Last Updated on 2026年8月31日 by oba3
合成ドルUSDeを運営するエセナ(Ethena)が、トークン化株式と株式永久先物を組み合わせたベーシストレードをUSDeの運用へ取り込む構想を示した。これまでUSDeはビットコイン(Bitcoin)やイーサリアム(Ethereum)などの資産を保有しながら同額程度の永久先物をショートすることで価格変動を抑え、主に資金調達率から収益を得てきた。今回の構想では同じ考え方を株式市場へ広げる。焦点は利回りが何%になるかではない。USDeを支える収益源が暗号資産市場のレバレッジ需要だけに依存せず、株式デリバティブという別の市場へ分散できるかにある。
何が起きたのか?
エセナのリスク委員会向けにカイロス・リサーチ(Kairos Research)が2026年8月28日、トークン化株式ベーシストレードを導入するための承認枠組みを公開した。基本構造は、同じ銘柄のトークン化株式を買い、その銘柄に連動する永久先物を同一取引所でショートするものだ。株価の方向性をできるだけ相殺しながら、ロング側の参加者が支払う資金調達率を収益として受け取る。
現物側にはバイナンス(Binance)のbStocksや、バックド・アセッツ(Backed Assets)が発行するxStocksなどを想定する。永久先物については、14日平均で片側2500万ドル以上の建玉があり、少なくとも30日間の資金調達率履歴が存在することなどを採用条件として提案した。
8月26日時点のデータを基にすると、この条件を満たす銘柄はバイナンスで17、OKXで3だった。リスク委員会向け文書は導入枠組みを推奨する段階であり、すべての対象銘柄へ直ちに大規模なUSDe資金が投入されたわけではない。エセナは最初の取引所パートナーと具体的な展開を今後発表する方針を示している。
なぜ重要なのか?
USDeの従来モデルでは、暗号資産の現物や担保を持ちながら永久先物をショートし、価格方向へのエクスポージャーを抑える。そのうえで永久先物市場のロング側から支払われる資金調達率などを収益源として利用する。
問題は、この収益が暗号資産市場の相場環境に左右されることだ。エセナのデータではビットコイン永久先物の資金調達率は2024年平均11%、2025年4.9%から、2026年8月11日まででは2.2%へ低下した。一方、株式永久先物では一定期間の平均がハイパーリキッド(Hyperliquid)で約14%、バイナンスで約17.5%となった。
株式永久先物の建玉も3月の10億ドル未満から8月には約62億ドルへ拡大した。エセナにとっては、ヘッジ取引を成立させられる市場規模がようやく大きくなってきたことが今回の構想を支える。
市場構造への影響
重要なのは株式永久先物の資金調達率が高いことだけではない。エセナによると、株式永久先物の資金調達率とビットコインの資金調達率には強い相関が確認されていない。暗号資産市場が低迷して資金調達率が縮小しても、株式市場側で異なるレバレッジ需要が存在すれば、別の収益源を確保できる可能性がある。
エセナは今後12カ月から24カ月で、RWA関連の永久先物がUSDeのベーシス運用において暗号資産デリバティブを上回る可能性まで想定している。ただしこれは将来予測であり、実際の配分は株式永久先物の流動性や資金調達率、トークン化株式の安全性によって変わる。
合成ドルの裏側が単一の暗号資産市場から、株式、商品、機関融資など複数の信用・デリバティブ市場へ広がれば、USDeは暗号資産のベーシストレードを商品化した仕組みから、複数市場の収益を集約する運用基盤へ性格を変えていく。
資金・規制・流動性との関係
株式を使うことで新しいリスクも加わる。米国株の現物市場は週末や夜間に閉まる一方、永久先物は継続して取引される。この時間帯に価格が大きく動けば、ショート側が清算されてもトークン化株式を十分な流動性で売却できない可能性がある。
そこで提案では、永久先物の建玉に対するポジション比率、トークン流通量、注文板の厚み、日次出来高などから上限を設定する。週末には追加証拠金を持つことや、決算発表前にエクスポージャーを縮小することも推奨した。
さらにトークン化株式には発行体やカストディアン、企業行動、配当処理という別の信用リスクがある。USDeの収益源を分散することは、リスクそのものを消すのではなく、暗号資産特有のリスクを株式市場やトークン発行体に関するリスクと組み合わせることでもある。
初心者向け補足
永久先物の資金調達率とは、先物価格を現物価格へ近づけるため、ロングとショートの間で定期的に支払われる料金だ。ロング需要が強い市場では、一般にロング側からショート側へ支払いが発生しやすい。
エセナが検討する方式では、例えばある株式に連動するトークンを100相当保有し、同じ銘柄の永久先物を100相当ショートする。株価が上昇すれば現物側が利益となる一方でショート側が損失となり、価格方向の影響を相殺する。その状態で資金調達率を受け取るのが基本的な考え方だ。
Web3Timesの視点
今回見るべきなのは、株式永久先物の方がビットコインより高い収益を得られるという短期的な比較ではない。USDeの設計にとって重要なのは、合成ドルを支える収益源を暗号資産市場の一つの循環から切り離せるかだ。
暗号資産の強気相場では永久先物のロング需要が増え、資金調達率も上昇しやすい。しかしその需要が弱くなればUSDeの収益環境も悪化する。株式、商品、機関向け信用など別の市場へヘッジ運用を広げれば、それぞれ異なる経済活動から収益を得る構造を作れる。
今後注目すべきなのはUSDeの表示利回りではない。実際にどの取引所と銘柄へ資金を配分するのか、株式市場が閉まっている時間帯の清算リスクをどう管理するのか、トークン化株式の法的・保管上のリスクをどこまで抑えられるのかが重要になる。合成ドルの競争が暗号資産の資金調達率を集める市場から、世界の株式や信用市場の収益をオンチェーンへ取り込む市場へ広がるかを示す構想として見るべきだ。
