Last Updated on 2026年8月2日 by oba3
ビットコイン(Bitcoin)専用ハードウェアウォレットのコールドカード(COLDCARD)で、シード生成時の乱数が本来より弱くなる脆弱性が確認された。オンチェーン上では約594BTCが短時間に移動した初期集計に加え、ギャラクシー・リサーチ(Galaxy Research)が1196アドレス、1082.65BTC、当時約7020万ドル相当まで関連範囲を広げている。ただし、コインカイト(Coinkite)が認めた脆弱性と、集計された全移動の因果関係は調査中である。今回の焦点は被害額だけでなく、一つの機器と一つのシードへ資産管理を集中させる自己保管の設計が見直されるかにある。
何が起きたのか?
コインカイトは2026年7月30日、コールドカードの一部ファームウェアで生成されたシードに十分な予測困難性が確保されていなかったとして、セキュリティ警告を公表した。シードとは、ウォレット内の秘密鍵を作り直すための12語または24語の単語列であり、第三者に推測されれば端末本体へ触れなくてもビットコインを移動されるおそれがある。
初期のオンチェーン分析では、約500の単独署名アドレスから約594.48BTCが約25分で移動し、その多くが一つのアドレスへ集約されたと報告された。その後、ギャラクシー・リサーチは同じ手数料設定や変更用出力を持たない取引パターンを調べ、7月30日の約41分間に1196アドレスから1082.65BTCが移動したとの集計を示した。
約594BTCは狭い条件で確認された初期集計であり、約7000万ドルは関連するとみられる取引群を広く含めた分析値である。メーカーはシード生成の欠陥を正式に認めているが、個々の盗難ウォレットがすべて同じ脆弱性によって侵害されたと確定したわけではない。
影響範囲はMk3だけではない。Mk3では標準ファームウェア4.0.1から4.1.9までが対象となり、4.2.0以降で新規シード生成が修正された。Mk4とMk5は標準版5.6.0より前、Qは標準版1.5.0Qより前に生成されたシードが対象となる。別系統のEdge版では、Mk4とMk5が6.6.0Xより前、Qが6.6.0QXより前とされている。
なぜ重要なのか?
ハードウェアウォレットは秘密鍵をインターネットから切り離して管理するが、その安全性は端末がオフラインであることだけでは決まらない。秘密鍵の元となるシードが十分にランダムでなければ、攻撃者は候補を計算し、対応するアドレスに残高が入るまで監視できる。
メーカーの説明では、Mk3の対象バージョンで生成されたシードは推定約40ビット、Mk4、Mk5、Qの修正版以前では約72ビットのエントロピーだった。通常期待される128ビット以上より探索範囲が狭く、大規模な計算資源を持つ攻撃者にとって推測可能性が高まる。
ファームウェアを更新しても、過去に作られたシードは修復されない。更新で直るのは新しく生成するシードであり、対象環境で作成した既存ウォレットは、新しい安全なシードとアドレスへ資産を移す必要がある。
ただし、対象ファームウェアを使っていても条件は一律ではない。シード作成時に50回以上の独立した秘密のダイス入力を追加していた場合、その入力だけで十分な乱数を補えているとメーカーは説明している。強固で固有のBIP-39パスフレーズを使っていた場合も追加の防壁になるが、元のシード自体が修復されるわけではなく、計画的な移行が推奨されている。
市場構造への影響
今回の問題は、自己保管そのものが成立しないことを示す事件ではない。より直接的な論点は、一台の機器、一つのメーカー、一つのシード生成方法へ全資産を依存させた場合、その工程の欠陥が保有額全体へ及ぶことである。
自己保管では、交換所の破綻や出金停止から資産を切り離せる一方、鍵生成、バックアップ、更新、移行の責任を利用者が負う。専門カストディでは秘密鍵管理を事業者へ委ねられるが、資産凍結、内部不正、事業者障害といった別のリスクが生じる。現物ビットコインETFでは秘密鍵を直接扱わずに価格へ連動できるものの、投資家はビットコインそのものを引き出せない。
今回の事故を受けて、一部利用者が規制カストディやETFを比較対象へ加えることは考えられる。ただし、自己保管資産がすでに大規模にETFへ移ったことを示す資金データは確認されていない。現時点で観測できるのは、保管方法を再確認する必要性が高まったことであり、資金移動の方向はまだ確定していない。
大口保有者では、複数の鍵のうち一定数がそろわなければ送金できないマルチシグや、利用者と専門事業者が鍵を分担する共同保管が選ばれる余地もある。異なるメーカーと異なる生成方法を組み合わせれば、一つの製品の欠陥が直ちに全資産の流出へつながる構成を避けやすい。
資金・規制・流動性との関係
自己保管から専門カストディへビットコインを送る場合、資産の保管先が変わるだけで、必ずしも市場で売却が発生するわけではない。ETFへ移る場合には、自己保管していたビットコインを売却して証券口座でETFを購入する経路もあり、交換所、証券会社、ETFの認定参加者、カストディアンを通る資金の流れへ変わる。
保管先が少数の規制事業者へ集中すれば、個人のバックアップ紛失や端末操作の事故は減らせる。一方、大量のビットコインが限られたカストディ基盤へ集まるため、鍵管理システム、内部承認、法的差し押さえ、サービス停止の影響は大きくなる。
今回の脆弱性は、ハードウェアウォレットの評価基準にも影響する。端末がオープンソースであるかだけでなく、乱数生成部分の独立監査、修正版の公開速度、再現可能なビルド、対象利用者への通知、既存シードの移行手順まで確認する必要がある。
規制カストディ側も、一種類の端末や署名基盤へ依存していないかが問われる。複数メーカー、地理的に分散した鍵、複数人の承認、送金額の上限を組み合わせなければ、個人向けウォレットで起きた単独障害を、より大きな規模で再現するおそれがある。
初心者向け補足
コールドカード本体の中にビットコインが保存されているわけではない。ビットコインはブロックチェーン上に記録され、端末は資産を動かす秘密鍵を守り、送金取引へ署名する役割を持つ。
今回の対象確認では、機種名だけでなく、シードを作った時点のファームウェア、ダイス入力の回数、BIP-39パスフレーズの有無を見る必要がある。後から端末を更新していても、古い対象バージョンで生成したシードを使い続けていれば影響は残る。
移行時は急いで全額を送るのではなく、修正版が入っていることを確認し、新しいシードと受取アドレスを端末画面で照合したうえで、小額のテスト送金を行う必要がある。新しいウォレットで着金を確認してから残額を移し、全取引が確定するまでは旧バックアップを保持する。
メーカーも、慌てた移行操作が別の紛失や誤送金を引き起こす危険を警告している。対象条件を確認できない場合は安全側で移行を検討すべきだが、シードをウェブサイトへ入力したり、未確認の支援者へ渡したりしてはいけない。
Web3Timesの視点
今回の約7000万ドルという数字は、メーカーが確定した被害総額ではない。ギャラクシー・リサーチが共通するオンチェーン上の特徴から集計した推定範囲であり、脆弱性との結び付きは今後の調査でさらに整理される必要がある。
一方、脆弱性そのものはメーカーが認め、Mk3だけでなくMk4、Mk5、Qにも修正版以前の影響があると説明している。記事を読む利用者にとって最も重要なのは、被害額の更新を追うことより、自分のシードがどの端末とバージョンで作られたかを確認することだ。
保管方法の選択も、自己保管かETFかという二択ではない。単独署名、マルチシグ、共同保管、規制カストディ、ETFでは、利用者が持つ権限と引き受ける障害が異なる。今回の事故後に比較されるのは、誰が秘密鍵を持つかだけでなく、一つの製品や一人の判断が壊れても全資産を失わない構成になっているかである。
今後確認すべきなのは、1082.65BTCの全取引が同じ脆弱性に関連するか、対象シードを持つ未移行残高がどれほど残っているか、メーカーが正式な技術検証と補償方針を示すかである。今回の事件は自己保管から機関保管への一方向の移動を確定させたものではない。保管リスクを一か所へ集めず、利用者の技術水準と資産規模に応じて分散させる設計へ見直す契機となっている。
