Last Updated on 2026年8月28日 by oba3
韓国の未来アセット(Mirae Asset)が、デジタルX(Digital X)を中核にデジタル資産分野を150兆ウォン、報道時点の換算で約1090億ドル規模へ育てる構想を明らかにした。対象は暗号資産だけではなく、ステーブルコイン、RWA、トークン証券まで含む。重要なのは未来アセットが1090億ドルを新たに投資するという話ではない。同社が抱える約1500兆ウォンの顧客資産を基盤として、その一部をデジタル金融へ接続する事業規模の目標だ。証券、資産運用、取引、発行を持つ金融グループがオンチェーン市場を自社の金融商品網へ取り込もうとしている。
何が起きたのか?
未来アセット創業者のパク・ヒョンジュ(Park Hyeon-joo)氏は2026年8月26日、ソウルで開かれたデジタルX社員向けイベントで、中長期戦略「Mirae Asset 3.0」の具体像を示した。グループの約1500兆ウォンの顧客資産を背景に、デジタル資産分野をまず150兆ウォン規模へ成長させる目標を掲げ、デジタルXについては2027年の黒字化を目指すとした。
デジタルXは、未来アセットグループ傘下の未来アセット・コンサルティングが2026年7月に韓国暗号資産取引所コルビット(Korbit)の約97%を取得した後、運営会社を改称したものだ。未来アセットはデジタルXを、暗号資産、ステーブルコイン、RWA、トークン証券の4分野を扱う中核企業として位置付ける。
具体策として、金、銀、電力など現実資産のデジタル化、新しいデジタル金融商品の開発、自己資金による投資、ブロックチェーン上で金融機能を処理するオンチェーン金融環境の構築を掲げた。さらに2026年8月には約500億ウォンの増資を実施しており、業績改善を条件に2027年上半期をめどとして2000億から3000億ウォン規模の第三者割当増資も検討している。
なぜ重要なのか?
今回の150兆ウォンという数字は、買収額でも新規投資額でもない。未来アセットが既存の顧客資産をデジタル資産商品へ接続しながら育てたい事業領域の規模を示している。この違いは重要だ。
暗号資産企業が取引所から資産運用へ進出するのとは逆に、未来アセットはすでに伝統金融側に顧客、金融商品、資本、販売網を持っている。そこへ暗号資産取引所を加えたことで、デジタル商品を作る側と、それを顧客へ販売する側を同じグループ内へ近づけられる。
市場構造への影響
デジタルX構想で注目すべきなのは、取引所単体の拡大ではなく垂直統合だ。暗号資産では取引所が流通を担い、ステーブルコイン会社が決済資産を発行し、RWA事業者が現実資産をトークン化し、証券会社が投資商品を販売するというように機能が分かれてきた。
未来アセットがこれらを一つの金融グループでつなげれば、資産の組成から販売、取引、保管、運用までを連続したサービスとして設計できる。例えば金や証券をデジタル化し、それをデジタルXで流通させ、将来的にステーブルコインなどの決済手段まで接続する構造が考えられる。
ただし、現時点ですべての機能が商用化されているわけではない。ステーブルコインの具体的な発行計画、RWA商品の開始時期、利用するブロックチェーンなどは公表されておらず、現在はグループ戦略としての方向性が示された段階だ。
資金・規制・流動性との関係
未来アセットの強みは約1500兆ウォンという既存顧客資産にある。デジタル資産市場で新しい商品を作っても、購入する投資家や販売チャネルがなければ規模は広がらない。大手金融グループの場合、その流通網を最初から持った状態で市場へ入れる。
同時に、韓国では暗号資産、ステーブルコイン、トークン証券について制度整備が続いている。未来アセットもAML、KYC、情報保護、不正取引監視などについて既存金融機関水準の管理体制をデジタルXへ導入する方針を示している。どの事業が実現するかは、今後の韓国の制度設計にも左右される。
追加増資もこの点で重要になる。2000億から3000億ウォンの資本投入が実施されれば、単なる取引所の利用者獲得ではなく、商品開発、リスク管理、規制対応、RWA基盤などへ長期資本を投じる余地が増える。
初心者向け補足
垂直統合とは、一つの商品が顧客へ届くまでの複数工程を同じ企業グループが持つことだ。例えば証券会社が商品を販売するだけでなく、その商品の組成、取引市場、決済まで自社グループで提供すれば、外部企業への依存を減らせる。
デジタル資産でも同様で、取引所だけを所有する場合と、RWAやトークン証券を作り、決済用資産を用意し、自社顧客へ販売できる場合では事業範囲が大きく異なる。未来アセットが目指しているのは後者に近い。
Web3Timesの視点
今回見るべきなのは1090億ドルという大きな数字そのものではない。より重要なのは、未来アセットがデジタルXを単独の暗号資産取引所としてではなく、伝統資産とデジタル資産を一つの投資基盤へまとめる入口として位置付けていることだ。
これまで暗号資産企業は、取引所からカストディー、ステーブルコイン、RWAへ機能を広げてきた。未来アセットの構想はその逆方向から進む。すでに顧客資産と金融商品の販売網を持つ大手金融グループが取引所を取得し、そこへ発行やオンチェーン商品を追加していく。
今後の焦点は150兆ウォンという目標の達成時期だけではない。どの資産を実際にトークン化するのか、ステーブルコインを自ら発行するのか外部発行体と組むのか、デジタルXを通じてグループ顧客へどこまで商品を流通させるのかが重要になる。伝統金融が暗号資産市場へ参入する段階から、発行・流通・運用をまとめて自社金融圏へ取り込む段階へ進めば、デジタル資産市場の主導権を巡る競争も大きく変わる。
