Last Updated on 2026年9月16日 by oba3
米上院は2026年9月15日、デジタル資産市場明確化法案(Digital Asset Market Clarity Act・CLARITY Act)の審議入りに向けたクローチャー動議を49対50で否決した。必要だったのは上院の5分の3に当たる60票で、賛成は11票届かなかった。今回否決されたのは法案そのものの最終採決ではなく、H.R.3633の審議へ進むための手続きを打ち切って前進させる動議だ。したがって法案が永久に廃案になったわけではないが、米証券取引委員会(Securities and Exchange Commission・SEC)と米商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission・CFTC)の暗号資産監督権限を議会制定法として整理する工程は、少なくとも現時点で止まった。
何が起きたのか?
米上院の公式記録によると、9月15日午後2時19分に行われた投票は「H.R.3633への審議入り動議に対するクローチャー」が対象だった。結果は賛成49、反対50、欠席1で、必要な60票に達せず否決された。
共和党議員ではスーザン・コリンズ(Susan Collins)、ジョシュ・ホーリー(Josh Hawley)、ジェリー・モラン(Jerry Moran)の3氏が反対した。トム・ティリス(Thom Tillis)氏も反対票を投じたが、報道によると将来の再考手続きを可能にするための手続き上の投票だった。民主党から賛成票はなく、クリス・クーンズ(Chris Coons)氏は投票しなかった。
CLARITY法案は2025年7月に下院を294対134で通過している。その後、上院では倫理規定、ステーブルコイン報酬、DeFi開発者の扱い、銀行預金への影響などを巡って修正交渉が続き、9月の最終局面では民主党側から求められた多数の変更を反映した新しい草案も提示された。
それでも今回のクローチャーに必要な超党派支持は形成されなかった。最終採決へ進む以前に、上院本会議で法案を正式に審議するための手続き段階で止まった形になる。
なぜ重要なのか?
今回の49対50を「CLARITY法案が最終否決された」と理解すると制度上の位置付けを誤る。上院が否決したのは法案の成立そのものではなく、審議入りを前進させるためのクローチャーだ。
一方で、60票を確保できなかった意味は小さくない。CLARITY法案の中心には、どのデジタル資産や取引をSECが監督し、どのデジタル商品や現物市場をCFTCが監督するのかを連邦法で整理する構想がある。その本格的な法案審議へ入れなかったため、包括的な管轄整理は成立前の状態に残った。
下院ではすでに超党派で可決されていたが、上院では単純過半数だけでは前進できなかった。暗号資産の制度設計を恒久法にするには、監督権限だけでなく、公職者の倫理、銀行預金、ステーブルコイン、DeFiなど複数の論点について60票を形成できる合意が必要であることが改めて示された。
市場構造への影響
法案が止まっても、米国の暗号資産市場から監督機関がなくなるわけではない。SECとCFTCはそれぞれ既存法に基づく規則制定、登録制度、監督、執行を続けることができる。
ただし議会制定法と行政機関の規則には違いがある。法律でSECとCFTCの境界を明示すれば、取引所、ブローカー、銀行、資産運用会社は長期的な事業設計をその法的区分に合わせやすくなる。一方、行政機関の規則や解釈を中心に制度を構築する場合、委員長や政権の交代、裁判所の判断によって運用が変更される余地が残る。
そのため今回止まったのは暗号資産規制全体ではなく、監督区分を議会の法律として固定する工程だ。市場参加者は引き続きSECとCFTCの個別規則を追いながら事業を設計する状況が続く。
資金・規制・流動性との関係
上院で合意を阻んだ論点は、SECとCFTCのどちらが暗号資産を監督するかだけではなかった。民主党側からは公職者と暗号資産事業の利益相反を巡る倫理規定への懸念が示され、銀行業界はステーブルコイン報酬によって地域銀行から預金が流出する可能性を問題視していた。
最終局面の草案では、公職者への倫理規定や、地域銀行に重大な預金流出が生じた場合のステーブルコイン報酬への介入制度などが追加された。それでも60票には届かなかったことから、個別条項を修正するだけでは成立連合を作れなかったことになる。
今後、法案を再び前進させる場合には、どの条項を修正すれば反対議員が賛成へ移るのかを改めて交渉する必要がある。ティリス氏の手続き上の反対票によって再考の余地は残されたと報じられているが、再投票の日程や新たな合意は現時点で確定していない。
初心者向け補足
クローチャーとは、上院で議事妨害を終わらせ、法案や動議の審議を前へ進めるための手続きだ。今回の場合、H.R.3633の審議入り動議についてクローチャーを成立させるには60票が必要だった。
49対50という数字だけを見ると1票差のように見えるが、必要だったのは過半数の51票ではなく60票だった。そのため賛成側は実際には11票不足していた。
また下院が2025年にCLARITY法案を可決していても、上院が同じ内容を承認しなければ法律にはならない。上院で修正された法案が可決された場合には、最終的に上下両院が同一の法案文を承認し、大統領の署名を経る必要がある。
Web3Timesの視点
今回の投票はCLARITY法案に対する最終的な賛否を決めたものではない。より重要なのは、米国が暗号資産市場の恒久的な監督制度を作る議会プロセスが、法案内容の最終採決より前の60票形成で止まったことだ。
ここから確認すべきなのはビットコインの短期的な価格反応ではない。上院指導部が再考手続きを使うのか、倫理規定やステーブルコイン報酬などの争点で追加修正が行われるのか、そして再び60票を形成できる超党派案が作られるのかが制度面では重要になる。
その間もSECとCFTCは既存の権限でルール形成を続ける。したがって米国の暗号資産制度が停止するわけではないが、議会による恒久的な管轄整理と、行政機関による個別規則の間には差が残る。
今回の49対50は、包括的な暗号資産法そのものへの最終判定ではなく、SECとCFTCの役割を政権交代に左右されにくい連邦法として固定するための政治的合意がまだ不足していることを示す投票だった。次に見るべきなのは成立予想ではなく、どの争点を解けば再び審議入りに必要な60票へ到達できるのかという議会プロセスになる。
