATMでビットコイン(Bitcoin)などへ変換した後、指定されたウォレットへ送るよう誘導される。
銀行振込では、送金先口座の凍結や金融機関間の組み戻しが間に合う場合がある。一方、暗号資産は一度外部ウォレットへ送ると、送金自体を取り消す中央管理者がいない。さらに、犯人が分散型交換、資産交換サービス、複数のブロックチェーン、国外の交換業者を使って資金を移せば、追跡できても実際の差し押さえや返還が難しくなる。
このため、被害防止の分岐点はブロックチェーン上の最終送金より前にある。銀行から暗号資産交換所へ大口資金が移る時点、交換所から初めて外部ウォレットへ送る時点、暗号資産ATMへ現金を投入する時点で、詐欺の兆候を検知できるかが被害額を左右する。
市場構造への影響
暗号資産詐欺への対応は、違法ウォレットを事後的に追跡する仕組みから、法定通貨と暗号資産の接点で送金を止める仕組みへ比重が移る可能性がある。特に銀行、交換所、暗号資産ATM事業者が別々に監視している現在の構成では、各社が見られる情報が分断されやすい。
銀行には、普段と異なる高額送金、短期間の定期預金解約、借り入れ直後の資金移動、交換所への連続送金などが見える。一方、交換所には、新規口座からの全額出金、入金直後の外部送金、初めて使うウォレットへの高額移転、詐欺に関連付けられたアドレスとの接続が見える。双方の警戒情報を適切に共有できれば、単独では判断しにくい取引も検知しやすくなる。
ただし、正当な利用者が自分の資産を外部ウォレットへ移す行為まで一律に止めれば、自己管理という暗号資産の利用価値を損なう。監視強化では、金額だけでなく、口座開設からの期間、送金頻度、利用者の年齢、過去の取引、詐欺アドレスとの関係などを組み合わせ、危険度に応じて確認手続きを変える必要がある。
推計被害が807億ドル規模と受け止められれば、交換所や決済事業者に対し、本人確認だけでなく取引目的の確認や送金保留を求める議論が強まる可能性がある。市場参加者にとっては、外部送金の自由度と詐欺防止義務をどこで釣り合わせるかが次の制度課題になる。
資金・規制・流動性との関係
詐欺資金は、被害者の銀行口座から交換所へ入り、暗号資産へ変換された後、犯人のウォレットへ流れる。犯人側は受け取った資産をそのまま保有するとは限らず、ステーブルコインへの交換、別チェーンへの移動、相対取引、国外交換所への入金などを通じて換金経路を分散させる。
この過程で重要なのは速度である。被害者が送金直後に申告し、銀行、交換所、捜査機関が連携できれば、交換所口座や換金先で資産を凍結できる場合がある。報告が数日遅れると、資産は多数のアドレスへ分割され、回収に必要な法的手続きも複数国へ広がりやすい。
FBIの金融詐欺資金回収手続きは、迅速な申告を基に銀行間送金の停止や資金凍結を支援している。暗号資産でも同様に、取引識別子、送金先アドレス、交換所名、時刻を早く共有することが回収可能性を高める。ただし、自己管理ウォレットへ移動した後は、秘密鍵を持つ人物の協力か、資産が規制事業者へ戻る時点を待つ必要がある。
銀行や交換所への義務が強化されれば、外部送金時の警告、一定時間の保留、追加認証、担当者による確認が増える可能性がある。これらは被害を抑える一方、正当な送金の速度や利便性を下げる。制度設計では、全取引を遅らせるのではなく、初回送金や高リスク取引へ対策を集中できるかが重要になる。
初心者向け補足
暗号資産関連詐欺とは、暗号資産そのものの仕組みが破られた事件だけを指すわけではない。偽の投資サイト、恋愛を利用した勧誘、金融機関のなりすましなどで被害者を信用させ、最後に暗号資産で送金させる詐欺も含まれる。
画面上に利益が表示されていても、本当に取引が行われているとは限らない。詐欺サイトでは架空の残高を見せ、引き出しを求めた段階で税金、保証金、手数料などの追加送金を要求する例がある。追加料金を払えば資金を回収できるという連絡も、二次被害を狙う回収詐欺である可能性がある。
また、約807億ドルは公的機関が個別被害を積み上げた確定額ではなく、未報告分を含めた推計である。公的に報告された暗号資産関連損失は約113億6600万ドルであり、数字を見る際には実績値と推計値を分ける必要がある。
Web3Timesの視点
今回の報告で見るべきなのは、暗号資産詐欺の総額が大きいという事実だけではない。資金が銀行口座にある段階では取引停止や本人への確認が可能でも、暗号資産へ変換され、自己管理ウォレットへ移った瞬間に回収手段が大きく減るという時間差が核心である。
今後の規制論点は、交換所が不正アドレスを監視しているかだけでは足りない。銀行から交換所への資金移動、交換所口座への入金、暗号資産への交換、外部送金という連続した流れを、どの事業者がどの段階で止める責任を負うのかが問われる。
特に確認すべきなのは、初回の外部送金に待機時間を設けるか、高齢者や詐欺被害の兆候がある利用者へ追加確認を行うか、銀行と交換所が警戒情報を共有できるかである。暗号資産ATMについても、警告表示だけでなく、送金先の危険度確認や高額取引の保留が制度化される可能性がある。
一方で、過度な送金制限は正当な自己管理や国際送金を妨げる。重要なのは暗号資産を一律に危険視することではなく、詐欺師が法定通貨から暗号資産へ被害金を変換する接点を特定し、回収不能になる前に介入することである。807億ドルという推計は、その接点を銀行、交換所、ATM事業者の共通責任として再設計する圧力になり得る。

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