英国FCAがトークン化金のファンド規制除外を含む専用制度を検討、ロンドン金市場が担保と決済機能をデジタル基盤へ移す条件を探る

Last Updated on 2026年9月15日 by oba3

英国の金融行動監視機構(Financial Conduct Authority・FCA)が、現物金の所有権をデジタルトークンで表すトークン化金について、既存の集団投資スキームやオルタナティブ投資ファンド規制から一部商品を除外する制度を検討し始めた。9月14日に公表した意見募集では、単純な規制緩和を決めたわけではなく、直接的な金所有権を表す商品までファンドとして扱うことが市場形成の障害になっていないかを調査する。焦点は金をブロックチェーンで売買できるようにすることだけではない。世界最大級の現物金取引拠点であるロンドンが、金を卸売市場の担保や決済資産として使う機能をトークン化後も維持できるかという金融インフラ戦略にある。

目次

何が起きたのか?

FCAは2026年9月14日、「英国卸売市場におけるトークン化金の機会とリスク」と題する意見募集を開始した。回答期限は10月23日で、金をトークン化した場合の取引、移転、担保差し入れ、保管をどのように効率化できるかについて市場参加者から意見を求めている。

特に問題になっているのが、集団投資スキーム(Collective Investment Scheme・CIS)とオルタナティブ投資ファンド(Alternative Investment Fund・AIF)の規制境界だ。英国のCIS定義は広く、金そのものの所有権を表すトークンであっても、商品設計によってはファンドとして分類され、追加の認可、販売、開示、監督要件が発生する可能性がある。

FCAは意見募集の第5章で、一定のトークン化金をCISやAIFの対象から明示的に除外する限定的な制度を財務省と検討する選択肢を示した。また、権利、保管、償還、ガバナンス、技術などの客観的条件を満たす「適格金トークン」の分類や、トークン化金専用の制度を設ける案も検討対象としている。

ただし除外はまだ決定していない。FCAはガイダンスによる既存規則の明確化、限定的な法改正、専用制度など複数案を並べており、今回の意見募集を踏まえて将来の政策を決める段階にある。

なぜ重要なのか?

規制分類は、トークン化金を単なる投資商品として販売できるかだけでなく、金融機関が担保として利用できるかにも影響する。FCAは、同じ金でも「金そのもの」と「ファンドの持分」では健全性規制上の扱いや担保としての交換可能性が変わり得ると明記している。

例えば、投資家が保管庫にある特定の割当済み金地金を直接所有し、その所有権をトークンが表す場合、FCAは既存のCISやAIF定義の外側に位置する可能性が高いとしている。一方、一つの金地金を複数人で保有し、資産全体を共同管理する設計では、資金をプールするファンドに近づくため規制対象となる可能性が高まる。

つまり「金をトークン化した」という技術だけでは規制は決まらない。トークン保有者が現物金に対してどのような所有権を持ち、誰が保管し、どのように償還できるかという法的構造が市場での利用範囲を左右する。

市場構造への影響

ロンドンの店頭金市場では現在、割当済み金と非割当金が異なる役割を持つ。割当済み金は特定の金地金について所有権が明確な反面、移動や担保利用に手間とコストがかかる。非割当金は口座上で容易に移転できるが、金そのものではなく口座提供者への請求権となるため、相手方信用リスクを伴う。

FCAが想定するトークン化金は、この二つの弱点を同時に改善できる可能性がある。現物金への明確な所有権を維持しながら、デジタル台帳上で高速に移転できれば、証券貸借、レポ取引、デリバティブ取引などの担保として金を動かしやすくなる。

さらに現在の店頭金取引では金と現金が別々のシステムで決済されるため、タイミングのずれや照合作業が発生する。トークン化金とトークン化されたドルなどを同時交換するDvP型の決済が実現すれば、金の受け渡しと支払いを一つの取引として完結させる余地が生まれる。

ここで求められるのは新しい金トークンを発行することより、保管庫の記録、ブロックチェーン上の所有記録、取引所、清算、担保管理システムを相互接続することだ。

資金・規制・流動性との関係

英国では金はすでに中央清算機関が一定条件の下で高流動性担保として受け入れられる資産の一つである。イングランド銀行(Bank of England)もFCAと共同で、トークン化された資産を既存の卸売市場や担保制度へどう接続するかを2026年から検討している。

ただし、現物金が担保として認められているからといって、そのトークン版が自動的に同じ扱いを受けるわけではない。トークン保有者の法的所有権、発行者破綻時の扱い、担保権者が金を換価できるか、オンチェーン移転のどの時点で決済が確定するかなどを明確にする必要がある。

FCAは専用制度を設ける場合でも、現物金の保管と分別管理、発行と償還、オンチェーン記録との照合、独立監査、価格評価、サイバー対策、破綻処理などの保護策が必要としている。ファンド規制から外すことが、規制そのものをなくすことではない。

制度が整理されれば、金融機関が保有する金を一日の途中でも担保として移動させたり、複数の市場で共通担保として利用したりする余地が広がる。一方、発行者ごとに異なるトークン規格が乱立すれば、担保が複数の流動性プールへ分断されるため、共通規格と相互運用性も重要になる。

初心者向け補足

トークン化金とは、保管庫にある現物金への権利をブロックチェーンなどのデジタル台帳上のトークンとして表す仕組みだ。ただし、すべての金トークンが同じ権利を持つわけではない。

特定の金地金を直接所有する商品もあれば、複数の金をまとめた資産プールへの持分を持つ商品もある。後者は投資ファンドに近い性質を持つため、FCAが問題にしているCISやAIF規制へ入りやすくなる。

今回FCAが検討しているのは、こうした違いを無視してトークン化金を一律にファンド規制から外すことではない。直接的な所有権、確実な現物裏付け、償還、保管など一定の条件を満たす商品について、より適切な専用ルールが必要かを調べている。

Web3Timesの視点

今回を「英国が金をデジタル化する」というニュースだけで捉えると、ロンドンが守ろうとしているものが見えにくい。FCA自身が意見募集で強調しているのは、ロンドンが世界最大の現物金取引拠点として築いてきた保管、ディーラー、清算、投資家のネットワークを、次世代のデジタル市場へ接続することだ。

現在の金市場には、所有権が強いが動かしにくい割当済み金と、動かしやすいが相手方信用リスクを持つ非割当金という構造的なトレードオフがある。トークン化が価値を持つのは、現物所有の確実性を維持したまま、担保移動と決済をデジタル化できる場合だ。

今後の焦点は、FCAと財務省がどの商品をCIS・AIF規制から除外するのか、適格金トークンにどの所有権・保管・償還基準を求めるのか、そして清算機関や金融機関が実際にそのトークンを担保として受け入れるかに移る。

ロンドンにとってトークン化金は、新しい暗号資産市場を作るためだけの政策ではない。既存の金市場が持つ世界的な保管・取引機能を、24時間動くトークン化証券やデジタル決済の世界でも利用できるようにする試みだ。専用制度が整えば、RWA化の中心は「金を発行すること」から「金を決済と担保としてどれだけ速く動かせるか」へ変わっていく。

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