S&Pグローバルがカイコへの戦略出資を主導しシリーズB総額が1.1億ドルへ拡大、トークン化市場の価格・参照データを標準化する競争が本格化

Last Updated on 2026年9月15日 by oba3

S&Pグローバル(S&P Global)が、デジタル資産データ企業カイコ(Kaiko)への戦略出資を主導し、同社のシリーズB調達総額が1億1000万ドルへ拡大した。今回の延長ラウンドにはBNPパリバ(BNP Paribas)、ナスダック・ベンチャーズ(Nasdaq Ventures)、ロイヤル・バンク・オブ・カナダ(Royal Bank of Canada)なども参加する。重要なのは暗号資産データ会社に伝統金融大手が資金を入れたことだけではない。国債、債券、株式などがオンチェーン化したとき、価格、指数、評価額、流動性データを誰が共通形式で提供するのかという市場基盤の競争に、既存金融のデータ企業が直接参加し始めた点だ。

目次

何が起きたのか?

カイコは2026年9月14日、S&Pグローバルが主導する戦略出資によってシリーズBの累計調達額が1億1000万ドルになったと発表した。同社は2022年6月にエイト・ローズ(Eight Roads)主導で5300万ドルのシリーズBを実施しており、今回の追加資金によって同ラウンドが拡張された形になる。S&Pグローバル単独の投資額やカイコの最新企業評価額は公表されていない。

追加ラウンドにはBNPパリバ、フランス政府系のBpifrance、ブロードリッジ(Broadridge)、カントン財団(Canton Foundation)、コインベース・ベンチャーズ(Coinbase Ventures)、DRWベンチャー・キャピタル(DRW Venture Capital)、ナスダック・ベンチャーズ、ロイヤル・バンク・オブ・カナダ、ステラ(Stellar)、サスケハナ(Susquehanna)などが参加した。

資金だけでなく、参加機関はカイコが議長を務める戦略的業界ワーキンググループにも加わる。目的はトークン化商品を実運用へ移すためのデータとインフラを検討することで、今回の出資者は単なる株主ではなく、市場仕様を議論する参加者にもなる。

カイコは現在150を超える取引所やプロトコルを対象に市場データを提供しており、調達資金を既存のデータ事業とオンチェーン資本市場向けインフラの拡張に使うとしている。

なぜ重要なのか?

トークン化市場では、証券をブロックチェーン上へ発行するだけでは機関投資家は取引できない。公正価値の算定、担保評価、リスク管理、指数算出、ファンドの基準価額などに利用できる信頼性の高い価格情報が必要になる。

伝統金融では、株式や債券の市場データ、指数、格付け、ベンチマークを提供する企業が長年こうした役割を担ってきた。オンチェーン市場ではデータが24時間発生し、中央集権型取引所、分散型取引所、スマートコントラクトなど複数の場所へ分散するため、その情報を金融機関が利用できる形式へ整理する新しい基盤が必要になる。

今回S&Pグローバルが資本参加した意味は、このデータ層を暗号資産業界だけの専門サービスではなく、将来の資本市場インフラとして位置付けている点にある。

市場構造への影響

カイコのオンチェーン向け事業は、価格データを表示するだけではない。独自の市場データをスマートコントラクトへ送り、ブロックチェーン上の活動を標準化されたオフチェーンデータへ変換し、機関投資家向けの評価や分析に利用できる状態へ整えることを目指している。

この役割はトークン化証券が増えるほど重要になる。同じ米国債を参照する商品でも、複数チェーンや取引基盤に分散すれば、どの価格を正式な評価値として使うのか、異なる市場の流動性をどう統合するのかという問題が生まれる。

S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(S&P Dow Jones Indices)とカイコは9月1日、双方の暗号資産指数を統合したS&Pカイコ・デジタル・アセット・インデックスを開始した。カイコが暗号市場のデータと専門性を提供し、S&P側が指数管理、ライセンス、世界的な流通を担う構造だ。

両社は米国債を対象とするiBoxx指数のオンチェーン化でも協業している。今回の出資は、単発の商品開発からデータ、指数、トークン化市場基盤まで関係を広げる動きとして見ることができる。

資金・規制・流動性との関係

機関投資家がオンチェーン市場へ資金を投入する際には、価格データがあるだけでなく、その算出方法や管理主体が監査・規制に耐えられることも必要になる。カイコ・インデックスはEUベンチマーク規則の下でベンチマーク管理者として認可されており、同社は金融機関向けのデータ管理体制を整えてきた。

さらにカイコは2026年、DeFiインフラ企業コメス(Cometh)とデジタル資産データ企業アンバーデータ(Amberdata)を買収した。コメスは欧州MiCAの暗号資産サービス事業者認可を持っており、カイコは市場データだけでなく規制されたオンチェーン接続まで事業範囲を広げている。

今後、国債やマネーマーケットファンド、株式、社債が複数のネットワーク上で取引されるようになれば、価格を正規化し、共通ベンチマークへ変換できる企業が流動性の接続点になる。今回集まった銀行、取引所、ブロックチェーン企業が同じワーキンググループへ入る意味もそこにある。

初心者向け補足

金融市場では「価格」は単に最後に成立した取引価格だけを指すわけではない。ETFの基準価額、担保価値、デリバティブの清算価格などでは、複数市場のデータを使って信頼できる参照価格を作る必要がある。

トークン化証券でも同じ仕組みが必要になる。ブロックチェーン上に債券が存在していても、金融機関がその価値を共通ルールで評価できなければ、大規模な担保取引やファンド運用には使いにくい。

今回の1億1000万ドルも、S&Pグローバルが全額を新たに投資した金額ではない。2022年から続くシリーズB全体の累計額であり、今回の延長には複数の戦略投資家が参加している。

Web3Timesの視点

今回を見るうえで、カイコが暗号資産データ企業として成長したという説明だけでは足りない。重要なのは、トークン化市場で何を「正式な価格」として利用するのかを決めるデータ層へ、S&Pグローバルを含む既存金融機関が資本と人材を投入していることだ。

証券の発行をオンチェーン化する技術はすでに複数存在する。次の競争は、その証券を評価し、指数へ組み込み、担保として値付けし、異なる市場間で比較できる共通データを誰が提供するかへ移る。

注目すべきは、カイコ主導のワーキンググループからどのようなデータ仕様や評価手法が生まれるか、S&Pとの指数事業が暗号資産以外のトークン化証券へどこまで広がるか、そして銀行や資産運用会社がそのデータを実際の評価・担保管理へ採用するかだ。

資本市場がオンチェーンへ移っても、価格の信頼性やベンチマークの必要性はなくならない。むしろ24時間、複数チェーンで取引されるほど共通データの重要性は増す。S&Pグローバルによる今回の戦略出資は、トークン化市場の主導権争いが発行基盤だけでなく、価格情報を標準化するデータインフラへ移りつつあることを示している。

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