Last Updated on 2026年8月6日 by oba3
アンカレッジ・デジタル銀行(Anchorage Digital Bank)は、米連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board・FRB)が提案する限定的な決済口座について、従来のマスター口座に代わる実用的な選択肢にはならないと主張した。名称上はFRBの決済基盤へ接続できる口座だが、利用可能な送金網、日中流動性、残高上限、準備預金への利息が制限されれば、暗号資産銀行は仲介銀行を使い続けることになる。焦点は口座を持てるかではなく、中央銀行マネーでどこまで直接決済できるかにある。
何が起きたのか?
アンカレッジ・デジタル銀行は、FRBが2026年5月に公表した決済口座案への意見書を提出した。提案は、法的に口座開設資格を持つものの連邦預金保険へ加入していない金融機関などに、決済と清算を目的とした限定口座を提供する内容である。
同社は制度の見直し自体を支持しながらも、提案された口座にはフェッドACH(FedACH)へのアクセスがなく、翌日へ持ち越せる残高に上限があり、日中信用を利用できず、FRBへ置く残高にも利息が付かないと指摘した。これらの制約が残る限り、通常の銀行業務を支えるマスター口座の代替にはならないとの立場である。
アンカレッジ・デジタル銀行は、通貨監督庁(Office of the Comptroller of the Currency・OCC)が監督する連邦認可のナショナル・トラスト銀行である。同社によると、2025年8月にミネアポリス連邦準備銀行へ正式なマスター口座を申請したが、審査は現在も続いている。FRBは今回の制度検討に伴い、最も厳格な審査区分に入る一部申請の判断を一時停止するよう各地区連銀へ促している。
なぜ重要なのか?
マスター口座は、金融機関がFRBの帳簿上に資金を持ち、フェッドワイヤー(Fedwire)やACHなどを通じて銀行間決済を行うための基盤である。これを持たない事業者は、マスター口座を保有する別の銀行に資金移動や決済を委託しなければならない。
仲介銀行を経由すると、手数料が加わるだけでなく、送金時間、営業時間、資金保留、取引審査の判断も相手銀行に左右される。暗号資産やステーブルコインを扱う企業は、提携銀行の方針変更によって入出金経路を失うリスクも抱えるため、FRBへの直接接続は単なる効率化以上の意味を持つ。
一方、FRBは、預金保険のない金融機関へ通常銀行と同じ機能を与えれば、信用リスク、資金洗浄、急激な資金流出が決済制度へ波及する可能性があるとみている。決済口座案は、中央銀行の信用供与を避けながら接続範囲を広げる妥協案だが、制限が強すぎれば利用者が仲介銀行から離れられないという矛盾が生じる。
市場構造への影響
今回の論点は、決済口座とマスター口座の名称の違いではなく、金融機関が中央銀行マネーを直接保有し、どの決済網を利用できるかである。中央銀行マネーは民間銀行の信用状態に依存しない決済資産であり、銀行間取引の最終的な清算に使われる。
提案された決済口座でも一部のFRBサービスへ接続できる可能性はあるが、フェッドACHを使えなければ、給与、請求、企業間支払いなど日常的な大量送金を自社で完結しにくい。アンカレッジ・デジタルは、フェッドACHが2024年に米国の非現金決済額の74%にあたる約104兆ドルを処理したとして、この欠落を重大な制約と位置付けている。
日中信用がない点も運営方法を変える。銀行は一日の中で入金と出金の時刻が一致しないため、一時的な資金不足を日中信用で補うことがある。これを利用できなければ、決済のたびに多めの現金を待機させるか、外部銀行から短期資金を調達する必要がある。
さらに翌日残高の上限が設定されれば、口座に置けない資金を毎日別の銀行へ移さなければならない。形式上はFRBと直接つながっていても、資金保管と日常送金を仲介銀行へ依存する構造が残れば、決済網の多層化は解消されない。
資金・規制・流動性との関係
アンカレッジ・デジタルが問題視しているのは、預金保険へ加入していないことを、監督の弱さと同じように扱う現在の審査区分である。同社はOCCの監督を受ける国法銀行であり、資金洗浄対策や制裁対応についても連邦監督下にあるため、預金保険の有無だけで最も厳しい審査区分へ入れるべきではないと主張している。
FRB案では、預金保険のない機関やFRB監督下の持ち株会社を持たない機関が、厳格な審査を受けやすい。アンカレッジ・デジタルは、法的な銀行資格と実際の監督内容を評価せず、一律の残高上限や追加審査を課せば、連邦認可を取得した利点が決済アクセスへ反映されないと訴えている。
準備預金へ利息が付かないことも資金コストに関係する。決済に備えて多額の現金をFRB口座へ置いても収益を得られなければ、事業者は利息を得られる別の資産や銀行口座との間で資金を頻繁に移すことになる。ステーブルコイン準備資産を管理する銀行にとっては、安全性だけでなく、待機資金を効率的に運用できるかがサービス価格へ反映される。
限定口座のまま制度化されれば、暗号資産銀行はFRBと仲介銀行の両方へ接続する二重構造を維持する可能性がある。その場合、仲介手数料、追加担保、資金移動の事務負担が残り、最終的には法人顧客やステーブルコイン発行者が支払う決済費用へ転嫁され得る。
初心者向け補足
マスター口座は、一般の利用者が持つ銀行口座ではない。銀行などの金融機関が地区連銀に持つ口座で、金融機関同士の送金や決済を最終的に完了させるために使われる。
今回提案された決済口座は、マスター口座の一部機能だけを提供する仕組みである。日中の借り入れや緊急融資を認めず、自動的に残高不足を防ぐことでFRB側のリスクを抑える設計になっている。
アンカレッジ・デジタルの主張は、すべての暗号資産企業へ無条件でマスター口座を与えるべきだというものではない。同社は、自らがOCC監督下の国法銀行である点を踏まえ、銀行としての認可内容と実際のリスクに応じて審査すべきだと求めている。
Web3Timesの視点
今回見るべきなのは、FRBが暗号資産銀行向けの新しい口座を用意するかどうかではない。重要なのは、その口座によって仲介銀行を通さず、中央銀行マネーで日常的な決済を完結できるかである。
フェッドACHを利用できず、日中信用もなく、翌日残高を制限される場合、暗号資産銀行は資金を別の銀行へ移しながら運営する必要がある。これは直接接続というより、既存の銀行依存へ限定的なFRB接点を追加する形に近い。
今後の確認点は、最終案で利用可能になる決済サービス、翌日残高の算定方法、日中の資金不足を処理する仕組み、準備残高への利息、マスター口座申請の審査期間である。あわせて、OCC監督下のナショナル・トラスト銀行を、預金保険のない他の事業者と同じ審査区分へ置くかも焦点となる。
決済口座が十分な機能を持てば、暗号資産銀行やステーブルコイン関連事業者は、仲介銀行の都合に左右されにくいドル決済経路を構築できる。反対に制限が維持されれば、口座名称が変わっても費用と依存関係は残る。制度評価の基準は新しい口座が創設されたという事実ではなく、中央銀行の帳簿上で資金を保有し、必要な決済を直接終えられる権限がどこまで認められるかである。

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