Last Updated on 2026年9月6日 by oba3
韓国銀行(Bank of Korea)が、ドル建てステーブルコイン市場と外国為替市場の連動を分析した研究を公表した。研究では、現地通貨でドルステーブルコインを直接売買できる市場にグローバルな流動性供給者が参加すると、ステーブルコインへの買い需要が現地通貨売りとドル買いを伴う外国為替取引へ伝わり、通貨安につながる経路が確認された。重要なのはステーブルコイン決済が普及するかどうかではない。暗号市場で生じたドル需要を誰が受け止め、そのポジションを外国為替市場でどのようにヘッジするかによって、デジタル資産市場が国内通貨へ影響する経路が形成される点だ。
何が起きたのか?
韓国銀行は2026年9月3日、ドル建てステーブルコインと外国為替市場の連動を分析したBOKイシューノートを公表した。国際局のキム・ジヒョン氏とチョ・サンフム氏が、グローバル取引所バイナンス(Binance)で特定の法定通貨とドルステーブルコインの直接取引ペアが追加された前後を比較した。
研究が着目したのは、法定通貨とステーブルコインを直接交換できることだけではない。バイナンスでは、ステーブルコイン市場と外国為替市場の双方へアクセスできるグローバルな流動性供給者が取引相手として参加できる。この市場参加者が、投資家へドルステーブルコインを売った後に受け取った現地通貨を外国為替市場で処理することで、二つの市場がつながる。
分析では、こうした直接取引ペアが導入された後、現地市場におけるドルステーブルコインのプレミアムが縮小し、ローカル市場のプレミアムが高い場合にはバイナンスから現地市場へステーブルコインが流入する傾向が確認された。
さらに重要なのが為替への波及だ。直接取引ペアの導入前はステーブルコインのプレミアムと対ドル為替レートの関係は限定的だったが、導入後はステーブルコイン需要の高まりが現地通貨の下落と有意に結び付いた。買い手主導の注文フローについても、需要圧力が強いほど対象通貨が対ドルで下落する関係が示された。
なぜ重要なのか?
ドルステーブルコインはブロックチェーン上の資産だが、現地通貨で購入する行為は経済的にはドル建て資産を買う行為に近い。そこで問題になるのが、取引を受けたマーケットメーカーが現地通貨のポジションをどう処理するかだ。
例えば投資家が自国通貨を使ってUSDTなどを購入すると、取引相手は自国通貨を受け取る。グローバルなマーケットメーカーがその通貨リスクを抱えたくなければ、外国為替市場で現地通貨を売り、ドルなどへ交換してポジションを調整できる。このヘッジが積み重なると、暗号市場で生じたステーブルコイン需要が実際の現地通貨売りとして外国為替市場へ現れる。
つまりステーブルコイン需要が為替へ影響するかどうかは、トークンの発行量だけでは決まらない。現地通貨との取引ペア、取引相手の種類、外国為替市場へのアクセスという市場設計が重要になる。
市場構造への影響
今回の研究が示したのは、暗号資産市場と外国為替市場の間に自動的な壁があるわけではないということだ。両市場をまたいで取引できる仲介者が入ると、一方の需要ショックをもう一方へ運ぶ経路が生まれる。
韓国については注意が必要だ。現在バイナンスにはウォンとドルステーブルコインの同様の直接取引ペアがなく、韓国銀行の分析でも、ウォン市場ではステーブルコインの買い圧力は主に国内価格のプレミアム拡大として現れ、ウォン相場への有意な影響は確認されなかった。
したがって研究は、現在の韓国でステーブルコイン需要がすでにウォン安を引き起こしていると結論付けたものではない。企業や外国人投資家の暗号資産市場参加が広がり、グローバルな仲介者がウォン建て取引へ入りやすくなれば、海外で確認された経路が韓国でも強まる可能性を示したものだ。
資金・規制・流動性との関係
この論点は、ステーブルコイン規制と外国為替政策を別々に考えにくくする。ドルステーブルコインの購入が大規模になり、その注文をグローバルなマーケットメーカーが処理するようになれば、暗号市場でのドル需要が外国為替市場におけるドル需要へ変換されるためだ。
特に現地通貨の外国為替市場が薄い場合、大きなステーブルコイン需要が入った際の影響を吸収しにくい。韓国銀行は、デジタル資産制度の整備だけでなく、ウォンの国際化や外国為替市場の流動性拡充も併せて考える必要があると指摘している。
これは資本移動の見方にも関係する。従来の海外証券投資や銀行送金とは異なり、利用者は暗号資産取引所を通じてドル連動資産へアクセスできる。取引の入口がデジタル資産市場であっても、裏側のヘッジまで追えば既存の外国為替市場へ資金フローがつながっている場合がある。
初心者向け補足
ステーブルコインのプレミアムとは、ドル連動型トークンが実際のドル相場よりどの程度高く取引されているかを示す。例えばドルステーブルコインを買いたい人が急増し、供給が追いつかなければ、現地市場では理論上のドル換算価格より高く売買されることがある。
グローバルなマーケットメーカーが参加すると、価格差を利用して海外からステーブルコインを持ち込み、現地で販売できる。この動きはプレミアムを縮小させる一方、受け取った現地通貨を外国為替市場で売却すれば、需要ショックを為替相場へ移すことになる。
そのためプレミアムが小さくなることが、必ずしも市場への影響が消えたことを意味しない。価格差として現れていた圧力が、外国為替取引を通じて通貨価格へ移っている場合がある。
Web3Timesの視点
今回の研究をドルステーブルコイン普及論としてだけ読むと、重要な部分を見落とす。見るべきなのは、暗号市場で発生したドル需要がどの金融配管を通って現地通貨売りへ変換されるのかだ。
ポイントはマーケットメーカーの存在にある。現地利用者がステーブルコインを買い、グローバルな仲介者がそれを供給し、その仲介者が外国為替市場でポジションをヘッジする。この三段階がつながることで、オンチェーン資産への需要がオフチェーンの為替相場へ届く。
今後韓国で確認すべきなのはステーブルコインの決済件数だけではない。法人や外国人の市場参加、ウォン建て直接取引の拡大、グローバル流動性供給者の参入によって、ステーブルコイン市場と外国為替市場の間の経路がどこまで短くなるかが重要になる。
ドルステーブルコインが広がるほど、中央銀行にとって暗号資産政策は決済規制だけの問題ではなくなる。国内通貨からドル連動資産へ資金が移る際、その需要を誰が仲介し、どの市場でヘッジするかまで含めて見る必要がある。ステーブルコイン市場が大きくなるほど、デジタル資産と外国為替を別々の市場として監視するだけでは資金の実際の流れを捉えにくくなる。
