Last Updated on 2026年9月15日 by oba3
米上院共和党が、デジタル資産市場明確化法案(Digital Asset Market Clarity Act・CLARITY Act)の「最終草案」と位置付ける新たな法案文を公表した。約635ページの草案には民主党側が求めてきた126項目の実質的な変更が取り込まれ、公職者による暗号資産事業との利益相反を抑える倫理規定も強化された。次の焦点は9月15日の上院手続き採決で、審議を前進させるには60票が必要になる。ただし今回の採決は最終可決ではない。Web3Timesが見るべきなのは票読みそのものではなく、SECとCFTCの監督区分を恒久法へ移すため、倫理規定、銀行預金、DeFiなど異なる政治課題をどこまで一つの成立連合へまとめられるかだ。
何が起きたのか?
シンシア・ルミス(Cynthia Lummis)上院議員、上院銀行委員会のティム・スコット(Tim Scott)委員長、上院農業委員会のジョン・ブーズマン(John Boozman)委員長らは9月13日夜、CLARITY法案の新しい草案を公表した。共和党側は、1年以上にわたる交渉を反映し、民主党から求められた126項目の実質的変更を盛り込んだとしている。
特に注目されたのが公職者の暗号資産利益を巡る倫理条項だ。新草案では大統領、副大統領、連邦議員、裁判官などの公職者とその配偶者について、一定規模以上の暗号資産関連利益を保有する場合の処分やブラインドトラストなど、利益相反を抑える仕組みが盛り込まれた。暗号資産の発行や関与についても制限を設け、州司法長官にも規定を執行する役割を与える内容となっている。
共和党側によると、ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領も超党派で交渉されてきた倫理案の大部分を受け入れた。ただし公職者の子どもなどは同じ範囲で明記されておらず、一部民主党議員からは依然として抜け道が残るとの批判が出ている。
新草案は、9月15日に予定される手続き採決を通過した場合、現在の法案を置き換える修正案として提示される見込みだ。共和党は上院で53議席のため、全員が賛成しても少なくとも7人の民主党または無所属議員の支持が必要になる。
なぜ重要なのか?
今回の倫理規定は、CLARITY法案の本来の市場監督制度とは直接別の論点に見える。しかし実際の法案成立では、この倫理問題が60票を形成するための主要な条件になっている。
CLARITY法案の中心は、暗号資産の法的分類を整理し、米証券取引委員会(Securities and Exchange Commission・SEC)と米商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission・CFTC)の監督範囲を法律で定めることだ。一定のデジタル商品についてCFTCへ現物市場監督権限を与える一方、証券の発行やトークン化証券などはSECの管轄に残す方向が基本となっている。
しかしその制度を成立させるには、暗号資産事業から利益を得る可能性がある公職者自身がルールを作るという利益相反への懸念を処理する必要があった。今回の草案では、市場監督制度を成立させる代わりに倫理規定を強めるという政治的な交換条件がより明確になった。
市場構造への影響
CLARITY法案が成立すれば、米国の暗号資産事業者はSECとCFTCのどちらへ登録すべきかを、行政機関の個別解釈だけではなく連邦法に基づいて判断しやすくなる。
これは規制緩和だけを目的とした制度ではない。中央集権型取引事業者には登録やリスク管理を求めつつ、デジタル商品、証券、DeFi、非カストディ型ソフトウェアを異なる性質のものとして扱う枠組みを作ろうとしている。
行政機関は法案がなくても暗号資産規則を作ることができる。しかし政権や委員長が変われば解釈も変更され得る。議会制定法としてSECとCFTCの境界を固定することには、数年単位で事業投資を行う取引所、銀行、資産運用会社にとって異なる意味がある。
資金・規制・流動性との関係
最終草案では倫理規定だけでなく、銀行業界が問題視してきたステーブルコイン報酬にも譲歩が加えられた。決済用ステーブルコインによって地域銀行から大規模な預金流出が起きた場合、財務長官が一定期間、報酬制度へ制限をかけられる仕組みが盛り込まれている。
これはCLARITY法案の交渉が、SECとCFTCだけの問題ではなくなっていることを示す。ステーブルコインへ資金が移れば銀行預金が減り、地域金融機関の融資原資へ影響するとの懸念があるため、銀行業界はより強い制限を求めている。
DeFiについても、実質的な管理主体を持つプロトコルにはCFTC登録や銀行秘密法上の義務を課す一方、単なるソフトウェア開発者まで同じ金融仲介業者として扱わないよう修正が重ねられている。
したがって今回の60票は、単純な暗号資産賛成派と反対派の対立では測れない。市場監督を明確にしたい金融企業、倫理条項を求める民主党、銀行預金を守りたい金融業界、開発者保護を求めるDeFi側など、異なる利害をどこまで同じ法案へまとめられるかが問われている。
初心者向け補足
今回予定されているのはCLARITY法案そのものを成立させる最終採決ではない。上院で法案の審議を前へ進めるための手続き採決で、60票を集めれば修正案の審議や最終採決へ進める。
その後に上院が法案を可決しても、下院が以前可決した内容と異なれば両院で同じ法案文を承認する必要がある。最後に大統領が署名して初めて法律になる。そのため「最終草案」という表現も、今後一切変更されない最終法律文を意味するわけではない。
また法案が成立したからといって、すべての暗号資産がCFTCの監督へ移るわけではない。証券として扱われる資産や資金調達にはSECの権限が残り、CFTCには主にデジタル商品市場の新たな監督権限を与える構造になる。
Web3Timesの視点
今回の最終草案で見るべきなのは、倫理条項が厳しくなったという一点だけではない。包括的な暗号資産市場法を成立させるために、市場監督とは別の政治課題まで取り込みながら60票の連合を形成しようとしていることだ。
SECとCFTCの権限整理だけなら技術的な金融規制として議論できる。しかし実際に恒久法へするには、公職者の利益相反、銀行預金、ステーブルコイン、DeFi、マネーロンダリング対策まで同時に政治的な合意を作る必要がある。
今後見るべきなのは9月15日の票数だけではない。倫理条項を強化したことで民主党側の支持が実際に増えるのか、銀行業界がステーブルコイン条項を受け入れるのか、そして審議開始後の修正でもSECとCFTCの基本的な管轄整理が維持されるのかが重要になる。
今回の採決を通過しても包括的監督制度が成立したわけではない。しかし60票を超えれば、米国が長年行政機関と裁判所に委ねてきた暗号資産の監督境界を、議会が恒久法として定義する工程は大きく前進する。CLARITY法案の最終局面は、暗号資産規制の内容だけでなく、それを成立させるためにどの政治的交換条件まで受け入れられるかを測る局面になっている。
