Last Updated on 2026年7月26日 by oba3
ロシア最大手銀行のズベルバンク(Sberbank)が、暗号資産を売買するための基盤と、保有資産を記録・管理するデジタル保管機関を2026年12月1日までに整備する方針を示した。サービスは新しい暗号資産規制の施行を前提とし、ズベルバンク・オンラインやズベル・インベストメンツなど既存の銀行サービスへ組み込まれる計画だ。注目すべきなのは、大手銀行が暗号資産へ参入すると表明したことだけではない。注文、顧客確認、資産保管、取引記録、法定通貨決済を銀行内で管理する仕組みが整えば、ロシアの暗号資産取引が認可された仲介業者へ集約される可能性がある。
何が起きたのか?
ズベルバンクのキリル・ツァリョフ(Kirill Tsarev)第一副会長は、ロシアで暗号資産規制法が施行された後、同行のアプリを通じて認められた暗号資産取引を提供する計画を明らかにした。対象となる機能はズベルバンク・オンラインとズベル・インベストメンツへの組み込みが想定されている。
同行は同時に、暗号資産の保管と所有記録を扱うデジタル保管機関の構築も進める。別の第一副会長であるアレクサンダー・ベジャヒン(Alexander Vedyakhin)は、取引基盤とデジタル保管機関を12月1日までに実現する方針を説明した。
ロシア中央銀行が公表した制度では、暗号資産取引は認可された仲介業者を通じて行われる。一般投資家は試験への合格を条件に、流動性が高いと認められた暗号資産を年間30万ルーブルまで購入できる。適格投資家も試験を受ける必要があるが、対象資産や金額に同じ上限は設けられない予定である。
新制度は2026年9月1日の施行が予定されている。ただし、ズベルバンクが最初に扱う暗号資産、売買手数料、外部ウォレットへの出庫条件、外国交換所との接続方法は未公表である。12月1日は同行が示した構築目標であり、すべての顧客向け機能が同日に一斉開放されると確定したわけではない。
なぜ重要なのか?
ロシアでは暗号資産の保有や売買と、国内の商品やサービスに対する支払いを分けて規制する方向が示されている。暗号資産を投資対象や対外取引の手段として扱う余地は広がる一方、国内決済で法定通貨の代わりに自由に使う仕組みではない。
この制度下で大手銀行が取引基盤を提供すると、利用者は海外交換所や個人間取引だけに頼らず、既存の銀行口座から暗号資産へアクセスできるようになる可能性がある。銀行側は顧客の本人確認、ルーブルの入出金、取引履歴、税務や当局向けの記録を一つの口座関係の中で管理できる。
一方、銀行アプリで売買できることと、利用者が暗号資産を自由に管理できることは同じではない。購入した資産を銀行の保管機関内だけで持つのか、個人ウォレットへ移せるのかによって、サービスの性質は大きく異なる。前者であれば証券口座に近い閉じた取引環境となり、後者であれば銀行と外部のオンチェーン市場を結ぶ入口になる。
市場構造への影響
ズベルバンクの計画で中心となるのは、暗号資産の取引記録を銀行の管理体系へ取り込むことである。注文の受付、顧客資格の判定、資金の引き落とし、暗号資産の保管、売却代金の入金が同じ金融グループ内で処理されれば、利用者は複数の事業者を経由せずに取引できる。
この利便性は、取引を認可仲介業者へ集める力にもなる。大規模な顧客基盤とルーブル口座を持つ銀行が暗号資産サービスを提供すれば、独立系交換所は入出金の速さ、保管の安全性、商品数、外部ウォレット対応などで差別化を迫られる。
取引と保管が銀行内で完結する場合、ブロックチェーン上では顧客ごとの移転を毎回行わず、銀行内部の台帳だけで保有者を変更する設計も考えられる。その場合、オンチェーン上で見えるのはズベルバンクが管理する集約ウォレットの残高であり、個々の顧客取引は銀行内の記録として処理される。
この方式は処理コストや送金待ち時間を減らせる一方、利用者は銀行の記録が正確であり、保管される暗号資産の総量と顧客残高が一致していることを信頼する必要がある。デジタル保管機関に求められるのは秘密鍵の保護だけではなく、顧客別の所有権を継続的に証明できる記録管理である。
また、ズベルバンクが外国交換所への接続を仲介する場合、注文は銀行アプリから出されても、実際の価格形成は国外市場で行われる可能性がある。国内に独自の注文板を作るのか、複数の市場から価格を取得するのかによって、ロシア国内の流動性が形成される場所も変わる。
資金・規制・流動性との関係
銀行主導の取引基盤では、ルーブルと暗号資産の交換経路が明確になる。顧客は銀行口座から資金を移し、売却後は同じ口座で代金を受け取れるため、法定通貨への入口と出口を銀行が管理することになる。
この構造はマネーロンダリング対策、顧客確認、制裁確認を行いやすくする一方、取引停止や資産凍結の権限も銀行へ集中させる。捜査機関や裁判所から適法な要請があった場合、保管機関は対象顧客の暗号資産移転を制限できる設計になるとみられる。
一般投資家に年間30万ルーブルの購入上限が設けられれば、銀行は複数回の注文を合算し、上限を超えていないか確認する必要がある。複数の仲介業者を利用した場合の集計方法や、どの暗号資産を流動性が高い対象として認めるかは、今後の規則で具体化される。
流動性の供給者も重要である。ズベルバンクが顧客同士の注文を照合するのか、外部の交換所やマーケットメーカーから価格を取得するのかは明らかになっていない。取引相手が限定されれば価格差が広がる可能性があり、複数市場へ接続すれば法令確認や決済管理は複雑になる。
ロシアでは西側諸国の制裁により、国際的な銀行送金や主要通貨へのアクセスが制限されている。暗号資産は対外取引の代替経路として関心を集めているが、ズベルバンク自身も国際制裁の対象である。国内の認可制度が整っても、海外の交換所、発行企業、カストディー会社が同行との接続を受け入れるとは限らない。
初心者向け補足
デジタル保管機関とは、暗号資産の秘密鍵を管理するだけでなく、誰がどの資産をどれだけ保有しているかを記録する事業者である。利用者が銀行アプリ上で暗号資産を購入しても、実際の秘密鍵を銀行側がまとめて管理する場合がある。
銀行内取引では、同じ銀行を使う顧客同士の売買を内部台帳で処理できる。ブロックチェーンへ毎回送金を記録しないため、画面上の取引は速くなる。ただし、外部ウォレットへ出庫するまでは、利用者自身が秘密鍵を持つわけではない。
認可仲介業者は、規制当局から認められた範囲で顧客の注文や資金移動を処理する事業者である。利用者保護や取引監視を行いやすくなる反面、どの資産を扱えるか、誰が取引できるかは制度と事業者の判断に左右される。
Web3Timesの視点
ズベルバンクの計画を、大手銀行による暗号資産参入としてだけ読むと、ロシアが構築しようとしている市場の形を見落とす。中心にあるのは、暗号資産を銀行口座、投資家区分、取引記録、保管制度へ組み込み、認可された仲介業者の内側で管理する設計である。
この仕組みでは、利用者が暗号資産を購入できること以上に、注文と所有権の記録がどこに残るかが重要になる。銀行内台帳で大半の取引を処理するなら、公開ブロックチェーンは最終的な入出庫や残高保管に使われ、日常の売買記録は銀行側へ集約される。
取引、保管、ルーブル決済を一つの大手銀行が担えば、利便性と監督可能性は高まる。一方で、顧客資産、価格情報、注文経路が少数の認可事業者へ集中し、独立系交換所や自己管理型ウォレットとの接続が限定される可能性もある。
今後追うべきなのは、12月の開始日だけではない。対象銘柄、外部ウォレットへの出庫、保管資産の照合方法、価格の取得先、外国交換所との接続、一般投資家の上限管理を確認する必要がある。ズベルバンクの基盤がロシアの暗号資産市場を変えるかどうかは、取引画面の公開ではなく、銀行内の記録とオンチェーン上の所有権をどこまで接続できるかで決まる。
