レイヤーゼロが機関向け取引基盤ATLASを発表、執行・清算・決済を一体化するオンチェーン市場基盤が既存金融へ接近

Last Updated on 2026年8月26日 by oba3

レイヤーゼロ(LayerZero)が、暗号資産からトークン化株式、債券、商品までを対象に、取引執行から清算、決済、リスク管理を一つの基盤で処理するATLASを発表した。ATLASは一般利用者向けの取引アプリを持たず、取引所や金融機関が自社ブランドの市場を構築するための裏側のエンジンとして設計されている。シタデル・セキュリティーズ(Citadel Securities)が基盤となるZeroの開発を支援し、DTCCやインターコンチネンタル取引所(Intercontinental Exchange・ICE)もZeroの機関市場での用途を検討している。焦点はZROの価格ではない。取引所、清算、決済という従来別々だった金融機能を、誰がオンチェーン上で提供するのかという市場インフラの再編にある。

目次

何が起きたのか?

レイヤーゼロは2026年8月25日、ATLASを正式発表した。正式名称はAggregated Trading Liquidity and Settlementで、同社が2月に発表した新しいブロックチェーンZero上に構築される。レイヤーゼロによると、ATLASは注文のマッチング、清算、決済、リスク管理を一つの技術スタックへ統合する。

ATLASにはオープン市場向けと機関市場向けの二つの構成が用意される。オープン版では暗号資産取引アプリや予測市場などが独自の取引画面を構築し、ATLASをバックエンドとして利用できる。機関版では取引所や金融機関が参加条件や市場ルールを設定しながら、同じ取引エンジンを利用する設計となる。

対象資産としては現物暗号資産、永久先物、株式、債券、商品、予測市場などが想定されている。現在の公開環境を模した試験では中央値で1ミリ秒未満の処理時間を記録し、ローンチ時には毎秒20万件の取引処理能力を用意する計画だ。ATLAS自体は2026年後半の稼働が予定されており、現時点では本番市場で大規模な機関取引が開始された段階ではない。

シタデル・セキュリティーズはZeroに戦略投資し、機関向けオンチェーン市場に必要な執行環境の設計に関与している。DTCCはZeroを自社のトークン化サービスや担保関連基盤へ利用できるか検討しており、ICEも24時間市場やトークン化担保に関係する用途を探っている。ただし、DTCCやICEがATLASの正式採用を決定したとまでは公表されていない。

なぜ重要なのか?

従来の証券市場では、注文を成立させる取引所、取引後の債権債務を整理する清算機関、実際に証券と資金を移す決済機関が別々に存在する。大規模市場ではこの分業が安定性を支えてきた一方、システム間の照合や時間差が必要になる。

トークン化された資産は24時間移転できるため、取引部分だけをオンチェーン化しても、清算や決済が従来システムに残れば処理速度の差が生じる。ATLASはこの分断を減らし、取引成立から最終的な所有権記録までを同じ技術基盤へ近づけようとしている。

市場構造への影響

ATLASの特徴は、自ら顧客を集める取引所ではなく、他の取引所が利用するヘッドレス型の市場基盤であることだ。利用者はATLASというアプリを使うのではなく、証券会社、暗号資産取引所、金融機関などが提供する画面から取引する。その裏側でATLASが執行や決済を処理する。

このモデルが広がれば、取引所を立ち上げる企業が注文エンジンや清算システムを一から構築する必要が薄れる。金融機関は顧客関係や規制対応を維持したまま、共通のオンチェーン基盤を利用できるためだ。

さらに暗号資産とトークン化証券が同じ基盤で取引されるようになれば、現在は別々に存在する暗号市場と証券市場の技術インフラが近づく可能性がある。競争軸はどの取引アプリが利用者を多く持つかだけでなく、どの基盤が執行、清算、決済、流動性をまとめて提供できるかへ広がる。

資金・規制・流動性との関係

機関投資家が利用するためには処理速度だけでは足りない。参加者を限定できること、取引ルールを設定できること、資産の所有記録を確認できること、規制対象市場に必要な管理を実装できることが重要になる。ATLASの機関版は、市場運営者が独自の参加条件やルールを設定できる設計としている。

一方で、ATLASそのものが証券取引所や清算機関として各国の規制ライセンスを取得したわけではない。実際に株式や債券を取引する場合には、利用する金融機関や市場運営者が対象地域の証券規制、顧客確認、資産保管、清算制度に対応する必要がある。

流動性についても技術だけで自動的に生まれるわけではない。ATLASは市場運営者、商品を設計する市場作成者、価格を提示するマーケットメーカーを分けた構造を採用している。シタデル・セキュリティーズのような大規模マーケットメーカーがZeroの設計に関与していることが注目されるのは、高速な取引基盤だけでなく実際の価格形成能力が機関市場には不可欠だからだ。

初心者向け補足

取引、清算、決済は同じように見えるが役割が異なる。取引は買い手と売り手の注文を成立させる処理、清算は成立後に誰がいくら支払い何を受け取るかを確定する処理、決済は最終的に資金と資産を移す処理だ。

現在の金融市場ではこれらを複数の企業やシステムが担当している。ATLASはこの一連の処理を共通の技術基盤へまとめ、Zeroを最終的な所有状態を確認する台帳として利用する。つまり単なる分散型取引所ではなく、市場を運営する企業向けの取引インフラを目指している。

Web3Timesの視点

ATLASで見るべきなのはZROの値動きではなく、レイヤーゼロが資産をチェーン間で移動させる企業から、市場そのものを動かす基盤提供者へ領域を広げたことだ。

トークン化が進むと、次に必要になるのは発行された資産を売買し、清算し、最終決済する場所になる。株式や国債をオンチェーン化しても、取引と決済のインフラが従来市場のままであれば、ブロックチェーン化の効果は限定される。ATLASはその取引後処理まで同じ技術層へ取り込もうとしている。

今後の確認点は、DTCCやICEなどが検討段階から実際の利用へ進むのか、どの取引所や証券会社がInstitutional ATLASを採用するのか、トークン化証券が実際にZero上で決済されるのかだ。機関市場のオンチェーン化を決めるのはチェーン性能だけではない。取引所、マーケットメーカー、清算機関、証券保管機関が同じ基盤上で役割を分担できるかが重要になる。ATLASは、ブロックチェーン競争を資産発行の競争から市場インフラを誰が提供するかという競争へ押し広げる構想として見るべきだ。

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