Last Updated on 2026年9月6日 by oba3
英国最大の個人向け投資プラットフォームであるハーグリーブス・ランズダウン(Hargreaves Lansdown)が、ビットコイン(Bitcoin)とイーサ(Ether)に連動する暗号資産ETNの提供を開始した。同社は約200万人の顧客を抱えており、今回9商品を既存の投資基盤へ追加した。重要なのは暗号資産商品が9本増えたことではない。英国金融行為規制機構(Financial Conduct Authority・FCA)が個人投資家による暗号資産ETNへのアクセスを再び認めたことで、従来の証券口座そのものが暗号資産への流通経路へ変わり始めた点だ。
何が起きたのか?
ハーグリーブス・ランズダウンは2026年9月3日、個人投資家向けにビットコインとイーサへ連動する9本の暗号資産ETNの取り扱いを開始した。商品提供者にはブラックロック(BlackRock)のiシェアーズ、ウィズダムツリー(WisdomTree)、21シェアーズ(21Shares)、インベスコ(Invesco)、コインシェアーズ(CoinShares)、ビットワイズ(Bitwise)などが含まれる。
同社は2025年末時点で200万人を超える顧客と1900億ポンド規模の顧客資産を抱える。ただし約200万人全員が自動的に暗号資産ETNを購入できるわけではない。商品は高度な投資家向けサービスを通じて提供され、利用者には自己認証、適合性確認、24時間のクーリングオフ期間などが求められる。
投資家は暗号資産取引所へ新しく口座を開いたり、秘密鍵を管理したりすることなく、既存の証券投資環境からビットコインやイーサの価格へアクセスできる。対象商品は現物暗号資産そのものではなく、英国の認可された投資取引所に上場するETNである。
なぜ重要なのか?
今回の提供開始を可能にした背景にはFCAの制度変更がある。FCAは2021年、個人投資家への暗号資産ETNと暗号資産デリバティブの販売を禁止した。その後、市場や商品設計が変化したとして、一定条件を満たす暗号資産ETNについて2025年10月8日から個人投資家への提供を再び認めた。
対象となるETNはFCAが認める英国の取引所に上場し、情報開示や金融プロモーション、消費者保護のルールに従う必要がある。一方、暗号資産デリバティブの個人向け販売禁止は維持されている。つまり英国は暗号資産へのアクセスを全面自由化したのではなく、既存証券制度の中で管理できる商品から入口を開いた。
ハーグリーブス・ランズダウンは制度変更後もしばらく提供を見送っていたため、今回の参入によって主要な英国投資プラットフォームを通じたアクセスがさらに広がることになる。
市場構造への影響
これまで個人がビットコインを取得する代表的な経路は、暗号資産取引所へ法定通貨を入金し、現物を購入する方法だった。ETNではその経路が変わる。投資家は普段株式、ETF、ファンドなどを管理している証券口座から暗号資産価格へアクセスできる。
この変化では、暗号資産取引所だけが個人資金の入口ではなくなる。証券プラットフォーム、資産運用会社、証券取引所が暗号資産へのアクセス経路を構成し、既存金融の顧客基盤そのものが流通網として機能するためだ。
特にハーグリーブス・ランズダウンのような大規模プラットフォームが参入すると、暗号資産を利用したことのない投資家でも既存口座の延長で商品を検討できる。暗号資産市場と個人向け証券市場の間にあった口座、カストディ、操作方法の違いが小さくなる。
資金・規制・流動性との関係
ETNでは投資家自身がビットコインやイーサを保管しない。上場証券として売買するため、ウォレットや秘密鍵の管理を必要とせず、従来の投資商品の売買手続きに近い形で利用できる。これが既存証券口座から暗号資産へ資金を移す際の摩擦を下げる。
一方、ETNには現物保有とは異なるリスクがある。投資家はビットコインそのものを所有するわけではなく、商品発行体の信用リスクなども負う。FCAも暗号資産ETNを高リスク商品として扱っており、金融サービス補償制度による保護も原則として期待できない。
そのため今回の制度変更は、暗号資産を通常の低リスク金融商品として扱うものではない。高リスク性を残したまま、規制された証券市場の販売・情報開示・適合性確認を通じてアクセスを認める設計になっている。
初心者向け補足
ETNは取引所で売買できる証券で、特定資産の価格へ連動するよう設計される。今回の商品を購入しても、投資家自身のウォレットへビットコインやイーサが送られてくるわけではない。
この違いは重要だ。現物暗号資産ならウォレットから送金したりオンチェーンサービスで利用したりできるが、ETNでは基本的に証券口座内の商品として保有する。その代わり、秘密鍵管理を行わず既存の投資環境から価格へのエクスポージャーを取得できる。
約200万人への開放という表現も、全顧客が無条件で購入できるという意味ではない。実際には適合性確認などを通過した利用者が対象となる。
Web3Timesの視点
今回を見るうえで重要なのは、英国最大級の投資プラットフォームが暗号資産商品を追加したことだけではない。FCAの制度変更によって、株式やファンドを扱ってきた既存の証券口座が暗号資産への新しい入口として利用できるようになったことだ。
これは暗号資産市場へ資金を呼び込む経路の変化を示す。暗号資産専業取引所へ利用者を移動させなくても、すでに数百万人が利用する金融プラットフォームの中へビットコインやイーサへのアクセスを置けるようになる。
今後見るべきなのは9商品の取引量だけではない。英国の主要証券プラットフォームで暗号資産ETNがどこまで定着するか、資産運用会社が商品数を広げるか、そしてFCAがどの範囲まで個人向けアクセスを認めていくかが重要になる。規制変更によって既存投資口座が暗号資産の流通網へ変わるほど、暗号市場への入口は専業取引所中心から伝統的な証券インフラへ広がっていく。
