シティとコインベースが企業向けステーブルコイン決済を拡大、銀行口座とオンチェーン決済レールを一体化

Last Updated on 2026年9月29日 by oba3

シティ(Citi)とコインベース(Coinbase)は9月28日、企業向けのステーブルコイン決済基盤を拡大した。今回の連携では、シティの法人・機関顧客がステーブルコインを自社で直接保有・管理しなくても決済を受け付けられる仕組みと、コインベース側の顧客が銀行口座に近い形で法定通貨とステーブルコインを行き来できる仕組みが追加された。

重要なのは、企業に暗号資産保有を求める構造ではないことだ。顧客側では従来の銀行口座や決済サービスを利用しながら、裏側でステーブルコインを資金移動レールとして使う。銀行と暗号資産プラットフォームが役割を分担することで、企業がブロックチェーンを意識せずオンチェーン決済へ接続できる経路が作られ始めている。

目次

何が起きたのか?

今回の連携では大きく二つの機能が示された。一つは、コインベースがシティのバーチャル・アカウント・ウォレット(Virtual Account Wallet)を利用し、企業向けのコインベース・バーチャル・アカウント(Coinbase Virtual Accounts)を提供する仕組みだ。

企業はこの口座を通じて法定通貨を受け取り、保有し、支払いに利用できる。入金された法定通貨は自動的にステーブルコインへ変換できるため、別途銀行システムと暗号資産システムをつなぐ資金管理フローを企業自身が構築する必要を減らせる。

もう一つは、シティの決済プラットフォームであるスプリング・バイ・シティ(Spring by Citi)とコインベースの決済基盤を接続する仕組みだ。シティの法人・機関顧客は顧客からステーブルコインで支払いを受け付けても、自社でステーブルコインを保有したり秘密鍵を管理したりする必要がない。

コインベース側がステーブルコイン決済を処理して法定通貨へ変換し、最終的にはシティが銀行として企業へ資金を決済する。まず米国で提供を開始し、その後さらに機能を追加する方針が示されている。

両社の協力自体は今回が初めてではない。2025年10月には、コインベースへの法定通貨入出金や決済オーケストレーションを中心とする提携を発表していた。今回の拡張では、その接続が企業によるステーブルコイン受け入れとバーチャル口座まで広がった。

なぜ重要なのか?

ステーブルコイン決済の導入では、企業がブロックチェーンを利用できるかだけでなく、その資産を誰が保管し、法定通貨へ変換し、会計上どのように扱うかが問題になる。大企業ほど既存の銀行口座、資金管理、コンプライアンスを大きく変更するコストは高い。

今回の設計では、この問題を銀行と暗号資産インフラ企業の分業によって解こうとしている。企業はシティとの銀行関係を維持し、コインベースがオンチェーン部分を担当する。利用者が意識するサービスは従来型の決済でも、資金移動の途中ではステーブルコインを利用できる。

これはステーブルコイン普及の条件を変える可能性がある。企業自身がウォレットを導入し、暗号資産を保有しなければ利用できないのであれば対象は限られる。しかし既存銀行サービスの中へ組み込まれれば、ステーブルコインは企業が直接保有する新商品ではなく、決済処理を高速化する裏側のインフラとして普及する経路が生まれる。

市場構造への影響

従来の企業決済では、銀行口座から銀行ネットワークを経由して資金を移動する。一方、ステーブルコインではブロックチェーン上で24時間資金を移転できるが、銀行システムとの接続には法定通貨との交換やカストディーが必要になる。

シティとコインベースの仕組みは、この二つを一つのサービス経路へまとめる。企業は銀行口座を捨てる必要がなく、暗号資産専用の資金管理部門を作る必要もない。銀行側も、自らすべてのブロックチェーンインフラを構築せず、既存の決済サービスへステーブルコイン機能を追加できる。

この構造が広がれば、競争はステーブルコイン発行会社だけのものではなくなる。銀行、決済会社、暗号資産取引所、カストディアンが、誰が企業と接点を持ち、誰がオンチェーン処理を担い、誰が最終的な法定通貨決済を行うかという役割分担を巡って競うことになる。

特に銀行側が顧客接点を維持したままステーブルコインレールを利用できれば、企業が既存金融から暗号資産サービスへ全面的に移る必要はなくなる。Web3企業が銀行を置き換えるという構図ではなく、銀行自身が外部の暗号インフラを取り込みながら決済網を拡張する形だ。

資金・規制・流動性との関係

企業決済では、決済速度だけでなく資金管理が重要になる。国際取引では営業時間や銀行間決済の都合で資金が途中に滞留することがあり、企業はそのための運転資金を複数口座へ配置する場合がある。

ステーブルコインを中間レールとして利用すれば、銀行営業時間とは異なる時間帯でも資金を移動できる余地が生まれる。ただし最終的な企業口座への法定通貨決済や銀行側のコンプライアンスは既存金融制度の中で行われるため、すべての処理が完全にオンチェーン化されるわけではない。

今回の構造では、コインベースがデジタル資産側の処理を担い、シティが規制された銀行インフラと法定通貨決済を担当する。企業が直接ステーブルコインを保有しないことで、秘密鍵管理やデジタル資産カストディーを自社業務へ追加しなくても利用できる点が大きい。

シティはすでに独自のトークン化預金サービスや24時間決済、Swiftの共有台帳を利用した実証も進めている。そのため今回のコインベース連携は、ステーブルコインだけに依存する戦略ではなく、複数のデジタルマネーと決済ネットワークを接続する取り組みの一部として見る必要がある。

初心者向け補足

今回の仕組みでは、企業が必ずUSDCなどのステーブルコインを自社のウォレットへ保有するわけではない。たとえば顧客がステーブルコインで支払っても、コインベースが途中で法定通貨へ変換し、企業側にはシティを通じて通常の資金として決済できる。

逆方向では、企業が受け取った法定通貨を自動的にステーブルコインへ変換し、その後の資金移動に利用する仕組みも用意される。銀行口座とブロックチェーンの間に自動変換レイヤーを置くイメージに近い。

そのため今回の発表を、シティが独自ステーブルコインを新たに発行したと理解するのは正確ではない。シティは銀行口座と法定通貨決済を担当し、コインベースがステーブルコインとブロックチェーン側の技術を提供する。

また、企業がステーブルコインを直接保有しない場合でも、裏側でブロックチェーンが使われていれば決済インフラとしての利用は広がる。一般利用者がインターネット通信の技術を意識せずアプリを使うのと同様に、将来的にはステーブルコインを意識しない利用形態が増える可能性がある。

Web3Timesの視点

今回のニュースを「シティが暗号資産へ参入した」とだけ読むと、変化の中心を見落とす。より重要なのは、企業が暗号資産を保有することなく、銀行サービスの内部からステーブルコインの決済レールへ接続できるようになったことだ。

ステーブルコイン普及では、企業がウォレットを持つ数だけを見る必要はない。銀行や決済サービスの裏側へ組み込まれれば、利用企業は暗号資産を意識しなくてもオンチェーン決済の速度や24時間稼働という特徴を利用できる。

このモデルでは、銀行と暗号資産企業は必ずしも競合しない。銀行は顧客関係、法定通貨口座、コンプライアンス、最終決済を担い、暗号資産企業はウォレット、ステーブルコイン変換、ブロックチェーン接続を提供する。それぞれの既存基盤を残したまま、決済経路だけを接続できる。

今後見るべきなのは、企業がステーブルコインを何枚保有するかではない。銀行口座からステーブルコインレールへ資金を移し、国境や営業時間をまたいで処理した後、再び法定通貨として企業口座へ戻す一連の流れが、どこまで自動化されるかである。

この接続が拡大すれば、オンチェーン決済は既存銀行システムの外側に作られる別市場ではなくなる。企業には従来型の銀行サービスとして見えながら、その下でステーブルコインが動く構造が広がれば、Web3決済の普及は暗号資産保有者を増やす形ではなく、既存金融インフラの内部から進む可能性がある。

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