Last Updated on 2026年8月2日 by oba3
サークル(Circle)は7月31日、子会社のサークル・インターネット・トラスト・カンパニー(Circle Internet Trust Company)が、ニューヨーク州金融サービス局(New York State Department of Financial Services・NYDFS)から限定目的信託会社の認可を取得したと発表した。同社はサークル・ニューヨーク・トラストの名称で事業を行う。今回の認可は、USDCが連邦制度だけで管理されるのではなく、州銀行法、既存のビットライセンス、連邦信託銀行を含む複数の監督層へ接続される動きとして見る必要がある。
何が起きたのか?
NYDFSは、サークル・インターネット・トラスト・カンパニーに限定目的信託会社の認可を付与した。NYDFSの登録事業者一覧でも、同社は2026年7月に認可された限定目的信託会社として掲載されている。
限定目的信託会社は、一般的な商業銀行と同じように預金口座を提供したり、融資を行ったりする銀行ではない。主に資産保管、信託、移転管理、決済関連など、認可された範囲の業務を行う金融機関であり、資本、内部統制、資産管理、サイバーセキュリティ、資金洗浄対策についてNYDFSの継続的な監督を受ける。
サークルは2015年に、NYDFSから仮想通貨事業者向け認可であるビットライセンスを取得している。今回の信託認可は、既存の事業許可を単に更新したものではなく、別法人を州銀行法上の信託会社として監督下へ置く手続きである。
同社は7月10日には、米通貨監督庁(Office of the Comptroller of the Currency・OCC)から、サークル・ナショナル・トラストを設立する最終承認も受けている。ニューヨーク州の信託会社と連邦認可の信託銀行は別の法人、別の監督制度であり、それぞれがどの資産と業務を担うかは今後の運営開示を確認する必要がある。
なぜ重要なのか?
米国ではステーブルコインの連邦制度が整備されても、州規制の役割が直ちに消えるわけではない。発行体の法人形態、顧客資産の保管、ニューヨーク州内での事業、サイバーセキュリティ、資金移動などには、州法に基づく監督が重なる場合がある。
今回の認可によって、USDCを取り巻く規制は一つの監督機関だけで完結しない構成となる。連邦レベルではステーブルコイン発行や信託銀行の規則が関係し、州レベルではNYDFSが信託会社の財務、統治、顧客保護、情報管理を確認する。さらに、資金洗浄対策や経済制裁では財務省系機関も関与する。
多層監督は、金融機関がUSDCを扱う際の信用確認をしやすくする一方、発行体へ高い参入費用を求める。認可申請だけでなく、法務、人員、監査、準備資産管理、サイバー防御、当局報告を継続的に整備できる企業でなければ、同じ制度構成を再現しにくい。
市場構造への影響
サークルは、USDCの発行、準備資産の管理、償還、機関向け保管、ブロックチェーン上の決済基盤を複数の法人と提携先で構成している。州信託会社が加わることで、どの法人がUSDC保有者に対する義務を負い、どの法人が資産を保管し、どの監督当局が問題発生時に介入するかを整理する必要がある。
重要なのは、認可の数が増えたこと自体ではない。USDCの発行負債、準備資産、顧客資産、機関向けカストディを別々の法人へ置く場合、倒産時の資産分離や契約上の請求先が明確になっているかが信用評価を左右する。
州信託会社には、一般的な事業会社より厳しい統治と検査が求められる。取締役会の監督、資本水準、顧客資産の分別、外部委託先の管理、事故報告などが継続的な検査対象となるため、USDCを導入する銀行や決済企業は、相手企業の自主的な説明だけでなく、規制法人としての管理体制を確認できる。
一方で、制度対応力の高い大手発行体へ信頼と取引量が集中する可能性もある。小規模なステーブルコイン事業者は、準備資産を保有するだけでなく、州と連邦の双方へ対応する固定費を負担しなければならず、市場参入や継続運営の難度が上がる。
資金・規制・流動性との関係
ステーブルコインの信用は、1トークンをおおむね1ドルで償還できることに依存する。そのため、発行体の名称よりも、準備資産がどこに置かれ、誰が管理し、償還請求が集中した際にどの法人が現金を用意するかが重要になる。
州信託認可が加われば、NYDFSは認可法人の資産、負債、内部統制、取引相手を監督できる。ただし、サークル・ニューヨーク・トラストがUSDC準備資産の全額を直接保有することや、すべての発行と償還を単独で担うことが今回の発表だけで確定したわけではない。
サークルは連邦信託銀行の設立も進めているため、今後は州法人と連邦法人の役割分担が焦点になる。州法人がニューヨークでの信託、保管、決済業務を担い、連邦法人が全国規模の準備管理や機関向けサービスを担う構成も考えられるが、実際の資産移管や契約関係は追加開示を待つ必要がある。
監督主体が増えることは安全性を自動的に保証しない。複数機関の規則が重複すれば、同じ準備資産や取引について異なる報告が必要になり、運営費用が増える。反対に、州と連邦の役割が明確に分かれれば、監視の空白を減らしながら、USDCを銀行決済や証券清算へ接続しやすくなる。
初心者向け補足
信託認可は、一般企業が銀行と同じ事業をすべて行える資格ではない。限定目的信託会社は、認められた資産保管や信託業務などに範囲を絞って運営され、通常の預金受け入れや貸し出しを行う商業銀行とは異なる。
ビットライセンスは、ニューヨーク州で暗号資産の交換、保管、送金などを行うための事業認可である。限定目的信託会社は州銀行法に基づく金融機関として認可されるため、事業許可だけでなく、組織や財務を含む監督を受ける点に違いがある。
また、州認可と連邦認可のどちらか一方が常に上位というわけではない。対象業務と法的根拠が異なり、同じ企業グループが両方の法人を持つ場合もある。利用者にとって重要なのは、実際に契約する法人と資産を保管する法人を確認することである。
Web3Timesの視点
今回の認可を、サークルが政府から一つのお墨付きを得たという話だけで捉えるべきではない。USDCの制度基盤が、州の仮想通貨事業認可、州信託会社、連邦信託銀行という複数の層へ分かれ始めたことが本質である。
この構成は、問題が発生した際に複数の当局が監督できる強みを持つ。一方、発行、準備保管、償還、機関カストディが異なる法人へ分かれれば、利用者や取引先から見た責任関係は複雑になる。認可数ではなく、どの法人がどの負債を負うかを確認しなければならない。
今後見るべきなのは、サークル・ニューヨーク・トラストが具体的に開始する業務、USDC準備資産の移管範囲、サークル・ナショナル・トラストとの分担、既存のビットライセンス法人との契約変更である。NYDFSによる検査結果や追加条件が開示されるかも重要になる。
州認可を含む多層監督が標準となれば、ステーブルコイン市場では技術や利便性だけでなく、複数の規制法人を維持できる資本力と管理能力が競争条件になる。サークルの認可取得はUSDCへの監督を厚くする一方、新規発行体が同じ水準へ到達するための費用を引き上げる。結果として、規制準拠型ステーブルコイン市場が少数の大手企業へ集約されるか、それとも州制度を使った新規参入が続くかが次の焦点となる。
