Last Updated on 2026年8月26日 by oba3
米国の39州の銀行協会が、銀行業界自身が所有・設計・統治するブロックチェーンネットワーク、バンクチェーン・アライアンス(BankChain Alliance)を設立した。2027年の稼働開始を目指し、トークン化預金、ステーブルコイン、スマート決済、自動決済などを銀行の規制枠内で提供できる共通基盤を構築する。重要なのは、銀行が暗号資産サービスへ参入するという話だけではない。これまで外部のブロックチェーンやフィンテックへ接続してきた銀行側が、自ら共有台帳を所有し、決済や預金のデジタル化に必要なインフラを共同で持とうとしている点だ。
何が起きたのか?
2026年8月25日、フロリダ、テキサス、ニューハンプシャー、ニュージャージー、ペンシルベニアなど39州の銀行協会がBankChain Allianceの設立を発表した。参加協会は全米の数千の金融機関を代表しており、都市部の銀行だけでなく地方銀行やコミュニティーバンクも利用できる全国規模のネットワークを目指している。
暫定議長には、フロリダ銀行協会(Florida Bankers Association)の社長兼CEOで、米消費者金融保護局の元局長でもあるキャシー・クラニンガー(Kathy Kraninger)が就いた。計画では、業界が所有し、業界が設計し、業界が統治する共通ブロックチェーン基盤を構築する。
対応候補として公表されているのは、スマート決済、トークン化預金、ステーブルコイン、自動決済などだ。ネットワークは他のネットワークとの相互運用も想定しており、全米の銀行に将来的な所有参加を呼びかける方針を示している。
ただし現時点ではネットワークは稼働していない。技術パートナーの選定を進めている段階で、採用するブロックチェーン技術、参加ノードの条件、ステーブルコインの発行主体、具体的な決済方式などは公表されていない。
なぜ重要なのか?
これまで銀行がブロックチェーンを利用する場合、大手銀行が独自ネットワークを構築するか、外部の公開チェーンやフィンテック企業の基盤へ接続するモデルが中心だった。BankChain Allianceは、多数の銀行が共通インフラを共同所有する点で異なる。
特に中小銀行にとって、単独でブロックチェーン基盤、スマートコントラクト、法令対応、決済接続を開発する負担は大きい。共同基盤を利用できれば、各行はインフラを一から作らずにトークン化預金や新しい決済機能を顧客へ提供できる可能性がある。
市場構造への影響
この計画が実現すれば、ブロックチェーン決済の競争は公開チェーン同士だけではなくなる。銀行業界が共通台帳を持つことで、銀行預金を基礎としたデジタル決済網が、ステーブルコイン、カード網、ACHなど既存の決済手段と並ぶ可能性が出てくる。
特に注目されるのがトークン化預金だ。これは銀行預金に対する顧客の権利をデジタル台帳上で表現する仕組みで、銀行外部で発行されるステーブルコインとは法的な位置付けが異なる。銀行が自ら共有ネットワークを持てば、預金という既存の負債構造を維持しながら、24時間に近い決済や自動化された資金移動を実装する選択肢が生まれる。
資金・規制・流動性との関係
銀行業界にとってステーブルコインの拡大は、決済競争だけでなく預金流出の問題とも関係する。顧客資金が銀行預金から外部のステーブルコインへ移れば、銀行が融資に使う預金基盤が縮小する可能性がある。自前のブロックチェーン上でトークン化預金や規制下のステーブルコインを提供できれば、デジタル決済需要を銀行システムの内側へ残す手段になる。
一方、共有台帳を銀行が所有するからといって既存決済網や公開チェーンが不要になるわけではない。BankChain Alliance自身も他ネットワークとの相互運用を掲げている。実際の競争は閉じた銀行チェーンを作ることではなく、銀行預金、ステーブルコイン、公開チェーン、既存決済網の間で資金をどれだけ安全かつ低コストで移動できるかに移る可能性がある。
初心者向け補足
一般的な銀行送金では、各銀行が持つ内部台帳と中央の決済システムを使って残高を更新する。共有ブロックチェーンを利用すると、参加銀行が同じ台帳上で取引状態を確認し、一定の処理を自動化できる。
ただしBankChain Allianceは、誰でも自由に参加できる公開ブロックチェーンになると決まったわけではない。銀行規制、安全性、顧客保護を維持することを前提としているため、参加主体を金融機関などに限定する設計になる可能性がある。具体的な技術構成は今後の発表を確認する必要がある。
Web3Timesの視点
このニュースを銀行による暗号資産参入として読むだけでは、変化の中心を捉えにくい。より重要なのは、39州の銀行協会が「接続先を選ぶ側」から「決済台帳を共同所有する側」へ移ろうとしていることだ。
銀行が自前の共有ネットワークを持てば、将来のデジタルマネーでどの資産を使い、誰が取引を検証し、どの規則で決済するかについて、銀行業界自身が設計へ関与できる。これは公開チェーンへの対抗だけではなく、カード会社、決済事業者、ステーブルコイン発行者との交渉力にも関係する。
もっとも、現在は技術パートナーすら選定中であり、2027年に予定通り稼働するか、何行が実際に参加するかはまだ分からない。今後見るべきなのはプロジェクト名より、ネットワークの所有構造、参加条件、決済資産、他チェーンとの接続方法だ。BankChain Allianceが実用化されれば、ブロックチェーン金融の競争は「どのチェーンを銀行が使うか」から「銀行自身がどの共有台帳を所有するか」という段階へ進むことになる。
