SECスタッフがフランクリン・テンプルトンのBENJI活用にノーアクション判断、規制下ファンドの現金管理へオンチェーン台帳を組み込む経路が開く

Last Updated on 2026年8月14日 by oba3

米証券取引委員会(SEC)の投資管理部門スタッフが、フランクリン・テンプルトン(Franklin Templeton)の登録ファンドがオンチェーン型マネーマーケットファンドを現金管理に利用する仕組みについて、一定条件の下で執行措置を勧告しないとするノーアクション判断を示した。対象となるのはフランクリン・オンチェーン米国政府マネーファンドの持分で、BENJIとして知られるブロックチェーン統合型の記録システムが使われている。重要なのは、新しいトークン化投資商品が承認されたことではない。既存の規制ファンドが日常的に行う現金残高や証券貸付担保の管理へ、ブロックチェーンを組み込める実務上の道筋が示された点にある。

目次

何が起きたのか?

SEC投資管理部門のスタッフは2026年8月12日、フランクリン・テンプルトン傘下の米国登録オープンエンド型ファンドとクローズドエンド型ファンドについて、フランクリン・オンチェーン米国政府マネーファンドの持分を保有する際のカストディー方法に関するノーアクションレターを公表した。

対象のオンチェーンファンドは、1940年投資会社法のルール2a-7に基づく政府系マネーマーケットファンドとして運用されている。資産の少なくとも99.5%を米国政府証券、現金、または政府証券などで完全に担保されたレポ取引へ投資する仕組みであり、ビットコイン(Bitcoin)やイーサリアム(Ethereum)などのネイティブ暗号資産へ投資する商品ではない。

特徴は持分の記録方法にある。フランクリン・テンプルトン・インベスター・サービシズ(Franklin Templeton Investor Services)が登録名義書換代理人として、内部の帳簿システムとブロックチェーンを統合した記録基盤を管理する。氏名などの非公開情報は内部システムに保持し、購入、償還、配当、基準価額、取引日時などの情報はブロックチェーン上の記録と連携させる。

今回フランクリン側が求めたのは、系列の登録ファンドがこのオンチェーンファンドを現金管理や証券貸付担保の運用先として利用できるようにすることだった。SECスタッフは、所定の内部統制、ウォレット管理、取引確認、帳簿照合、監査などを実施することを条件に、関連するカストディー規則の一部に基づく執行措置を勧告しないとの立場を示した。

ただし、これはSEC委員会による新制度の正式な承認ではない。SEC自身も、今回の文書はスタッフによる執行上の見解であり、法律を変更する規則や委員会としての承認ではないと明記している。この違いは制度上重要である。

なぜ重要なのか?

これまでRWAやトークン化を巡る議論では、国債やファンド持分をブロックチェーン上で投資家へ販売することに注目が集まりやすかった。今回の判断は、それとは別の領域を示している。投資家が新しいトークン商品を購入する場面ではなく、資産運用会社が既存ファンドの日常業務を処理する部分へブロックチェーンを入れる動きだからだ。

登録ファンドは、投資家から受け取った資金を常に株式や債券へ全額投資しているわけではない。償還への対応、取引決済、担保管理などのために現金や短期金融商品を保有する。こうした資金を系列のマネーマーケットファンドへ置くことは一般的な運用実務の一部だ。

今回の仕組みでは、その現金管理先の持分記録にブロックチェーンが使われる。つまりオンチェーン技術が投資商品の外側に追加されるのではなく、ファンド内部で毎日発生する資金移動や持分管理へ入り込むことになる。

この違いは大きい。トークン化が一部のデジタル資産投資家だけに使われる段階から、既存の投資信託業務を支えるバックオフィス技術として採用される段階へ進む余地が生まれるためだ。

市場構造への影響

今回の判断で焦点となったのは、ブロックチェーンそのものよりもカストディーと記録管理だった。既存の規則には、証券を物理的な保管庫へ置くことを前提とした要件が残っている。一方、BENJIではファンド持分が証書として保管されるのではなく、登録名義書換代理人が管理する帳簿とブロックチェーンの統合システムによって記録される。

SECスタッフはこの違いに対し、従来の物理保管とまったく同じ形式を求めるのではなく、同等の管理機能を別の仕組みで確保できるかを見ている。具体的には、ファンドごとのウォレット分離、権限管理、不正取引の訂正、ウォレット記録の凍結や移行、毎日の照合、独立監査人による確認などが条件に組み込まれた。

この考え方が他のケースでも利用されるようになれば、ブロックチェーン導入の障壁は「技術を使ってよいか」から「既存規制が求める管理機能をどう再現するか」へ移る可能性がある。資産運用会社にとっては、従来の証券管理制度を捨てるのではなく、その中へ分散型台帳を組み込む設計が現実的な選択肢になる。

ただし今回の判断はフランクリン・テンプルトンが提示した具体的な事実関係と管理体制に基づく。すべてのトークン化ファンドやオンチェーンシステムへ自動的に適用される一般免許ではない点には注意が必要だ。

資金・規制・流動性との関係

フランクリン側はオンチェーンファンドを現金残高だけでなく、証券貸付で受け取る担保の運用先としても利用する柔軟性を求めている。ここから見えるのは、トークン化されたマネーマーケットファンドが単なる投資商品ではなく、金融機関内部で短期資金を置くための資金管理手段として使われ始める姿だ。

フランクリン側は、オンチェーンファンドについて時間単位の基準価額計算、日中取引、より速い処理、コスト削減の余地、データ管理面の利点などを挙げている。これらが実務でどの程度効果を発揮するかは今後確認する必要があるが、資産管理会社がブロックチェーンを採用する理由が暗号資産への投資とは異なることは明確だ。

資金管理で重視されるのは、価格上昇ではなく処理速度、照合、記録、決済、担保の可視性である。オンチェーン化によってこれらの業務が効率化されれば、ブロックチェーンへの資金流入は個人投資家によるトークン購入だけでなく、金融機関内部の短期資金管理からも生じる可能性がある。

一方で、SECスタッフが詳細な統制条件を求めたことからも、パブリックブロックチェーンを利用すれば従来の管理主体が不要になるわけではない。今回の仕組みでは登録名義書換代理人が公式記録を管理し、スマートコントラクトの管理権限や訂正機能も保持する。金融機関向けオンチェーン化は、完全な無管理化ではなく、規制された管理者がブロックチェーンを利用する方向で進んでいる。

初心者向け補足

BENJIは暗号資産そのものではなく、フランクリン・オンチェーン米国政府マネーファンドの持分をブロックチェーン統合型システムで記録する仕組みとして理解すると分かりやすい。ファンド自体は主に米国政府証券や現金などを保有している。

また、今回のニュースでいう現金管理とは、企業が銀行口座へ現金を置くだけの話ではない。投資信託では投資待機資金、償還対応資金、担保などを安全性と換金性の高い短期商品で運用する。マネーマーケットファンドはその受け皿の一つになる。

ノーアクションレターについても区別が必要だ。これはSECが商品そのものを承認したことを意味しない。提示された条件に沿って実施する限り、SECスタッフが特定の規則について委員会へ執行措置を勧告しないという判断である。正式な規則変更とは法的な位置付けが異なる。

Web3Timesの視点

Web3Timesが今回重視するのは、RWA市場の規模が増えたことではなく、オンチェーン技術がファンド運営のどこへ入り始めたかだ。

これまでトークン化という言葉は、米国債や不動産、ファンド持分をデジタルトークンとして投資家へ販売する文脈で語られることが多かった。しかし金融市場の基盤を変えるには、商品をトークン化するだけでは足りない。購入、償還、担保、照合、カストディー、名義管理といった日々の業務まで新しい台帳へ接続する必要がある。

今回のフランクリン・テンプルトンの事例では、その入口が現金管理だった。既存の登録ファンドが余剰資金や証券貸付担保をオンチェーン型マネーマーケットファンドへ移し、その持分をブロックチェーン統合型の記録基盤で管理する。投資家から見えにくい部分だが、資産運用会社の日常業務へオンチェーン処理を定着させるうえでは重要な変化となる。

次に見るべきなのはBENJIの残高だけではない。同様の仕組みが系列外のファンドへ広がるのか、担保管理や決済へ用途が拡張されるのか、そして他の資産運用会社が同じようなカストディー設計を採用できるのかである。RWAの次の段階は、商品をブロックチェーン上へ載せる競争だけでなく、従来金融の管理実務そのものをどこまでオンチェーンへ移せるかという競争になりつつある。

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