Last Updated on 2026年9月7日 by oba3
学生ローンRWAプロトコルのペンシル・ファイナンス(Pencil Finance)が、100万ドル規模の学生向け融資について、投資家からの資金調達、融資への配分、返済記録、元本と収益の返還までの一連のサイクルをオンチェーンで完了したと発表した。今回の重要点は学生ローンをブロックチェーンで扱ったことだけではない。銀行やプライベートクレジットファンドの内部システムで管理されてきた信用商品の組成から返済までを、投資家が追跡できるデジタル基盤へ移した点にある。一方、実際の貸倒率や借り手金利、投資家が最終的に受け取った収益などは十分に開示されておらず、オンチェーン化と信用リスクの透明化は分けて評価する必要がある。
何が起きたのか?
ペンシル・ファイナンスは2026年9月3日、100万ドルの学生ローン資金について、資金提供から借り手への融資、返済、投資家への元本と収益の返還までを完了したと発表した。同社はこれを学生ローンで初となる完全なオンチェーン融資サイクルと説明しているが、この初の事例という主張について独立した確認は取れていない。
資金は2025年7月にアニモカ・ブランズ(Animoca Brands)、オープン・キャンパス(Open Campus)、ニューキャンパス(NewCampus)が提供した。100万ドルのうち75万ドルはシニア・トランシェとして当初年率15%の固定リターンを設定し、残る25万ドルは変動リターン型のジュニア・トランシェとして、損失が発生した場合に先に負担する構造が採用された。
融資資金の大部分は教育金融事業者エルディファイ(ErudiFi)を通じて運用され、フィリピンやインドネシアを含む東南アジアの学生向け授業料融資などに使われた。ペンシル・ファイナンスによると、この資金は過去12カ月で118の学校・大学に在籍する6600人超の学生向け融資を支え、このうち約1050人が今回の資金から直接融資を受けた。
ペンシル・ファイナンスは、融資サイクルをEDUチェーン(EDU Chain)上で記録し、最終的に資金提供者へ元本と収益を返還したとしている。ただし個別借り手の金利、実際の貸倒率、各トランシェの最終実現利回り、融資サイクル全体を第三者が追跡できる取引識別情報などは十分に公表されていない。
なぜ重要なのか?
RWA市場では米国債やマネーマーケットファンドのトークン化が先行してきた。これらは価格や償還条件を比較的把握しやすい。一方、学生ローンのような私募信用では、借り手ごとに返済能力が異なり、貸倒れや延滞を含む信用リスクを管理しなければならない。
今回ペンシル・ファイナンスがオンチェーン化したのは、既存ローンの価格を表示するだけではない。投資家から資金を集め、リスクの異なるトランシェへ分け、現実世界の融資事業者へ資金を渡し、返済を受け、最終的に投資家へ戻すという私募信用の一連の工程だ。
このモデルが他の融資分野でも機能すれば、RWAはすでに存在する証券をトークンに置き換える市場から、ブロックチェーン上で新しい信用商品を組成する市場へ広がる余地がある。
市場構造への影響
従来のプライベートクレジットでは、投資家が融資先の詳細や返済状況を確認するために、運用会社やサービサーから提供される定期報告へ依存することが多い。オンチェーン化では、資金の移動や返済記録を共通の台帳へ記録できるため、情報提供の頻度を高めやすい。
さらにトランシェをトークン化すれば、同じ学生ローンプールでも異なるリスクを持つ投資商品へ分割できる。今回のシニア部分では固定リターンを設定し、ジュニア部分が最初の損失を負担する構造が採用された。これは伝統的な証券化商品で使われてきた信用リスクの分配方法をオンチェーンへ持ち込んだ形だ。
一方、ブロックチェーンに返済記録が残るだけで借り手の信用力まで透明になるわけではない。融資審査、延滞管理、回収、貸倒れ認定は現実世界の事業者が担うため、そのデータを誰が作成し、どの段階でオンチェーンへ反映するかというオフチェーン部分が残る。
資金・規制・流動性との関係
学生ローンへの拡張で注目すべきなのは、オンチェーン資本が暗号資産市場内の取引ではなく、現実世界の信用供与へ向かったことだ。投資家の収益源もトークン価格の上昇ではなく、最終的には学生ローンから生じる返済金になる。
この仕組みが拡大すれば、教育金融会社は銀行借入や従来型ファンドだけでなく、オンチェーンの投資家から貸出原資を調達する経路を持てる可能性がある。反対に投資家側は、国債や不動産とは異なる私募信用へアクセスできる。
ただし市場拡大には信用データの開示が欠かせない。今回、元本と収益が返還されたことは公表されたものの、借り手金利、延滞率、貸倒率、実現リターンなど、信用商品を比較するために重要な指標の一部は未公表だ。今後の案件でこれらが標準化されなければ、オンチェーンで取引履歴を確認できてもローン自体の質を十分に判断できない。
初心者向け補足
プライベートクレジットとは、銀行や公開債券市場を介さず、投資家やファンドなどが企業や個人へ直接資金を貸す金融市場を指す。今回の場合、その対象が学生ローンになっている。
トランシェとは、一つのローンプールをリスクの異なる複数の商品へ分ける仕組みだ。シニアは通常、返済時の優先順位が高い代わりにリターンを抑え、ジュニアは損失を先に負担する代わりに高い収益を狙う設計になる。
また「オンチェーンで完結」という表現も、学生本人への審査や学校への支払いまで人間や金融事業者が不要になったという意味ではない。今回オンチェーン化された中心部分は、投資資金の組成と融資ポートフォリオの管理、返済記録、投資家への資金返還だ。現実世界での本人確認や与信判断には引き続きオフチェーンの仕組みが必要になる。
Web3Timesの視点
今回を「学生ローンまでトークン化された」という話だけで見ると、RWA市場の変化を小さく捉えてしまう。注目したいのは、完成済みの資産をブロックチェーンへ載せたのではなく、信用商品の組成から返済までの資金循環そのものをオンチェーンへ移した点だ。
このモデルでは、投資家の資金がトランシェへ入り、教育金融事業者を通じて借り手へ貸し出され、返済金が再び投資家へ戻る。ブロックチェーンは資産の所有記録だけではなく、私募信用の資金配分と回収を追跡する台帳として利用される。
一方、本当に重要な透明性は取引履歴だけではない。何人が延滞したのか、どの程度の貸倒れが生じたのか、借り手が支払った金利と投資家が得た収益の間にどれだけ差があるのかまで確認できなければ、信用リスクの価格付けは難しい。
今後見るべきなのは学生ローンの件数ではない。オンチェーン上の返済データと実際の貸倒情報をどこまで結び付けられるか、第三者がローンプールの実績を継続的に検証できるか、そして同じ仕組みを教育金融以外の消費者信用や中小企業融資へ広げられるかだ。そこまで進めば、RWA市場は資産をデジタル化する段階から、信用そのものをオンチェーンで組成・管理する市場へ広がっていく。
