ESMAが予測市場のEU無認可提供とインサイダー取引リスクを警告、越境アクセスを認可制度と市場公正性から管理する論点が浮上

Last Updated on 2026年9月12日 by oba3

欧州証券市場監督機構(European Securities and Markets Authority・ESMA)が、ポリマーケット(Polymarket)やカルシ(Kalshi)など主要な予測市場について、EUでイベント契約を販売するために一般的に必要となる認可を現時点で保有していないと指摘した。さらに、分散型台帳を利用する予測市場では匿名性や複数アカウントの利用によってインサイダー取引や相場操縦を検知しにくいとの懸念も示した。重要なのは予測市場の精度が高いか低いかではない。結果を事前に知り得る人物が取引できる市場を、どの規制制度へ入れ、誰が監視するのかという市場公正性の問題がEUでも具体化している。

目次

何が起きたのか?

ESMAは2026年9月10日に公表した市場リスク報告書で、予測市場を証券市場の観点から詳しく分析した。報告書では、ポリマーケットとカルシを主要事業者として挙げ、EUでの利用は米国ほど広がっていないものの、世界的な取引量の増加と伝統的金融との接続拡大を受け、継続的な監視が必要だとした。

ESMAによれば、イベント契約の法的な扱いは商品の構造によって異なる。金融商品市場指令(MiFID II)の金融商品に該当する場合もあれば、分散型台帳上の商品で金融商品に当たらなければ暗号資産市場規則(MiCA)の対象となる可能性があり、さらに各国の賭博法が適用されるケースもある。

その結果、EUでイベント契約を販売・宣伝するには通常何らかの認可が必要になるが、ESMAは最大手の予測市場プラットフォームが必要なEU認可を現在保有していないと指摘した。金融商品に分類される契約は通常デリバティブとして扱われ、バイナリーオプションに関する各国の規制措置によって個人向け販売が禁止される場合もある。

ポリマーケットとカルシは一部のEU加盟国からの注文を制限しているが、ESMAはなぜすべての加盟国を対象にしていないのか疑問を示した。VPNを利用すれば地理的制限を回避できるため、実際のアクセス制限がどこまで機能するかも不透明としている。

なぜ重要なのか?

予測市場では、将来の出来事について他の参加者より早く正確な情報を持つ人ほど有利になる。これは通常の市場分析による情報優位だけでなく、企業内部、政府、軍、イベント運営者などしか知り得ない未公開情報を利用するインサイダー取引へつながる可能性がある。

ESMAは特に分散型台帳型の市場について、本人確認が限定的で、参加者が複数の匿名アカウントを使える場合、同一人物による取引や協調的な相場操縦を検知しにくいと指摘した。

実際、予測市場では軍事作戦や企業情報などを巡り、内部情報を利用した疑いのある取引が問題化している。プラットフォーム側も不審取引の監視やアカウント凍結を行っているが、ESMAはこうした措置が事件発生後の対応になりやすいとの見方を示している。

市場構造への影響

ここで難しいのは、すべての予測市場を同じ法律で監督できないことだ。株価や経済指標を対象とする契約なら金融デリバティブに近い一方、選挙、スポーツ、戦争などを対象とすれば賭博規制との境界が問題になる。ブロックチェーン上で発行される場合にはMiCAが関係する可能性もある。

この分類によって、インサイダー取引規制を適用できる範囲も変わる。EUの市場濫用規則による監視は、契約が金融規制の対象となる場合には利用できるが、その外側にある商品へ同じ制度をそのまま適用できるとは限らない。

つまり問題は不正取引を禁止するかだけではない。どの契約を金融商品として認可し、どの市場監視制度へ接続するかを先に決めなければ、監督機関が持つ調査権限そのものが変わる。

資金・規制・流動性との関係

EUで認可要件の運用が厳格になれば、海外の予測市場が欧州利用者へ商品を提供する方法にも影響する。特定国だけを対象としたアクセス制限では不十分と判断されれば、EU全域を対象とした地理的制限や、認可を取得した現地法人を通じた提供などが必要になる可能性がある。

一方、認可制度へ入れば本人確認、取引監視、疑わしい取引の検知、利用者保護などを制度的に要求しやすくなる。これは事業者にとってコスト増になるが、機関投資家や伝統的な金融事業者が参加する条件を整える面もある。

現時点で予測市場のEU内規模は限定的だとESMA自身が評価している。そのため今回の報告は直ちに全面禁止を求めるものではなく、市場拡大前に認可と監視の空白を確認している段階と見る必要がある。

初心者向け補足

予測市場では、ある出来事が起きるかどうかを表す契約を売買する。例えば選挙結果や政策金利、企業業績などについて価格が付けられ、その価格が市場参加者の予想確率として利用されることがある。

しかし価格が予測として役立つことと、公正な市場であることは別の問題だ。結果を事前に知っている人が取引すれば、その人は予測しているのではなく内部情報を収益化していることになる。

またポリマーケットやカルシが一部のEU利用者を制限しているからといって、EU全体で正式な認可を受けていることにはならない。どの国から利用できるかと、金融・暗号資産・賭博のどの制度で営業許可を持つかは分けて確認する必要がある。

Web3Timesの視点

今回を見るうえで、予測市場の価格が選挙や経済指標をどれだけ正確に当てるかを中心に置く必要はない。市場として長期的に成立するには、情報を持っている人が参加できることと、未公開情報を不当に利用することの境界を制度として定義する必要がある。

分散型台帳は取引履歴を公開できる一方、ウォレットの背後にいる人物が分からなければ市場監視には限界がある。複数アカウントや越境アクセスまで加われば、公開台帳であることだけではインサイダー取引を防げない。

今後見るべきなのはポリマーケットやカルシのEU取引量だけではない。どのイベント契約がMiFID II、MiCA、各国賭博法のどこへ分類されるのか、EU全域でどの認可が必要になるのか、本人確認と市場監視をどこまで義務化するのかが重要になる。

予測市場が金融インフラへ近づくほど、競争条件は豊富なイベントを提供できるかだけでは決まらなくなる。内部情報を持つ参加者をどう監視し、不公正取引を誰が調査し、越境サービスをどの認可の下で提供するのか。ESMAの警告は、予測市場が情報集約ツールから規制された市場へ進む際に、市場公正性そのものが主要なインフラ要件になることを示している。

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